2 09
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メイナの手から、光の筋が放たれた。ルリエは、レナを抱えてラクダから飛び降りる。驚いたラクダは、いななき180度方向転換すると、一目散に逃げていった。砂の上で受身を取ったルリエは、レナを守るように自分の背中に隠し「レナちゃん、逃げて!」鋭い声でレナに命じる。「でも」「早く!あなたが近くにいたら手加減出来ない!」躊躇するレナに更に強い口調で命じる。「あ、誰も…なんでもない。ルリエおねーちゃん、信じてる」それだけ言って、レナは駆け出した。『誰も、誰も傷つかないよね』レナは心の中でそれだけを願って懸命に走った。
「手加減だなんて余裕じゃない。南国色のティーエ」
「余裕なんてないわよ。おっと、あの子は見逃してもらうわよ?」
「もとより私の標的はあなた一人」
「ふん、少しは安心したわ。でもね、あんたのボスだかなんだか知らないけど、他人の言付けでほいほい命のやりとりなんてすんじゃないってのよっ」
ティーエが間合いを詰めてメイナを投げる。しかし、メイナは軽い身のこなして受身を取り、反動を利用して立ち上がる。
「黙れ、あなたには何も解らない!帰る場所のあるあなたは!!」
「ほんっと、可愛くない!そのネジくれ曲がった根性叩きなおしてあげるわ」
ルリエが跳んだ。
「上等だっ」
メイナも跳ぶ。二つの影が空中で何度も交錯する。
「ハッ!!」
メイナの拳が、ルリエの頬を打った。衝撃で、ドウっと砂に倒れたルリエをメイナが冷たい目で見下ろす。「叩きなおすなどと、偉そうに。自分は聖人のつもりか!同じ穴の狢だよ、私も、あなたも」「ふん、あんたの曲がった目にあたしどう映ってるかなんて、そんな感想は聞いちゃいないのよ!」
「この、ルリエーーー!」
メイナが吼えた。
レナは走った。ルリエの邪魔にならない様に。必死に走った。そして、ふと思う。昨日の男の子。彼なら止めてくれるかもしれない。それに、落し物も返さないと。これが原因なんだから。これは誤解なの、落し物を拾っただけなの、だから…
レナは一段高い砂丘の頂上を目指す。砂に足を取られながら必死に登って辺りを見渡す。
「いた!」
昨日の少年は案外近くにいた。急いで駆け寄って、息を切らせながらスカーレット・ジェムを差し出す。少年は驚いたように目を白黒させていた。「これ、落し物。セーツィ号で会った時に拾ったの。ずっと、ずっと返さなくっちゃって思ってて、でも、昨日はあんな事があってビックリして、それで…ゴメンなさい!」レナが頭を下げる。「う、うん。えっと。…ありがとう…」おどおどと、スーカーレットジェムを受け取る。まだ、状況が掴めない。そんな様子にレナは痺れを切らして、怯える少年の肩を掴む。
「お願い!二人の喧嘩を止めて」
「ひっ」”
「お願い」
「…」
「これが、この宝石が原因なんでしょ?だから、もう、喧嘩する理由はないんでしょう?だから、お願い…」レナの必至の懇願に少年もようやく状況を把握する。「そうか、もう…」「うん、だから止めないと」「解かった、行こう」「ありがとう!」
しかし、レナとルイセががティーエとメイナの争いを止めに向おうとしたその時、2人の争いは新たな局面に向おうとしていた。
突如としてメイナの後方の砂が盛り上がり、1体の不気味な機械が姿を現した。巨大な、蛇のような姿をしたその機械は、ルリエに向けてその鎌首をもたげる。「…これは」「そう、あなたたちがセーツィ号から盗み出した機械よ。あなたの盗み出した機械に襲われるなんて、なかなか気の利いた筋書きじゃなくて?」「くっ…」メイナを牽制しつつ、これだけの巨大な機械に素手で挑むのは、流石のルリエでも無理がある。レナは無事に逃げ切れただろうか。一瞬覚悟を決めかめた。しかし、レナとサウスを町まで送り届ける責任がある。ここで諦めるわけにはいかない。ルリエは考えを巡らす。何か手段は…。
「何、あの蛇みたいな…」砂から現れた不気味な機械に一瞬たじろいだレナだったが勇気を奮い起こして駆け出す。しかし、すぐにルイセに止められてしまった。「今行ったら危ないよ!」「でも!」涙を浮かべて、引き止める手を振りほどこうとするレナ。そんな二人の頭上を大きな影が横切った。
ブオオオオオオォォォン!!砂丘を乗り越えて飛来したそれは、そのまま弧を描いて宙を舞い、砂塵を巻き上げながら跳ねるように暴走し、ティーエと巨大機械の間に割って入るように墜落する。どうんっ!!轟音を上げ、辺りに砂埃が舞う。誰もが砂に視界を奪われたかに見えた。
