02. 黒い影
今夜もまた、雨の夜だった。
雨粒がガラスを伝い、ゆっくりと滑り落ちていく。
少女は手の中にある、しわだらけで文字がほとんど読めなくなった古いレシートを裏返した。
裏には、少し歪んだ文字で一言だけ書かれていた。文末には、小さな笑顔のマークが添えられていた。
――外は雨だよ!ちゃんと傘をさして、また雨に濡れたりしないようにね:)
少女は手の中のレシートを見つめたまま、苦いブラックコーヒーを最後の一口まで飲み干した。
外では雨脚が強くなっていた。
少女は傘をささず、静かに雨の中へと歩き出す。
しばらく歩いたところで、不意に、雨に打たれなくなっていることに気づいた。顔を上げると、黒い人影が隣に立っていた。
「今日、やっと来てくれたんだね?」
少女は微笑みながら、小さな声でそう話しかけた。
人影は何も答えない。
ただ静かに黒い傘をさし、もう片方の手で前方を指し示す。その仕草は、立ち止まらずに進もうと促しているようだった。
少女はその反応に小さく笑うと、人影の肩を軽く叩こうと手を伸ばした。
しかし、その手は空を切った。
少女は一瞬目を見開き、そっと手を下ろした。そして、人影が差す傘の下で、再び歩き始めた。
そうだった。
また忘れてた……。
二人は、触れ合うことができないんだった。




