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「で、今回は何やっちゃったの?博士」
煙はすっかり晴れて、片付けもあらかた終わろうかという頃合いに、レナはプーグルーグに問いかけてみる。これは、話が脱線して片付けの手が止まったとしても許容できるギリギリのラインでもある。何のラインかというと、しっかり者のルークが許してくれるであろう『おかたづけライン』だ。
「ふむ、そうじゃな」
博士は周りを見渡して、床から1本の筒…だったものを拾い上げる。
「今回の爆発はコイツじゃよ。」
それは、直径15センチ程の円筒形金属で、博士が持つその先はズタボロに裂けて、内部の配管と共に放射状にぐにゃりと広がるように折れ曲がっていた。
「これは小型蒸気機関のボイラーなんじゃが、テスト中に内部圧力が高まり過ぎてしまったようでの。この通り、ポーンと爆発してもうた」
「へえー。凄いね、お花が咲いたみたい」
「ホッホッホ。確かにそうともいえるね。ふむ。もっと禍々しくも見えるがのぉ」
失敗が悔しかったのか、壊れた配管を覗き込みながらブツブツと管を巻く。
「ねえ博士、それで蓋はどうしたの?」
「蓋?」
「うん、その筒には蓋があったんじゃないの?」
「ああ、蓋ではないのじゃが、ありゃ、どこいったん…」
ガシャン!
と、博士の足元に『蓋』が天井から落ちてきた。
「ふむ、これじゃのぉ」
天井にある刺さっていた跡と、落ちてきた蓋を交互に見比べながら、ウンウンと頷く。
少し高い木製の天井とその太い梁にくっきりとえぐられた痕が残っている。相当な威力だったのだろう。天井の傷跡からは、陽の光が漏れていた。
「どうやら爆発の衝撃で飛んでいったようじゃな」
博士が興味を失くしたように手にしていた筒をポイッと放り投げると、ゴンちゃんが駆け寄ってきて蓋と一緒に回収していった。
「あ、うん。危ないんじゃないかな…」
「いやいや。そんな事よりもじゃ、天井の穴はマズいのぉ。なんとか直すか誤魔化すかする算段を立てんといかん」
ソワソワと指をワキワキさせながら落ち着きを失くしていく博士。
弟子のルークに見つかる前にと行きたいのだろうが、それは難しそうだとレナにもわかる。なぜなら、
「ただいま戻りましたー。なんで玄関が開けっ放しなんです?
て、レナちゃん、来ていたんだね」
当のルークが帰ってきてしまったからだ。
「え、あー!!親方、またやったんですか?!」
ルークは帰って来るなりレナを見つけてニッコリしたり、天井の傷を見つけてカリカリしたりの大騒ぎだったが、レナはレナでルークの足元からピョンと飛び出して彼女の肩に飛び乗ってきた子猫に興味が移っていた。
「チョビちゃんじゃない」
そう言って挨拶代わりに子猫の首筋を指でかいてやると、嬉しそうに頭をレナの頬に擦り付けてくる。
チョビは鼻の下に黒い模様の入った灰色猫だ。ゴンちゃんとは違い、閃きだけで名付けたわけではない。特徴的な模様、つまりチョビヒゲのチョビである。が、残念ながら後に女の子だと判明した。
ひとしきりチョビとの時間を堪能したレナだったが、博士の方ではルークのお説教タイムが始まろうとしていた。
レナは、少し肩を竦めてチョビに向き直る。ルークはもう少しだけ言わせてあげないと落ちついてくれそうにない。それは、この2週間でわかった事の1つだった。今日の事は本当に危なかったし、博士にもちゃんと反省してもらおう。博士の助けを求めるような目をわざと無視して、レナは、自分のポシェットからビスケットを1枚取り出してパキッと半分に割って片方をまたポシェットに仕舞う。
割った時にパラリと破片が零れたのに気がついてか、ゴンちゃんも近寄ってきて、レナの肩の上の子猫を凝視した。
「かわいいでしょ?チョビちゃんよ」
凝視したまま固まってしまったゴンちゃんに子猫を紹介してみる。
「どうしたの?綿埃じゃないからお掃除したら駄目よ?」
冗談っぽく笑って、肩からの期待の眼差しに答えるべく、そっとビスケットを口元に運ぶと子猫はカリカリと音を立てて半分のビスケットを平らげた。
「お砂糖は使ってないけど、まだ小さいから半分だけね」
そう言って頭を撫でてやる。
それを見届けたゴンちゃんは箒とチリトリでササッと零れたビスケットのかけらを掃除して帰っていった。
博士の方を見ると、ルークの怒りは更にヒートアップしそうな勢いになってきていた。シュンとしている博士も少し可哀相に見えてくる。
「ルーク。ルークもチョビちゃんとお友だちだったんだね」
だから、慌ててルークに話題を振ってみたのだ。
「いや、そこの路上で会ったんだ。付いてくるから何でだろうって思ったけど、レナちゃんのとこのペットだとは知らなかったよ」
笑顔で返事が返って来たから、成功したと思っていたのだ。このときはまだ。
「お友だちだけど、家の子ではないんだー。色んな場所で会うんだよ。この前だってね、市場の方で別の名前でーー」
呼ばれてごはん貰ってたんだ。という言葉は途中でかき消されてしまった。
「親方、今日は逃しませんよ」
ルークが、こっそりと逃げようとしていた博士の襟首をしっかりとつかまえていた。
レナは思った。ルークはただ怒っているのではない。叱っているのだ。
ルカおねーちゃんと一緒だ。年下の男の子がレイントン家の長女とダブって見えて、レナは背筋を震わせた。
「今日は無理みたいね、帰ろうか」
小声でチョビに語りかけると、子猫も「にゃー」と同意を返してきたので、1人と1匹はそっとその場を後にするのだった。
『蒸気機関 たたり神』
で画像検索をすると、ボイラー爆発をおこした蒸気機関車が出てくると思います。
これが小さかったら花束みたいに見えないかな?
と言う無理矢理なネタです。
この画像を初めて見た時に何かで使いたい!と強く思ったのです。