しかし、メイナはティーエの姿を捉えていた。懐からダーツを取り出し、投じる。だが、ダーツはティーエには届かなかった。それは射線に割って飛来したカードに全て弾かれて地面に落ちる。「スコール!」ティーエが声を向けたほうを見ると、晴れ始めた砂煙の中から、帽子を目深にかぶってカッコつけたスコールが姿を現す。
一陣の風が流れ、砂煙を吹き飛ばした。スコールたちから少し離れた場所では、ヘビ型機械の前にゴンパパが対峙していた。シルエットこそ大蛇に立ち向かう剣を手にした戦士…に見えなくもないが、残念ながら得物はハタキとホウキにチリトリである。いささかシュールともいえる光景だが、大型機械同士の対決は今まさに始まろうとしているのだ。
「お嬢ちゃんのダーツは全部打ち落とす自信があるぜ?」「くっ…」メイナはスコールを睨み、内ポケットに手を伸ばす。「やめときな。ポケットにゃダーツは入って10数本。こっちのカードは52枚。さぁ、どうする?」しかし、メイナは不敵な笑みを浮かべると経典のようにぶ厚い1冊の本を取り出し、それをバッと広げた。つづら折りに拡がった本の中には全てのページに無数のダーツが仕込まれてある。「うわっ、ズルッけぇ!」次々と投げられるダーツを慌てて迎撃する。
にじり、にじりと、ヘビとハタキ戦士が間合いと取りながらゆっくりと動く。両者、隙を伺っている。といった風だが、実際はどうなのだろう。
「何をしている、さっさと片付けてしまえ」
ティーエとスコールの相手をすることになり不利になったメイナが痺れを切らして命じる。その声を合図に、ヘビが動いた。しなる巨体がバネのように砂を蹴って跳躍する。感嘆するような速度だったが、ゴンパパも速かった。素早くハタキを構えて大きくスイング!ジャストミート。
と思われたのだが、ヘビを打つ前に、ヘビは自分からバラバラに分解してしまった。
ハタキは空を切り、ゴンパパは遠心力で2回転。「ふふふ、それは1体ではないよ」メイナが不敵に笑う。と、バラバラに飛び散ったヘビの破片の一つ一つに1対の羽が生え、自由に飛び回り始めた。良く見ると、それらはヘビの破片などではない。それぞれが形の整った、まったく同じ正八面体の機械だった。八面体機械たちは、あるものはゴンパパを取り囲み、あるものはスコールとティーエに襲い掛かった。ブンブンと飛び回る八面体機械に二人はじりじりと後退するほか無かった。
ボンネットを砂に埋めて垂直に突き刺さるスコール車の後部座席にいたルークがよろよろと這い出してくる。車を盾にしているスコールと隣にいるティーエをみて状況を悟る「レナちゃんは!?」周囲を見渡す。すると、少し離れた砂丘の上に人影らしきものが見えた。ルークは、反射的にその砂丘に向って駆け出していた。
「こら、待て!おい、おっさん!あのボウズ飛び出して行っちまったぞ!」
「む、これはマズイのぉ。しかしこんなこともあろうかと、アレには必殺技を仕込んでおる」
「はぁ?掃除機じゃねーのか?」「細かいヤツじゃのぉ。黙って見ておれ」
プーグルーグがゴンパパを指差す。見ておれ、と言われても豪快な空振りを決めてすっ転んだまま、八面機械にロープでぐるぐる巻きにされている様にしか見えないが。スコールが文句を言おうとした矢先、ゴンパパの目が赤く灯り、頭部がぐるぐると回転を始める。まるでパトランプの様に。「おいおい、なんだこりゃ?」驚きの声を上げるのとほぼ同刻、ゴンパパが自力でロープを千切って立ち上がる。
ゴンパパ復活。
「むむ、あの構えは、ついに出るな!」
「?」
プーグルーグの拳に力が入るが、スコールには全く理解できない。しかし、あの構えは何かで見た様な。そうだ、あれは子供から大人まで幅広い人気を持つ有名な本に登場する『.「「飛天連突き!」」スコールとプーグルーグが同時に叫ぶ。それを合図に、目にも留まらぬ早業で、八面体機械をハタキで文字通りはたき落としていくゴンパパ。同時に別の手では、律儀にホウキとチリトリで落とした機械を拾っては背中のゴミ箱に放り込んでいく。「おっさん、掃除機械になに教え込んでんだよ…」「どんな細かなチリも逃さんぞい」「俺もその物語好きだけどよ。伝説の剣王が泣くぜ?」
呆れ声でぼやいて、車のダッシュボードから予備のカードを取り出す。「ちょっとスコール。さっさとカード取ってきて手伝いなさいよ!」
背後から聞こえるティーエの険悪な声に、
おっとそうだった。と、帽子を正す。「まぁ、おっさんの機械もたまには役立つじゃねぇか」そういい残してティーエの元に戻ろうとしたのだが。ゴンパパのゴミ箱に放り込まれた機械がもぞもぞと動き出し、一気に飛び出す。「峰安心せい、打ちじゃ」
「役立ってねぇ!」
スコールは慌ててティーエの元に駆け戻った。




