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翌朝、朝食を済ませてロビーに集まってきたレナ・ルリエ・ケインを満面の笑顔で迎えるプーグルーグ博士の姿があった。まるで、お使いを無事に済ませて母親に褒めてもらいたい子供のような笑顔に一同が引きつったのは、これまでの言動に起因するのだろう。いつもは制止役を買って出るルークも徹夜が堪えたのか、今はソファでぐったりしている。
「ほれ、これが徹夜で完成させた卵孵化機『スクランブルエッグ1号』じゃ」
自信満々で博士はテニスボール位の大きさの球形の機械をレナに差し出した。
「スクランブルエッグって…卵焼けちゃったり砕けちゃったりしないでしょうね?」
プーグルーグ博士の機械の効果は予測不可能だ。博士の手にある機械をまじまじと見つめながら、レナは眉をひそめた。
「名前は気にせんでおくれ。研究を終えて食べる朝食のスクランブルエッグが最高じゃったので、つい…」
「ホント大丈夫なの?」
「安心せい、ワシは卵の扱いにはうるさいぞい」
なおも不安そうなレナに、プーグルーグは何の迷いもなく太鼓判を押すが、その自信の出所は誰にも解からない。
『博士、食べるの専門じゃない。失敗した機械で卵をミイラにしたこともあるし…』
レナが受け取るのを躊躇していると。
「気にするなや。名前だって本当はきっと『オムレツ1号』だったんだぜ。厨房でオムレツひっくり返すの失敗して半泣きでスクランブルエッグに変えてたがな。ふひひ」
と、ケインが笑いながら口を挟んできた。
「オムレツ失敗してるじゃない。ケインちゃん、それ何のフォローにもなってない」
「姫にまで突っ込まれるようじゃケインもおしまいねぇ」
デイジーとルリエの冷たい視線に、状況不利と悟ったケインは、そそくさとソファに座り戦線離脱。ポットから紅茶を注いで一口啜った。それを見て、ふぅっとため息をつくルリエ。しばしの沈黙。初めて見る野生機械の卵を救う機械。そんなものが本当に出来るのだろうか?失敗したら取り返しがつかない。そんな思いが、一同の行動を鈍らせる。もちろん、博士を除いた一同の…だが。
この沈黙を作ったのもケインだったが、破ったのもケインだった。ティーカップから視線を上げて努めて明るく
「なぁ、ルーク。オムレツはおっさんが一人で作ったが、この機械はお前も一緒に作ったんだろう?」
突然話を振られたルークが慌てて頷く。
「なら、信じてやろうや。この機械はちゃんと出来ているって」
ケインがにやりと笑った。
「うん。そうだよね!」
レナも表情に明るさを取り戻す。「なんじゃ、ワシは信用ないのぅ。さあさ、早くしないと手遅れになってしまうぞ」
博士がレナを促す。
「はいっ」
見ると、卵の光は今にも消えてしまいそう。
『えーぃっ、神様おねがい!』
レナはそっと卵を孵化機に入れた。僅かだが、卵は輝きを取り戻した気がする。これで、しばらくは大丈夫だろう。部屋が安堵の空気に包まれる。
「ルークもお疲れさま。あの…ありがとう。少し部屋で休んだほうが良いんじゃない?」
「これくらいへっちゃらさ」
2人の仲も元に戻ったように見える。
「ま、結果オーライだな」
「ん?ケイン何か言った?」
ルリエが不思議そうにケインを見るが、ケインは何も答えずに、一人満足げに頷いて、紅茶を飲み干した。
「さぁーて、俺ぁ車の準備でもしてくっかな」
そう言って、ケインは外へ出て行った。直後
「なんだこりゃーー!」
ケインの悲鳴がこだまする。
その声に驚いて、慌ててケインの後を追って一行が外に出ると、そこには、ボンネットをぱっかり開けて中のエンジンがごっそり抜かれた『車だったもの』を前にヘタリと座り込んで肩を落としているケインの姿があった。
「ふぉっふぉっふぉ。部品は卵孵化機を作るのに借りたぞい。全部失敗作になったがのぉ」
「…車って高いんだぜ?知ってっか?」
ぽそりとケインがつぶやく。
「この歳で徹夜はつらいのぉ。わしゃ寝る」
プーグルーグはそそくさと宿の中へ消えていった。
「あの、ケインさん。すみません…」
プーグルーグの代わりに謝るルークに(隣で卵孵化機を抱いて申し訳無さそうに佇んでいるレナのこともあってか)
「まぁ、なんだ。緊急時だし仕方ねぇさ」
そう言って立ち上がった。
「しっかし、サウスも黙って見てないで俺に知らせるとかしろよな」誤魔化すように悪態をついて、荷台のカバーをめくる。「んぁ??」
そこにはサウスと、その脇ですやすやと眠る少年の姿があった。




