エピローグ
本編(王女と神官)にはあまり関係のない、裏話的な話になります。
ポロン。ポロン。
「『七ヵ月後生まれた王子は、やがて成人して王位を継ぎ、両親の友人夫婦の間に生まれた一歳年下の娘を妻に迎えた。彼の何人かの弟妹たちも、みなそれぞれに幸福をつかんだ。若い一組の夫婦は、齢にして四十にも満たないうちに亡くなったが、その時ですら、彼らの美貌と若さが衰えることはなかったという……。それは彼らが、神の国の守護者である神々に寵愛れたからだとも、また、彼らが神々の化身であったからだとも言われている。しかし、彼らの血はこの地に受け継がれ……神に選ばれた美しい王女と彼女の愛する神官の恋の物語も、果てることはない…………』
これは、昔の話。
今はもうない、神に選ばれた国の王女の話」
銀色の青年は一通り終えると、拍手喝采を受けながら、酒場を出ていった。
後に残った男たちは、長い長いその話を思い起こして、
「……結局、女王と神官を結びつけたのは、ヴァルメーダ神だったのか?」
「それより、どうしてあの妙な神官にそんな力があったんだ?」
「女王様だけに彼の祈りが判ったのは何故だ?」
口々にそういう質問がでたが、答える声はなかった。
しかし、彼らの居る酒場の、はるか頭上では、その質問に答える声があった。
その声の主は、話しに出てきた神官に勝とも劣らない美貌を持ち、銀色の髪と深い青色の瞳をしていた。
彼は何もない空で佇み、下の酒場を見下ろしながら、
「……少し、後押ししただけですよ、私は。見ていて、少し焦れったかったから」
くすくす笑う。
「あの二人はね、結ばれるべきだった。あの、私が祝福を与えた国での、最後の私達の化身だったのですから。いとしい私の妻とのね……」
青年の身体がふわりと、上昇する。高く、高く。
手に持っていた竪琴は光へと転じ、夜の闇に光を添えて、散っていく。
「今宵は精霊祭の日。今は誰も知らない、誰も覚えていない、精霊の集いし日。そして……神の降臨する日……。
……あなた方は想像もしないのでしょうね……。あなた方のいるところが、かつて美しい王女のいたかの国であったことを……神に選ばれた国であったことを…………。
我が友、アルフエールよ」
青年はふと淋しげな微笑みを浮かべた。
「建国のおりの誓約通り、君の血脈が絶えるまで精霊の加護によりこの国は繁栄した。
だけど、君の言う通り、始まりがあれば終わりがあるのはこの世の理。私もそれは否定しません。だからこそ、君の国は滅びた。君の血脈という最大の加護を失って。
……でも友よ。君の魂が還る場所が失われたことは、私と妻にとって魂の一部を無くしたことに等しいことだ。……それでも君は、これも必然のことだと笑うのでしょうけど」
彼はその青い双眸を空に向けた。
見えない何かを探しているようであり、懐かしい何かを思い出しているようでもあった。
でもそれは少しの間だけで、彼はすぐにまたあの華やかな笑みをうかべた。
酒場の明かりと、その喧騒を見やりながら、その姿が夜の闇にすぅっと溶けていく。
―――残るは、光の残照。
「それでは皆さん。
私の物語は楽しんでいただけましたか……?」
<完>
ヴァルメーダ:この世界を司る最高神の一人。
銀髪・青い瞳の青年の姿として現される。海辺の国で広く信仰された神。
友であり、義兄であるアフルエールとの誓約により、彼の国に加護を与えている。
しばしば魂と力の一部を与えた人間(化身)を降臨させている。
アレリー:精霊と人間の間に生まれた娘。
精霊の長であるアフルエールの妹でもある。
ヴァルメーダに見初められ、妻となったことで神格を与えられる。
金色の髪に金の瞳を持つ。
兄の魂が転生するための母体として、しばしばその血脈に降臨すると言われている。
アフルエール:精霊と人間の間に生まれた青年。アレリーとは兄妹。
強大な力を持ち、長として精霊を束ねる。
同時にヴァルメーダから託された大地に住む人間を束ねるために国家を建設。
その初代国王となる。
だが、半分人間の血を引く為に、その命には限りがある。そのため、自分の血に連なるものに精霊の加護を与えるように誓約を立てた。
何代も経て、その血が薄まる頃になると誓約に従って自分の血脈に転生してくると言われている。
ここまで読んでくださってありがとうござました!
本編はこれで完結です。一応。
このあと少し小話を入れたいと思います。
何しろ、エピローグは本編というより裏話的な話でしたからね。
神様サイドのお話というか……。