番外編「王妃と王と伯爵のお話」
短っ!
最新更新話までご覧になったうえで。
これはうっすら考えていました。
将来的にはリシェラの負担が軽くなるのかな。
グリンフィルド王家に嫁いで何年も経った。
嫁いだ年に授かった娘は、立派に成長した。
失ったものは、胸を引き裂き
痛みで悶えたことは何度もある。
決して泣けなかったから、瞳に憂いをにじませてしまった。
あの子が、寂しい瞳をしていても
気遣えなかった時もある。
陛下……私が愛した二人目の人は、
私の弱さを受け入れすべてを抱きしめてくれた。
悲しみが憎しみに変わらず生きてこられたのは、
彼の愛を感じられたからだった。
リシェラがあんなにもいい子に育ったのは、
王のおかげ。
次代の子を産む責務を果たし、この場所で生きていく。
心は明け渡さない。
野望と同義の決意を秘めていた日の私は、
どこにもいない。
共にお茶を飲む。
それが常となったのはいつからだろうか。
家老のギブソンが淹れてくれたお茶は、
どちらの好みもしりつくしていてとても美味だった。
昼下がりのサンルーム。
与えられている王妃の私室に備え付けられた場所は、
あたたかな光が降り注いでいた。
部屋から繋がった場所は奥にも窓があり、
そこから城下を望むことができる。
「陛下……いえギウス」
「これでよかったんだと毎日繰り返し思っているんだ。
セラもそう思わないか?」
「……はい」
相変わらず若々しい夫は、美しくまばゆい。
彼の治世で二度の戦が起きたが、
リシェラとディアンの件もありこの国は変わっていくと
強く感じている。
王位を譲位した後は、新しい時代の女王と王配を影で見守る。
何も不安になることはない。
「私は王妃、母、妻として
ちゃんとできていたかどうか自信はないのだけど」
「あなたはちゃんとしてくれた。
セラがいたからリシェラが生まれたのだし、
この国の王妃として立派につとめてきたよ。
ずっと感謝していたし今も感謝は尽きない」
いつくしむ動きで頬を撫でる。
彼はティアラを外した髪にも手を伸ばす。
「夫として不甲斐なかったのは私だ。
だからこそ懸命に愛して守ろうと思ったのだが」
「伝わってます」
微笑みあう。
手のひらに口づけられるとくすぐったい想いがした。
「ギウスを愛しているのですよ」
「……、セラ」
強く抱擁される。
腕の中で息をついた。
「……私達の愛し子の大切なパートナーを
彼が家に迎え入れてくれてよかった」
「あなたや私が直接頼まなくても
あの方自身で決めて迎えてくれたんですものね」
戦から帰還したディアンは、リシェラと共に
学園へと通うことになった。
仮の身分で貴族の家に養子として迎え入れられたが、
一時ではなく本当の家族とするのを
あの時点で決めていたらしい。
戦の褒章として、伯爵位を授けた時、
彼は驚いていたが断らず家格は子爵から伯爵になった。
「……明日、三人でお茶でもしよう。
実は呼んである」
夫の言葉に小さく微笑む。
私はそっと腹部を撫でる。
「体調は平気か?」
「大丈夫です。いつも気遣ってくださりありがとうございます」
「……本当に嬉しいんだ」
数日前、体調に異変を感じ食欲もない日が続いた私を
ギウスはひどく心配し王医に見せた。
穏やかに告げられた言葉に驚き、次に浮かんだのは喜び。
30代後半になって、こんなことが起きるとは思わなかった。
抱きしめてくれる腕は決して強い力じゃなくて、
安堵できるものだった。
「私も今から会えるのが待ち遠しいです……あなた」
頬に唇が触れる。
まさかの出来事にリシェラは驚くだろうか。
翌日、颯爽としたいでたちで彼ージャック・フォン・トリコロールーは現れた。
「お招きいただきありがとうございます」
会釈をする。
きわめて私的な空間に通されていた。
今日はディアンの父として招待されたのだ。
「よく来てくれたね……ジャック」
柔和な眼差しに臆する必要はないと思えた。
10数年前に舞踏会に招かれた際は、
幾分複雑な思いはあったのは確かだった。
今は何もない。心は凪いでいる。
かつて愛した人が幸せそうに微笑んでいるのを見て
心が自然とほどけていったのだ。
おどけて明るく振舞う自分も
決して嘘ではないしその姿も一部分だ。
「ディアンがリシェラさまと結婚する日が、
思ったより早くてうろたえているんですよ。
やっぱり寂しいというか」
「ディアンはしばらく城と伯爵邸を行き来して
生活するんです。
屋敷から離れるわけじゃないんですから」
セラ王妃は、真剣な顔で伝えてくる。
「もう少し親子二人で過ごしたかったんだろう?」
「その通りです」
意気投合した王と笑い合う。
かつてセラと呼んだ女性はゆるやかに微笑んだ。
少しきつめの面差しは、やわらかい印象になる。
誰よりも綺麗な人は誰よりも美しい王妃になって、
最愛の王と共にある。
「僕も誰か素敵な人を見つけなければ」
「伯爵ならすぐ見つかるのではないか」
「人生は長いし生涯恋愛も現役で」
くすっと笑う。
パートナーができても結婚まで結びつけようという焦りはない。
最愛の息子が愛らしい花嫁を迎えてくれたわけだし、
後継者問題はなくなった。
「ここに呼んでもらえたのが不思議な気分ですね。
これからは親戚になるわけですけど」
家老のギブソンが、お茶を淹れてくれる。
彼のこともよく思わなかったことはあるが昔の話だ。
「リシェラとディアンが繋いでくれたご縁ですね」
「そうですね」
国王が王妃の手を握り時折横目で彼女を心配そうに見つめていた。
もしかして……という現実が、
訪れたのは数か月先だった。
リシェラ王女は、結婚してすぐできた
きょうだいに夫のディアンとともに喜んでいた。
彼女自身が御子を授かるのは、少し先の未来の話だ。




