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物語ノ余白  作者: 丹夢
非日常のある日々
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32/40

32. 乗客

 市立図書館が改装されてから、平日でも空いている席を見つけるのが難しくなった。

 今日は少しでも早く着こうと、彼女は始発のバスに乗った。

 何しろ、窓側の席は一番取りにくいのだ。

 郊外から市街地へ向かう路線だからだろうか、車内にはほとんど人がいなかった。

 そのため、彼女はバスに乗り込むと、すぐに最後列に座っている人に気づいた。

 その乗客は大きなサングラスをかけ、全身黒い服を着ていた。

 銀白色の短い髪が、ひときわ目を引いた。

 彼女は無意識に、その人を何度かちらりと見た。

 ふと車内のバックミラーに目を向けると、鏡の中の最後列には、人影がひとつも映っていなかった。

 『市役所前、到着です。』

 図書館近くのバス停で彼女が降りると、あの「乗客」もバスを降りた。

 二人は同じように、図書館のほうへ向かって歩いていった。

 一階のロビーへ入ったとき、彼女はその人が「ただいま」と言うのを聞いた。

 その声と同時に、何かが落ちる音がした。

 少し厚みのある一冊の本が、床に落ちていた。

 彼女は呆然とその本を見つめた。

 表紙は古びていて、角も少し擦り切れている。

 そして、先ほどの奇妙な「乗客」は、もうどこにもいなかった。


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