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メイナとルイセは南風伯の研究所に戻ってきた。
「また失敗した…」
憂鬱にうつむくメイナにルイセが意を決して
「姉さん、これ…」
野生機械の卵だと知って、レナという子に会って、ずっと悩んでいたが、姉の姿を見てはいられなくなったルイセは、スカーレット・ジェムを手渡す。
「これは…」
『どうしたの?』聞こうと思ったがやめた。ルイセも何も話さなかった。
メイナはまたルイセを部屋に残して、南風伯への面会に向った。
スカーレット・ジェムの入手を知って、南風伯はメイナの事をそれほど咎めなかった。
嬉々として、事前に用意してあった機械にスカーレット・ジェムを組み込み、動作させる。スカーレット・ジェムから強い光が放たれる。しかし、テレポートは出来なかった。深紅の宝石は、苦痛を訴えるように明滅を繰り返す
。「はは…ふははははは!成功だ。『野生機械の楽園』の方角が判明したぞ。はーはっはっはっは!!!」
南風伯の笑いがこだました。
「メイナ、準備は整っているな?すぐに発つぞ」
「今回は…ルイセは置いていきます」
「なに?」
「これ以上ルイセを苦しめたくはありません。エルムには近づけない約束です」
「ふん、勝手にしろ」
ルイセは、どこからか聞こえてくる苦痛の悲鳴に耳を塞いだ。しかし、耳を塞いでも、ベッドに潜り込んでも、悲鳴は絶え間なく聞こえてくる。
部屋に一人、恐怖に怯えながら姉の帰りを待った。しかし、姉は戻ってこない。
『姉さん、助けて。助けてよ』
恐怖を追い払うように必死に姉の姿を思い浮かべる。澄まして、少し怒ったような姉の顔。いつもそばで守ってくれる姉の顔。しかし、一瞬その姿が薄れ、ティーエと一緒にいた少女の姿が浮かぶ。全てを受け入れてくれるような、やさしい笑顔。
「もう友達だね」
そう言ってくれた笑顔。
「やっぱり僕、間違っているよね」
おなじ過ちを繰り返してしまった事への後悔の念が膨らんで抑えきれなくなる。
「あの子ならどうするだろう」
そんな思いがかすめた瞬間部屋を飛び出していた。ただ、苦痛の悲鳴から逃げ出したかっただけかもしれない。
しかし、本当はどうなのか自分にも解らない。こぼれる涙を拭いながら懸命に走る。行き先は、解らないが力の限り、夜の闇の中を走った。
レナが寝静まったのを見届けて、ルリエは部屋の窓際に置かれた簡素な木の椅子に腰掛け、窓を開ける。ふわりと、優しい夜風が流れ込んでくる。心地よい風に当たりながら、空にぽっかりと浮かぶ満月を眺めていると、レナの隣で寝息を立てていたデイジーが起き上がって特等席であるルリエの肩にちょこんととまった。
「ねぇ、ルリエ」
「ん?」
「ルリエも卵だった姫をあーやってだっこしてくれてた?」
窓からさす月明かりにうっすら浮かぶレナのベッドを見ながらデイジーが問う。
「えぇ、そうね」
「そっかー」
「ずーっと離さなかったわ。最初のうちは楽しみで楽しみで仕方がなかったわね。でも4日5日と日が経つと、生まれてこなかったらどうしよう、とか。割ってしまったらどうしよう、とか。不安の方が大きくなったっけ」
「心配かけたわねー」
「でも、殻を割って生まれたデイジーを見たときは本当に嬉しかったわよ」
「うふふ~」
ルリエは肩にいるデイジーを引き寄せて抱きしめる。
「ルリエ」
「何?」
「暑い。…でも、それもいいかも」
「そうね」
「姫、子守唄が聞きたい」
「仕方ないわね」
そう言って、ルリエはゆっくり歌い始める。その歌は、隣部屋のケインにも、ガレージを借りて作業する博士とルークにも、レナの夢の中にも、そして、車の荷台のサウスにも届いた。
サウスはルリエの歌が大好きだ。声は出さないが、羽をこすり合わせてルリエと一緒に歌う。やさしいハーモニーが夜風に運ばれる。
「歌が、聞こえる…」
しゃくりを上げながら、走りつかれて今はトボトボと歩くルイセは、澄んだ、どこか懐かしいような歌声を聞いた気がして足を止める。
夜は、静かに更けていった。




