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第28章

 王女と臣下として出逢った二人は、

 いつしか立場を超えて惹かれ合い恋人同士になった。

 キスを奪われ傷ついたリシェラを優しく包み込み

 守ったディアンはリシェラにとってたった一人の王子さまだった。

 19歳の誕生日を迎えたディアンは凛々しく成長し、

 リシェラの隣に立つのにふさわしい存在になった。

「おめでとう」

 リシェラは父の言葉に笑顔で答える。

 母は涙まじりの笑顔を浮かべていた。

 国王と王妃、そして両親として尊敬している二人。

 ジャックは近い席に参列している。

 相変わらず一人ではあるがパートナーがいるとも

 ディアンは聞いていた。

 特別に招かれたディアンの生家の両親と、

 セラの伯爵家の母も来ていた。

 そしてかつての因縁の相手であるザイスもいる。


「出逢えたことは奇跡で永遠なの」

「はい」

 手を取り合い歩く。

 リシェラの赤い髪は先祖であるアリシア女王と同じだ。

 金髪に変わらなかったが、王族である証である髪色であると

 知り愛着がわいた。両親の髪色と違うことを

 悩んでいたことも杞憂だった。

 ディアンが引き取られた伯爵家のジャック・トリコロールは

 かつて王妃セラと幼なじみで許嫁いいなずけだった。

 リシェラと共に貴族の学校に通い共に学ぶディアンは、

 貴族としてのたしなみや教養を身につけた。

 あと一年、学園で学び二人は卒業し晴れて伯爵家で一緒に暮らすことになる。

 二人はその日を待ち遠しく思っていた。

 それまでは、通い婚だ。

 リシェラが伯爵家で過ごす日や、ディアンが城で過ごす日がある。

「ディアン、何を考えていたの?」

「あなたとの日々を思い返していただけです」

 顔を見合わせて笑う。

 二人共同じタイミングで笑うことが増えた気がしていた。

「あの方、来てくれてますね」

「お元気そうでよかったわ」

 テーブル席に座りひらひらと手を振ってくる姿には

 吹き出しそうになる。

 外遊の旅から帰ってきたザイスは、

 来年度から学園の教師になるらしい。

 リシェラとは従兄妹同士という関係のため、

 招かれたが招待することに国王夫妻は最後まで反対した。

 彼が引き起こした事件は、公にはなっていないが

 リシェラは心と身体に傷を負った。

 一年以上前のことだ。

 彼を呼ぼうと提案したのはリシェラで、

 ディアンは反対しなかった。

 二人が恋を自覚し仲が深まったのは彼のおかげもあるからだ。

 外国に旅立つ時、見送ったリシェラは、

 ザイスを抱擁した。

 その時、憎しみが情に変わったのだと思っている。

 ザイスが来てくれたことは単純にうれしかった。

 控え室にお祝いの品をたくさん持ってきてくれ、笑顔で

 二人を祝福した彼を今更憎めるはずがない。

 リシェラは従兄妹のザイスに笑顔で手を振っているが、

 ディアンは笑顔が引きつりかけていた。

(……あの顔、腹が立つ!

 甘酸っぱいキスの次を奪っておいて涼しい顔で

 結婚式に来るなんて。いや心が狭いか。

 あいつは愛し方を間違えた。

 そのせいで元々高い身分にありながら選択肢から外されたんだ)

