伏魔殿で踊れ 終
23 エピローグ
「話せばわかる。・・・な?」
「問答無用!」
「放せー!うおーっ!」
あれから勇騎は出店を回ってハヤテと食べ歩きしているところを王党派に捕縛されてただちに王宮へと連行されたのだった。ハヤテはマリーと共に食べ歩きを継続するそうだ。裏切り者め!
せっかく一世一代の芝居を打ったのに、それを勇騎が見ていなかったのが国王はどうにも気に入らなかったらしい。あれから延々とやりとりを聞かされ続けていた。国王もようやく落ち着いたので勇騎も自分の話したいことを話し始める。
「結局、侯爵を全部潰せなかったなぁ。」
「まぁ、誰の反対を受けることなく3侯爵家を処分できるのだ。十分ではないか。徹底的に叩き潰そうとすれば外患誘致されて王国を滅ぼすのがオチというものよ。」
「え?ジュナンとアードラーだけじゃないのかよ。」
「今回の討伐軍で総大将をやっておったスニールは査問する手はずだ。最低でも所領の大部分を没収されよう。ふははは。」
七侯爵家だけで王国の五分の一の面積を領有している。日本でたとえるなら北海道をまるまる握っているような王国設立以来の強大な家柄だ。それが今回の一件でかなり力を削減される。どうせ水面下では汚い駆け引きでもしていたに違いない。まったくもって油断ならねぇ親父だ。
今回の武功に対する褒賞として下賜される土地を除いても、接収した土地の大部分が王家の直轄領となる。無傷で残った四侯爵家に匹敵するような経済的背景を国王が手にすることになったと言えよう。首都の領主程度の存在から一気に力をつけてしまったので、なんだかんだ結局は国王の一人勝ちだ。この王国の歴史の針をものすごく進めてしまった気がしないでもない。
「悪人顔で笑うよなぁ。あんたマリー以外にも七侯爵を焚きつけただろ?今回あんたの手のひらでさんざん転がされたよ。すげぇな、王族ってのは。」
「ふんっ、儂とてなりたくてこうなったのではない。こうならねば生き残れぬのがこの世界よ。って、何を言わせるのだ馬鹿たれっ。」
思えばアンリも政治の舞台では誰一人仲間がいない状態で戦って来たんだ。周りは敵だらけってのは、ある意味で俺に似てるわな。なるほど生き残るための戦いか・・・、上等じゃん!
「はっはっは。だが、これ以上はあいつを翻弄しないでやってくれよ。父親も兄貴も失ったんだ、頼むよ。」
「そうか。儂らのために犠牲になったことは報いねばならんな。儂も全力を尽くそう。」
このような権力闘争に何度も引き込まれては生き残れない。勇騎はアンリから言質を取らずにはいられなかった。それについてはアンリも思うところがあるのか、真摯に受け止めたようだ。
「これからシャルルは大丈夫かい?」
「あぁ、儂よりしっかりしとるよあ奴は。儂は来るべきあ奴の治世ために侯爵どもの勢力を削いでやったのだ。できねばそれまでの男だったということよ。」
「ところで自分の息子たちは良いのかね?」
「ああ、器ではないからなぁ。侯爵どもに饗応されてその気になっておる者もおったくらいだ。とても王国を任せられんよ、ちゃんと言い含めておる。」
「うーん、厳しいねぇ。」
「厳しいことあるか。権謀術数のリズムで踊らされる苦しみから解放してやったのだ。これも親心よ。」
世の中、そんな親心もあるとは知らなかった。でもいろんな人間を見てきたアンリだからこそ、その眼力で見定めた事実には有無を言わさぬ程の説得力があった。そう、あの悪魔のごとき目だ。
「で、お前はどうなのだ?王都で暮らす気は無いか。」
「王都は魅力的だけどたまに来るくらいが丁度いいや。さっき言ってた叙爵とか所領付与とかは止めた方が良いと思うよ。」
「そうか?お前を手駒にして使い倒してやろうと思うとったのに残念じゃ。」
「おいっ、本音だだ漏れだぞ!少しは隠せ!」
「お?そうか、すまんすまん。でも月に何度かは必ず遊びに来い。儂には友人が少ないのだ、これは王命だぞ。」
「そんな変なところでむき出しの権力なんて使うなよ。でも遊びに来るぜ!ところで、そこにあるのは何だ?もしかして・・・」
血で血を洗う権力闘争が終わってもアンリやシャルルはこれからも暗闘を繰り返さざるを得ないのだろう。腹は黒くてどうしようもないのに根っからの悪人ではないとは。どうも憎めない奴だ。市井のゴブリンには王たる者の孤独をわかってやることはできないが、せめて話くらいは聞いてやろうと思うのだった。




