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三年間遊び歩いていた三男坊、なぜか世界最大級のアルフォード商会を継ぐことになりました ~周りが優秀すぎて、ぶっちゃけ俺の出番がない件~  作者: サトウジョシュア
第一章「俺の出番はないはずでした」

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第九話 客より先に親方が来た

ダリオが王都へ来た。

 銀細工の親方も来た。

「聞いてないぞ」

「俺も港で知った」

 ダリオは疲れた顔をしていた。

 隣の親方は、小さな旅行鞄と、細長い木箱を抱えている。

 襟のついた服を着ているだけで、別人のようだった。

「何しに来たの」

「俺の品が、どう売られるか見に来た」

「工房は?」

「留守番がいる」

「宿は?」

「こいつと一緒でいい」

 ダリオが俺を見た。

「二部屋」

「金がかかるだろう」

「俺が寝られねえんだよ。親方のいびき、壁越しでも聞こえるだろ」

「慣れろ」

「三晩で慣れるか!」

 王都まで来ても、ベルクだった。

*

 展示館の卓へ品物を並べ始めると、早速揉めた。

「その花は手前だ」

「高いのばっか手前に置いたら、客が帰る」

「安いのばかり見せてどうする」

「まず止まってもらわなきゃ始まんねえだろ!」

 親方とダリオが、同じ髪留めを違う場所へ置き直す。

 俺は二人の間へ手を入れた。

「半分ずつ」

「何を」

「親方が見せたいのと、ダリオが売りたいの。どっちを見るか、明日分かるだろ」

 親方は鼻を鳴らした。

 ダリオは少し考え、頷いた。

 とりあえず、卓の上の戦争は終わった。

 俺は卓の正面へ回った。

 銀細工が光っている。

 隣の卓には、大きな看板が出ていた。その向こうには、布を広げた店。さらに先には、ガラスの器を積んだ台。

 目が、あちこちへ行ってしまう。

「……埋もれない?」

「埋もれる」

 ダリオが答えた。

「もうちょっと希望のあること言えよ」

「ここで何もせずに売れるなら、俺も王都へ住むわ」

 親方は鼻を鳴らした。

「見れば分かる」

「見るところまで来ねえと分かんねえんだよ」

 また始まりそうだったので、俺は宿から借りた小さな鏡を出した。

「これ、置こう」

「何に使う」

「髪へ挿したところを見る」

 親方は黙った。

 ダリオが俺の方を見た。

「お前が?」

「客が」

「一回、試せよ。落ちないか」

「俺で試す必要ある?」

 親方が、いつになく素早く髪留めを選んだ。

 抵抗したが、二対一だった。

 鏡の中で、俺の前髪に銀の花が咲いていた。

 通りかかった設営の女が、笑いをこらえきれずに足を止めた。

「明日も、それで立つの?」

「立たない」

「目立つわよ」

「立たないから!」

 ダリオは腹を抱えていた。

 親方は、笑わずに留め金を確かめている。

 真剣にやられる方が、つらかった。

 それでも、通りかかった女は、外した髪留めを手に取った。

「軽いのね。どこの?」

「ベルクです」

 俺が答えると、彼女はもう一度品物を見てから戻した。

「明日、休憩のときに来るわ」

 去っていく背中を、三人で見送った。

 俺は髪を直した。

「ほら、鏡あってよかっただろ」

「よかったのは、お前の頭だろ」

 否定できなかった。

 親方が持ってきた細長い木箱には、今回の注文品にはなかった髪飾りが入っていた。

 花びらを幾重にも重ね、真ん中に薄い青の石を抱いている。

「これ、すごいな」

「まあな」

「いくら?」

「それは見本だ。売らん」

 ダリオが天井を見た。

 俺は聞かなかったことにして、そっと元へ戻した。

*

 その日の夕方、俺たちは近くの食堂で飯を食った。

 ダリオは王都の値段へ文句を言い、親方はパンの硬さへ文句を言った。

 それでも二人とも、皿は空にした。

 親方が杯を置いたところで、俺は聞いてみた。

「前の買い手、金払わなかったって?」

「誰に聞いた」

「ダリオ」

「おい」

 ダリオが俺を蹴った。

 俺は蹴り返した。

「だから、気になるのかなって。どう売られるか」

「……あいつは、売れたら払うと言った」

「売れなかった?」

「知らん」

 親方はパン屑を指で集めた。

「店へ行ったら、もう閉まってた。持っていった品もなかった」

「それは、ひどいな」

「よくある話だ」

 そう言って、親方は杯へ手を伸ばした。

 よくある話なら、平気なのだろうか。

 そんなわけがない。

「今回は、ダリオが買ってる。そこは大丈夫だから」

「分かってる」

「俺も、勝手に安くしない」

「分かってると言ってるだろ」

 親方は不機嫌そうに言ってから、鞄から小さな紙を出した。

 品名と、作れる数と、かかる日数が書いてあった。

「聞いてこいと言っただろう」

「これ、全部?」

「作る順番で変わる。だから、勝手に約束するな」

 俺は紙を受け取った。

 雑な字だったが、細かかった。

「助かる」

「なくすなよ」

「クローディアに渡す」

「それがいい」

 ダリオまで頷いた。

 俺の信用は、妙なところで低い。

*

 屋敷へ戻ると、クローディアが明日の服を用意していた。

 動きやすい上着と白いシャツ。

 礼服ほど偉そうではなく、旅先の服ほどくたびれてもいない。

「ちょうどいい」

「お荷物もお持ちになるでしょうから」

「よく分かるな」

「この数日で、よく分かりました」

 俺は上着を羽織った。

 クローディアが袖を確かめ、襟を整える。

「明日、来てくれる?」

「そのつもりでおります」

「よかった」

 思ったより素直に口から出た。

 彼女が顔を上げた。

「ご不安ですか」

「少し。客が来なかったら、親方が王都の悪口言いながら帰る」

「それは困りますね」

「ダリオも金使って来てるし」

 鏡の中の俺は、上着だけまともだった。

 中身まで変わったわけではない。

 クローディアは袖を整えていた手を止めた。

「ます様が、あの方たちのお品を最初にご覧になったとき、何をお話しになりましたか」

「どうやって作るのか、とか」

「明日も、お客様からそう尋ねられるかもしれませんね」

「うん」

「では、その方とお話しなさればよいのでは」

 俺は少し考えた。

 上手に売る方法は知らない。

 でも、親方の仕事の話なら、何度も聞いた。

「それなら、できるかも」

「ええ」

 彼女は俺の胸元を軽く払った。

「よくお似合いです」

「服が?」

「服も」

 返事を考えているうちに、クローディアは扉へ向かっていた。

 ずるい。

 最近のこの人は、言い逃げがうまい。

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