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2 08

2 08


メイナは、覚悟を決めてゆっくりと目を開けた。本邸程ではないが、豪華なつくりの館。そして、目の前には彫刻をあしらった大きな木製の扉。その扉の奥には彼女たちの養父であるウェッツラー卿が待ち構えている。自分の失敗を報告しに行くのは気が重い。メイナは唇を噛んだ。ルイセには部屋で待つように言い、置いてきた。叱責を受けるのは自分だけで良い。意を決してメイナは威圧感のある古風な扉を叩いた。大切な弟は守らなければならない。

「失礼します」

南風伯の返事を待って、メイナは部屋に足を踏み入れた。

そこには険しい顔をした養父が待ちかまえていた。

スカーレットジェム入手失敗の報告を受け、一度は激昂したウェッツラーだったが、そこにティーエが関与している事を知り、ティーエを始末するようメイナに命じる。

今回の件に、ティーエの固執しているザルクコレクションが関わっていることを悟られたと勘違いしているのだ。

メイナがウェッツラー卿の執務室を出ると、そこではルイセが姉の戻りを待っていた。メイナは、次のミッションにはルイセを置いて行くと告げるが、ルイセはメイナのそばを離れようとしなかった。姉の表情から何かを察したのかもしれない。「姉さん。僕たちは何があってもずっと一緒だよ」

ルイセの言葉に、メイナは涙をこらえて、弟をそっと抱きしめた。



「ケインちゃん!」翌朝、修理した車で荒野を走る一行に、近寄って来た一羽のオウムが歓喜の声を上げてスコールに飛びつく。

「なんだ、世界ってのは案外狭いんだな」

驚いたような感心したような声で迎えるスコール。

「ピルルちゃん!?」

派手な化粧をしたオウムと一緒に飛んできたもう一つの小さな影に気づいてルークは声を上げた。

「ピルルちゃん、レナちゃんはどうしたの!?」

「キュイ」

「そうだ、ルリエはどーした?一緒じゃないのか?」

「うん、それがねぇ…ん?あら??この人たち、この前会ったレナちゃんのオトモダチ」

「え、うん。オウムさん、レナちゃんを知ってるの?」怪盗団メイクのせいで、デイジーである事にルークは気づいていない様子だ。「知ってるわよぉー、ほらっっっっっっっっっっっっ」

言ってサササっとメイクを落す。

「あ、劇団の!」

「やっと解かったのー?お化粧は美しい姫をより一層美しくするという。姫ってば妖艶っ」

「で、なんでこんな所に?」

「それがね。キラキラ宝石列車から逃げ出す時はティーエもレナちゃんも一緒だったんだけどー。、途中でサウスちゃんが暴れて姫たち振り落とされちゃったのよねー。ホント怖かったんだから!でもでも勇敢で美しい姫の力で無事サバイバール…って、あれ?」

「⋯あー、デイジーサン。余計なこと言ってくれちゃって、また話がややこしく…」

「スコールさん!どいういう事ですか!」

問い詰めるルークに「

えーと、あー。一から説明するとだな…」南国色の怪盗団は誘拐なんて行わないこと、自分も状況を把握していないこと、ルークたちを騙すつもりはなかったこと。などなどを必死に説明する。途中、デイジーとピルルの援護もあって、ルークたちは渋々納得した。

ともあれ、デイジーとピルルの二人を迎えたレナ・ティーエ捜索隊は、荒野の行軍を再開した。



ラクダで荒野をぽっくりぽっくりと進むルリエとレナ。徒歩だった頃と比べると、二人の表情にもだいぶ余裕が見える。

しかし、運命は平穏である事を良しとはしなかった。二人が進む先に一つの人影が立ちふさがる。先日と同様、荒野には不釣合いなベストにズボンのスーツ姿の少女。

「…メイナ」

ティーエが声を漏らす。しかし、メイナは答えない。

昨日とは様子が違うようだ。その表情は仮面の様に冷徹でピクリとも動かない。

「どうやら本気…みたいね」

ティーエの顔に緊張が浮かんだ。メイナは、無言のままジャケットの内ポケットから三本のダーツを抜いた。強烈な砂漠の日差しを反射して、ダーツの刃がギラリと残忍に煌いた。



電話の中継バルーンを見つけたスコールたち一行は、電話を借りるため管理宿舎(木造の小さな小屋)に寄る事にした。

「しっかし、ティーエの奴どこいっちまったんだか」

「どうでしたか?」

愚痴をこぼしながら出て来るスコールを見て無理と知りつつも尋ねるルーク

答えは予想通りで

「ラーゼリートには帰ってないってよ」

「そうですか…」

「ま、気を落とすなって。自分勝手で周りに迷惑かけまくりだが、アイツは丈夫だからな。ティーエと一緒なら無事でいるさ。さぁ、乗った乗った。出発するぞ。…それにしてもトーン通音社の通話料高くないか?ありゃぼったくりだぜ」

一行が車に乗り込み、蒸気機関を始動させる。ブルルルンと唸りを上げて、蒸気エンジンが回りだした。ゴンパパの。

そして、ゴンパパは車の荷台から飛び降りると、ベビーカーを押す要領で蒸気自動車の荷台を掴んで猛ダッシュ。そのスピードの速いこと速いこと!

「うぁっ、どうなってんだ?おい、早く止めてくれ!!」「無理じゃ」スコールの驚きに動じる気配もなく、プーグルーグがあっさりと即答する。

「無理って、おっさんが作ったんだろう?」

「いかにも。しかしワシの言う事は聞いてくれんのじゃよ。暴走を始めたら止められんわい。わっはっはっは」

「暴走だって?勘弁してくれよ。だいたい、何だ。こんなスピードで走る機械聞いたことがねぇぞ!3等技師の規格外機関じゃねぇか、協会に訴えてやるー!」「ふふふーん。ワシ、2等技師じゃもーん」「だー、なんで2等技師が弟子一人の町工房やってんだよぉ。2等技師っつったら、弟子をたんまり抱えてそこそこ大きな工房を持ってるもんだろう」「こんなだから、弟子一人なんです…」ルークが申し訳なさそうに釈明するが、「理解は出来たが納得は出来ねぇっ。このオッサンに免許発行した奴出て来い!!」スコールの絶叫をドップラー効果で荒野に置き去りにして、ゴンパパはもうもうと蒸気と砂煙を巻き上げて地平線へと消えてゆくのだった。


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