伏魔殿で踊れ 13
22 凱旋
荘厳な扉がうち開かれるとそこにはアンリ5世が鎮座する玉座の間だった。今回は貴族の列席は無く、居並ぶ近衛兵のみが王党派の領主たちを歓迎していた。
「ヴェラン、よく参ったな。朕は待ちかねておったぞ。」
「はっ!ありがたきお言葉。」
「許す。何なりと申せ。」
「この度は、陛下の国庫を食い荒らすネズミどもを引っ立てて参りました。何卒厳正なお裁きのほどを。」
マリーが国王に報告を終えると後ろから縄で縛られた2人の男たちが国王の前に突き出された。
「おい、早く歩け。」
「おお、しばらく見んと思えばアードラーとジュナンではないか。ははは、何だそのナリは?」
「こ、国王陛下!こ奴らは我らを脅し、嘘八百を自白させたのです。どうか我らを解放し、こ奴らをお裁きください!」
「これは反逆だ。恥を知れヴェラン!」
アードラーが国王に助けを求めると、ジュナンも一緒になってマリーを糾弾して見せた。しょせん国王は七侯爵によって仕立てられた傀儡、王宮における国王は侯爵の要求を飲むはずだと高を括っていたのだ。それを聞いた国王は芝居がかって額に手を当てた。勝利を確信したアードラーとジュナンは目をあわせるとお互いにニヤリと笑みを浮かべる。
「ふむ、朕もその件については頭を悩ましておっての。」
「では、さっそく枢密院にて。」
「ん?お前たちは聞いておらなんだか。」
「何を・・・、でございますか?」
国王の反応が自分たちの想定と異なることに一瞬頭が真っ白になる。何が起こったのかアードラーは即座に理解ができなかった。
「枢密顧問官はアードラーとジュナン以外、職を辞して自領へ帰ってしまったのだ。仕方ないので新しい枢密顧問官は公爵たちが取りしきっておるよ。」
「な、何ですと?」
「馬鹿な、儂らの居ぬ間に。お、お待ちください。」
「待てと言うてものぅ。もう決まったことじゃし、朕にはのぅ。」
国王はわざとらしく困り顔を見せる。取り乱すアードラーに代わって、おそるおそるジュナンが国王に問いただす。
「何が決まったのですか?」
「お前たちの解職じゃ。」
「謀略だ。侯爵を敵に回してただでは済まんぞ!」
国王の言葉にアードラーは怒り狂って叫んだ。
「ああ、そうそう。お前たちはいろいろ告訴されておるから、牢に入ってもらうぞ。国家反逆罪のおまけ付きじゃ。」
捕虜として帰る前からトントン拍子で決まったにしてはあまりにも早すぎる展開にアードラーは頭をフル回転させる。告訴にしても何の尋問もなく証拠が集まるはずもない。むしろ都合よく証拠を流せるのは同じ不正を働いて来た同輩しか思い当たらなかった。
「分かったぞ、おのれぇミストめぇ!あのヒヒじじいっ、儂らを売りおった!」
「あぁぁぁぁ。」
「おぉ、アードラー。お前は聡いのぅ、察しの通りじゃ。あ奴はお前たちの首を差し出して逃げよったぞ。」
「くそぉ、くそったれがぁぁぁ!」
ようやくアードラーは全てを理解した。おそらくミストは自らの保身のために国王と裏取引をしたのだ。一方でジュナンはもはや悲鳴とも泣き声ともつかない声で弱々しくうめいていた。
「追って沙汰はあるが今の時点で決まっておることだけ伝えると、アードラー・ジュナン両家はお取り潰しのうえ財産も全て没収する。」
「あぁ、待ってくれ。頼む、それだけは。」
「見苦しいぞ、アードラー。そ奴らは引っ立てい。達者でな。」
玉座の間の扉が閉じられると国王の側に控えていた青年が歩み寄り、ひざまづいて国王に要望した。
「陛下。ぜひ私めにヴェラン卿へのご挨拶をさせてください。」
「おお、そうであったな。すまぬ、シャルル。ミシェルもな。ヴェラン、この二人がお前に挨拶をしたいそうだ。」
すると20代後半と思しきシャルルと10代前半のミシェルがマリーの下へと歩み寄って行った。
「はじめましてヴェラン卿。私はシャルルだ。よくぞ私たちのために一族で戦ってくれた、あらためて感謝する。」
「私は弟のミシェルです。クロードやアベルのことは国王陛下よりお聞きしております。私たち兄弟を解放してくれてありがとう。」
「もったいなきお言葉、必ずや父や兄も喜んでいることと存じます。ご無事で何より。お初にお目にかかります閣下。クロードの娘、マリーにございます。」
「この2人が晴れて解放されたのだ。忠義の戦士たちがおる前で儂も宣言しようではないか。ここにおるシャルルが王太子じゃ。」
国王の宣言に玉座の間が騒然とする。今日この日まで立太子が行われなかった異常事態も、この宣言をするためだった。
「おおっ!」
「ヴェラン卿の話は本当だったのだな!」
「シャルル、朕に代わって政をなせ。摂政として枢密院を監督せよ。ミシェル、お前は枢密顧問官として兄を補佐せよ。」
「はっ、我ら一命を賭してその大任を拝命いたします。」
「うむ、お前たちもよくやってくれた。このアンリ、心から感謝する。これからシャルルのことを支えてやってくれ。」
「「はっ!」」
国王は居並ぶ王党派の前で宣誓するように今後の体制を知らしめた。シャルルを盛り立てろとの強い意志が示されたのだ。
ここで終われば何世代にも渡る語り草であったろうが、何やら国王がチラチラと辺りを見回している。何かこちらからのリアクションを求めているのかと王党派がざわつき始めると国王が口を開いた。
「ところでソーマはおるか?」
「陛下、実はユーキ・ソーマは城下をうろついておりまして。」
申し訳なさげにマリーが事情を説明すると、国王の顔がみるみる険しくなっていくではないか。なにやら雲行きが怪しくなってきたようだ。
「何ぃ?姿が見えんと思えば何をやっとるんだアイツは?王都にあって朕に挨拶も無しとは大馬鹿者め。お前たちさっさと連れて来んかぁ!」
「「はっ!」」
ポカンとしていた一同は国王からの一喝に玉座の間から転げるように飛び出して行った。