 リシェラは芯が強いが、ディアンは

 守るべきものができて弱くなった。

 嫉妬深いし全部独占したいと思うのは当然で、

 心の中では色々な思いが巻き起こっていた。

 指輪をお互いの指にはめると気分が高まる。

「誓いのキスを」

 意識したのかリシェラの顔は朱に染まったが、

 ディアンは冷静だった。

 素晴らしいタイミングだと内心は踊りだしたい気分だ。

「デ、ディアン!?」

 背を屈める。

 リシェラの頬に手を当てて顔を近づけた。

 影を重ねる。

 一瞬が永遠に変わる魔法だ。

 ふわり、と溶けるキスを交わし見つめ合う。

 ディアンはリシェラの耳元にささやいた。

「愛してます」

 ぐっ、と肩を掴む。

 特に指示はないが、ディアンはリシェラに身を寄せ

 さきほどより深いキスをした。

 吐息が漏れる寸前で唇を離す。

 リシェラは目を潤ませて夫となったディアンを見上げた。

「ば、ばか!」

「愛の深さの証明になったでしょ」

 会場内にはどよめきが起きたが、すぐに拍手に変わる。

「ディアン、やるなあ。

 本当にキスより先には進んでないのかな?」

 面白がるジャックの声が聞こえてきてリシェラは思わずディアンの足を踏んだ。

「……っ!」

「ディアンのせいで、ジャックお義父様に

 変なこと言われたじゃない」

「あの人の悪ノリは通常営業ですよ」

 ディアンはおかしそうに笑う。

 足を踏まれても痛みなど感じていなかった。

 リシェラが恥ずかしがるのも無理はないが、

 勝手な想像をされただけだ。

 気にすることはない。

「リシェラさま、そんなに動揺していたら

 今夜はどうするんですか?」

「ど、どうもしないから」

 ディアンはリシェラを愛し気に見つめていた。

 ホールからバルコニーに出て花を投げる。

 受け取った女の子は、笑顔で手を振っていた。

「おめでとうございます」

 リシェラは、大きく手を振り彼女に応えた。

 

 リシェラはその夜、ウェディングドレスを

 侍女の手を借りて脱いだ。

 宝石が飾られたヴェールも全部外すとすっきりとした気分になる。

 この重たいドレスを着て晩さんの席にまで出たのだ。

 窮屈であまり食べられなかった。

 ディアンは、何度となく綺麗やかわいいとほめたたえ

 人が見ていない隙にキスと抱擁をしてきた。

 甘いデザートも食べているし、

 そろそろ甘さで胸がもたれてきそうだ。

 結婚式なのに雰囲気ムードもないリシェラは、

 運ばれてきたバスタブと隣にいる侍女を見比べた。

「一人で入れるわよ。

 そういうの嫌いだって知ってるでしょう」

「しきたりですから!」

 しきたりと言われると仕事を奪ってはならないと思う。

 リシェラの側仕えの侍女は、ドレスの次に

 下着を脱がせにかかった。

 リシェラの気持ちを考えて一番親しい侍女の

 一人が、結婚式の仕上げに駆り出されたのだった。

「わがまま言ってごめんなさい。

 本来なら休んでいる時間なのにありがとう」

 殊勝な態度になり礼を伝える。

「素敵な夜を過ごせますように」

 身体を洗われ、香油をべったり塗られる。

 白い粉まではたかれて困惑した。

(17歳になったんだから、大人の女性として冷静に)

