伏魔殿で踊れ 8
17 謀略渦巻く峠道
捕虜の尋問が終わり、必要な情報が出揃った。未明の大勝利の直後にも関わらず、いまだ厳しい状況に一同は頭を抱える。
「敵の残存戦力は2万2千か。対する我らは新規加入を含めて7千8百。今だ厳しい戦力差ですなぁヴェラン卿。」
「さらに言えば敵の魔術連隊2千が無傷で残っておるのがネックですのぅ。奴らは王国の魔術連隊をあたかも私兵であるかのように扱っておりましょう?あの強大な遠距離攻撃は厄介ですぞ。我らにはあれほどの火力はありませんからなぁ。」
「何にせよ頭が痛い話だ。何か秘策はございますか、ヴェラン卿?」
まともにぶつかっては敵に斬りかかる前に全滅するのがオチだ。いかに精強さが売りの小貴族といえども大規模魔術の前には手も足もでない。するとマリーが居並ぶ兵を前に重い口を開いた。
「はい、魔術連隊の攻撃自体を無力化する手立てがございます。」
「何と!まことでありますか?」
「ですがそのためにもわれわれ全員が決死の覚悟で戦い抜く必要があります。たとえ話ではございません、文字通りの意味です。」
マリーは引き締めのためにも覚悟を確かめるように問いかけた。
「無論。儂らは元よりそのつもりよ!」
「今度こそ腕が鳴るのぅ。」
「皆様を試すようなことを申し上げて失礼いたしました。ではこれより我が父クロードが最も得意とした戦法で敵を討ちます。」
「お聞かせ願えますかな?」
一同息を飲んでマリーを見守る。すると側に控えていたユーキが筒状に巻かれたものをマリーに手渡した。マリーはそれを開きながらおもむろに口を開いた。
「それではこちらをご覧ください。」
「まさか?いつの間にこんなモノを築いたのだ!」
「なんじゃコレは?今まで見たことも聞いたことも無いぞ!こんな事をよう考えつくのぅ。」
「馬鹿言え!考えついてもこんなデタラメなこと誰もできゃぁせんわい。げに恐ろしきはヴェラン卿よ。」
見取り図を見た貴族たちは今まで考えもしなかった奇襲方法に舌を巻いた。
ーーー
ヴェラン討伐のために編成された軍隊が峠の道をひたすら進んでいた。道幅も狭く、その隊列も長く伸びている。騎兵はまだ楽だが、大多数の歩兵はたまったものではない。自然とボヤく声も聞こえて来た。
「何でアウテルダム平野くんだりまで我らが出向かねばならんのだ馬鹿馬鹿しい。わざわざこの険しい峠を越えねばならんから嫌なのだ。」
「まったくだ。あの田舎臭いヴェランの小娘も余計な真似をしてくれたものよ。」
「王都警備隊も法務省の吏員も役立たずばかりよな。取り逃したあ奴らに責任を取らせればよいものを。」
「まぁこの鬱憤も大暴れして晴らせばよかろう。奴らの領内では街でも村でも分捕り放題よ。」
鬱憤晴らしに好き放題な事を話していると、後ろの方が騒がしくなっていることに気づいた。
<ズドドドド>
「な、何事か?」
「おい、見ろ!先ほど通過した切り通しが崩れておるぞ!」
「馬車が転落した!」
「こっちも生き埋めだ!」
峠道が寸断されるという突然の出来事にパニックが生じていた。こうなるともはや進軍どころの話ではない。被害のあった後方に気を取られていると今度はそこら中から悲鳴が聞こえ始めた。
「うわぁっ!」
「てっ、敵襲!」
「こんな数どこから湧いて出た?えぇい、斥候は何をやっておったのだ!」
「囲まれたぞ!後続は来んのか?うぎゃぁ!」
気がつけば峠道の斜面や切り立った側面から音も無く現れた兵士に囲まれて襲われていたのだ。狭い中での乱戦で槍を構える隙間も無いため、次々に切り倒されて行く。囲まれてすし詰め状態の討伐軍はロクに武器も構えられないまま右往左往してはトドメを刺された。
「どけぃ!進めんではないか。」
「魔術連隊はどうしたのだ?」
「こんな乱戦では味方の我らも巻き添えを食うぞ!当てにはできん、くそっ。」
「こんなところでは自慢の大兵団も展開できまい。」
「ふははは、寸詰まりの後続なんぞ何の意味も無いわ。貴様らはここで終わりぞ!うぐぁ!な、何をする?ぐわぁ!」
数において敵を圧倒していても兵を展開する場所もなく、互いが反撃の障害になる状況は一方的だった。しかし押しているはずの小貴族たちから悲鳴が聞こえて来る。
「う、裏切りだぁ!裏切り者がいるぞぉ!」
「貴様・・・、サイオン!」
「はっはっは、儂だけでは無いぞ!」
見ると先の殲滅戦で新たに加入した兵士たちが王党派を背中から切りつけていた。討伐軍と挟み撃ちに遭い、バタバタと仲間が倒れていく。そんな中、まさかの一言が戦場に轟いた。
「やったぞ、ヴェランを仕留めた!」
「何ぃ!どこだ?ヴェラン卿を探せ!」
「あっ、がはぁ!」
「はぁっ!悪く思うなよヴェラン、お前の首を持ち帰れば俺も晴れて大貴族の仲間入りだ。」
マリーは突如マール男爵の不意打ちにより背中から一突きにされていた。マリーを守るために周囲の仲間が必死に迫り来る敵を排除するが数が追いつかない。正面を守るだけで手一杯になり、救助に向かえない絶望的な状態だった。だがマリーの首を狙う裏切り者たちもマールに加勢しに行ける状態ではなかった。裏切りに気づいた王党派たちが一斉になだれ込んで来たのだ。
「早く首を落とせマール!このままでは持ちこたえられんぞ。」
「うぅ、父・・・うぇ。」
「死ねぇ!」
マールの凶刃が迫る。マリーは自らの死を覚悟した。




