第1話03
雅鷹が目を覚ましたのは、それから5時間後。
寝すぎたせいで体が重い。
空腹を感じ、下に降りて冷蔵庫を開けた。
鷹尋が雅鷹のために作った料理が並んでいる。
雅鷹はその中からホットケーキを選び、レンジで温めた。
さらにスープを取り出して、コンロで温める。
チーン、とレンジの音を聞き、ホットケーキを取り出した。
きれいな形で絵に描いたようだ。
冷蔵庫からバターとメイプルシロップを取り出して、ホットケーキにかける。
それを切って口の中へ入れる。
少し熱かったが、とけたバターとメイプルシロップがよく絡み、
とてもおいしかった。
雅鷹の口に合うように、少し甘めに作ってある。
完食し、温めた野菜スープを飲む。
野菜のダシがよく取れていて、
ホットケーキとのバランスも取れている。
すべて食べ終わり、食器を流しに出す。
テレビをつけても昼ドラなどしかやっていない。
部屋に戻り机に向かった。
机には幼いころの雅鷹と鷹尋の写真。
写真の自分は無邪気な、子供らしい笑顔だ。
昔は鷹尋がいくら自分よりできた人間であろうが、
それを証明する術がなかったため
周りからも比較されなかった。
いつからだろうか、
2人に差が出来てしまったのは。
いつからだろうか、
2人に深い溝が出来てしまったのは。
いつからだろうか、
鷹尋が全然笑わなくなったのは。
そう考えると胸が苦しくなるばかりだった。
「・・・ちくしょ」
雅鷹は自身のパソコンを開き、”いつもの場所”へ向かった。
そこは雅鷹が毎日通ってるサイト
”Person easily elated”
通称”PEE”。お調子者、という意味だ。
このサイトはチャット部屋であり、
雅鷹は日々あったことをここに記しているのだ。
基本は雅鷹と他の3人で話している。
しかし皆学生なため、今の時間はチャット室には来ていない。
雅鷹がプラウザを閉じよう、そう思った時だった。
『AMDTMさんがご入室されました』
突然入室サインが現れた。
「A・・・M・・・DTM?誰だ・・・?」
このチャット室は自分たち4人しか入れないようパスワードが設定されている。
もしかしたら他の3人の誰かが改名したのかもしれない。
『誰ですか?改名したんですか?』
とりあえず聞いてみる。
しかし返答はない。
少し放置、というのはよくあることなので、雅鷹は続けて聞いてみた。
『黒薔薇さん?白百合さん?日出さん?』
この3人は他の3人のハンドルネームだ。
この中でよく改名するのは黒薔薇さんと白百合さんの2人だ。
どっちかが変えると必ずもう片方も変える。
もしかしたら現実でも友達なのかもしれない。
『AMDTMです』
しかしこのAMDTMという人間は、その3人、どれにも当てはまっていない。
では、何故この部屋がわかったのか。
『この部屋はパスがついてるはず。何で入れたのですか?』
『パスは簡単に破れました。貴方を見ていましたから』
「!!!?」
悪寒がした。
パソコンがハッキングされたりしているのだろうか。
それとも本当に見られて・・・
冷汗が雅鷹の頬を流れ落ちた時その文は現れた。
『貴方の願いは何ですか?』
「は?」
いきなり何を言ってるのだろうか。
こんなよくある王道の漫画のような展開。
「『おっしゃってる意味がよくわかりませんが?』」
怖いと思った自分が情けなく思ってしまった。
『よくわからないとは?願い事があるのではないのですか?』
『別にありませんけど?』
「ハハッ。何言ってんだコイツ?」
願い事なら山ほどある。
カッコよくなりたい、身長が高くなりたい、お金持ちになりたい
弟を見下したい、など。
だけどそれは願って叶うものでもないと雅鷹は知っていた。
願って願いが叶うなら
この世に”努力”なんて言葉はないだろう。
『すみませんが、只今の時刻を教えてください』
遂に時間まで分からなくなったのか。
コイツがこの部屋に来れたのはただの偶然。
見てたと言うのもただのハッタリ。
俺をビビらせるためだった、と雅鷹は思い
『14時38分ですが、大丈夫ですか?』
と皮肉たっぷりに返信した。
”コイツは少し頭がおかしい”
そう判断した矢先だった。
『そうですか。まだそちらでは21時30分ではないのですね。
わかりました。私のミスです。
しかし忠告しておきます。
19時25分44秒、あなたの大切な人がお亡くなりになられますよ』
バカらしくて読む気にもなれない。
漫画の世界だったら確かにそういうことが起こってもおかしくない。
しかし・・・
雅鷹は頭の中に19時25分44秒、
それだけを記憶して、返信をせず、違うサイトへ飛んだ。