 夜着は特に変わったものではなくいつもと同じだ。

 こんな格好でディアンと過ごしたことはないから、

 緊張するだけだ。

「ジャックさんにキスの先とか

 変なこと言われたのよ。失礼しちゃう」

「……ピュアで健全なお二人ですもんね」

 改めて言われると恥ずかしくなる。

 侍女に悟られていて羞恥心が増すが、 

 最近ディアンから感じる雰囲気が昔とは変わったのに気づいた。

 可愛いのに男っぽさにも惹きつけられる。

「ディアンはリシェラさまを本当に大切にしてますよね」

「本当にやさしいの」

 使用人たちはディアンが城で働いていたころから

 知っていて、彼の人柄もわかっていた。

 最初は態度もよくなくて倦厭されていたが、

 一年もする頃には皆に親しまれていた。

「今日の日を迎えられたのは、支えてくれた人たちのおかげよ。

 もちろんあなたにも感謝してるの」

 にこっと笑いかければずるいと返された。

「ご無礼を承知で申しますと素直でいらっしゃるし、

 破天荒で枠から外れた王女さまで大好きです。でもあっという間に

 大人の女性になられてお嫁に行ってしまうんですね。

 切ないです」

「ここからは出て行かないわよ。

 卒業するまでは通い婚だもの」

 侍女の手を握る。

「気分の問題なんですよ」

 リシェラは、侍女に抱きつく。

 部屋から彼女が出て行き、息を吐いた。

 緊張で胸が張り裂けそうだ。

 意識すると逃げたくなるから何も考えないようにしよう。

 天蓋からベッドの中にもぐる。

 静寂の中、心臓の音がうるさく感じられた。

 扉を叩く音が大きく聞こえ身体が震えた。

「どうぞ!」

 侍女と別れてからどれくらい経っただろう。

「失礼します」

 律儀に答えた人物が部屋に入ってくる。

 広い部屋の中を衣擦れの音を立てて歩き、

 リシェラのもとにたどりついた。

 シーツの中で丸くなっていたリシェラは、

 大きな手に撫でられたのに気づいた。

「リシェラさまは小さいな」

「っ……何してるの?」

「小さなかたまりを撫でているだけですよ」

 腕を伸ばしてリシェラとおぼしきかたまりを

 撫でている。

 手のひらの動きはどこまでも優しい。

 髪に触れられ、とうとう顔を出してしまった。

「ディ……アン」

「かわいくてつらいんですけど」

「みのむしになってるだけよ」

 ディアンが吹き出す。

 するりとベッドに身を滑り込ませてきた。

 小さくなっていたリシェラを胸元に抱え込む。

 そのたくましさにどきどきがとまらなくなった。

 彼の大きな身体にすっぽりと収まってしまう。

 自分とは違いすぎるのに少しも怖くなかった。

 リシェラは自ら抱きつき頬を摺り寄せる。

 ディアンは背中をぽんぽんと撫でて耳元でささやいた。

「リシェラ……そんなに震えないで。

 こんなお膳立てされた状況は、

 俺も耐えられないんだ」

「……あなたに触れたいし触れられたいとも思ってる。

 どういうことかはわかってるつもりよ」

 顎が掴まれる。

 唇がついばまれて離れる。

 吐息が弾けて宙に溶ける。

 繰り返されたキスはとても甘くて

 身体がじんわりと熱くなるのも感じた。

 髪を撫でる指先は震えている。

「……いつかザイス様に

 あなたを抱きたくなる日が来るって言われた時、

 あいつと同じケダモノになるのは嫌だと思った。

 ですが、純粋に愛していればその気持ちは生まれてくるものなんですね」

「好きな人と身も心も結ばれたいと願うのは、

 当然のことだわ」

「……だからこそ大切にしたい。

 今触れたらきっと歯止めがきかないから」

 ディアンの言葉が胸を撃ち貫く。

 彼はリシェラの夜着の襟元をくつろげ、

 唇を押しつけた。

 赤い刻印だけを残す行為は続いた。

 胸がきゅんとしてたまらなくなった。


 三か月が過ぎた頃、リシェラに思わぬ知らせがもたらされた。

「お母さま、おめでとうございます!」

 気分が高揚し母に抱きつき慌てて離れる。

「ありがとう。リシェラ」

 まだ大きくなっていないお腹を撫でて

 母は微笑んでいる。

「自分の子供より先に弟か妹が生まれてくるなんて

 思わなくて驚いてるの。

 とってもうれしい」

「リシェラたちは、学生だもの。

 もう少し先よね」

「一緒に眠ったりはしてるから安心してね」

 母は呆けたような顔をしたが、

 すぐ気を取り直したらしい。

 耳元に直接言葉を伝えられる。

「二人はまだ?」

 オブラートには包んでいるのだろうか。

「毎日一緒に寝てるわよ」

 リシェラはいたずらっぽく笑う。

 母に真実が悟られているだろうと気づいていた。

 何かの書物で見たような確認が

 行われる王家ではなく周囲に露見することはなかったが。

「戦争に行った子だから、

 理性的なのかしら。そうでもないか」

 首筋に視線が向けられたのを気づき、顔が真っ赤になる。

(首が隠れるドレスにした方がよかったわ。

 誰も何も指摘しないの怖いんだけど!

 そういえば側仕えの侍女にやにや笑われた気もする)

「お母さまのお祝いを伝えてるのに

 からかわれてるなんて」

「あなたたちは本当に可愛すぎて困るわ」

 大人の女性にかなうわけがない。

 いや父も母には弱い。

 19歳だった伯爵令嬢と王宮舞踏会で

 出逢った日に骨抜きにされて今に至る。

「健やかな御子が生まれますように」

 ドレスのスカート部分をつまんでお辞儀する。

 謁見の席にいる父は、妻のことで頭がいっぱいに違いない。 


 同じ頃ディアンは養父のジャックと紅茶を飲んでいた。

「リシェラさまとディアンって、蜜月ハネムーンだよね」

「ぶはっ……」 

 ディアンは頬を赤らめ、紅茶を吹き出した。

 慌てて口元をガーゼで拭う。

「照れすぎ! 初心うぶなんだから」

「思いっきり遊んでますよね」

「大事な息子と花嫁が、仲睦まじい様子で

 とても喜ばしいね。

 リシェラさまがこの屋敷で過ごす時も

 二人の間には甘い時が流れててこっちまで

 ドキドキするよ。若返りそう」

「十分、お若いです」

「孫が成人するまでは生き延びたいな」

(孫か……)

「あなたはそんな簡単に死なないでしょ」

「……初めての人が永遠になるなんて

 奇跡だよ。大事にしてる君は本当にいい男だ」

 父となった人は綺麗な顔で笑う。

 彼の悲しい過去を知るものとしては

 より幸せになろうと思う。

「そうですね。幸運です」

「……リシェラさまといつまでも初々しくいてね」

 何年経とうがこの関係は変わらないのだろう。 

(じゃれ合いも嫌いじゃないんだよな。

 父になってくれたのが彼でよかったと思う)


 華やかな結婚式から一年半が過ぎた。

 リシェラとディアン卒業の日を迎えた。

 恋人同士として入学し、結婚した

 世紀のカップルは皆からあこがれの的だった。

「ディアンは自分の運で道を切り開いたんだね」

「周りの方々がよくしてくれたおかげ。

 本来ならリシェラさまと両思いに

 なれることもなかったのかもしれない」

「結婚しといてよく言うよ。

 こっちは舞踏会でお相手を見つけるのに

 必死なんだから」

「頑張って」

 ディアンは級友の肩を叩く。

 貴族の家に生まれていたらディアンも

 舞踏会で結婚相手を探すことになった。

 奇跡の二人は縁起がいいと二人は、

 学園中から騒がれた。

 卒業式が終わっても中々帰路につけなかったが、

 仕方がないことだっただろう。

 今までの前例がなかったことを成し遂げるに

 至ったのは、リシェラの母親であるセラ王妃、

 ギウス王、ジャック伯爵のことがあったからだ。

 その逸話を知る者も限られることではあった。

「今日はお城に帰りましょうね」

「はい」

 手を繋いで歩く二人はまぶしいほどの笑顔を浮かべていた。


 その夜二人はリシェラの部屋で永遠を刻んだ。

 指を絡め、お互いだけを瞳に映し、

 秘めやかな甘い夜を過ごした。

「リシェラ……愛してる」

「ディアン……」

 体温が同じになって溶ける一瞬は、

 涙がこぼれて止まらなかった。

 キスや指で頬をたどりいたわる優しさも

 時々強気に翻弄する姿も

 全部のディアンが好きだと感じた。

 リシェラが、切なげに名前を呼ぶ声も

 肩口で浮かべた微笑みもずっと忘れない。

 ディアンも同じくそう思っていた。

「普段も呼び捨てていいんだからね」

「二人で分かち合う時に呼ぶのって特別じゃないですか?」

「……そうかも」

 肩先に腕が回る。

「リシェラ」

「っ……ディアン」

 ディアンの声が艶っぽく聞こえて心臓が跳ねた。





















 























 




 

 







 








 

















 




















下世話……だな。


本編はこれで終わりとなります。

今年中には終われてよかったです。

あと一話くらい番外編を書きたいかもしれない。

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