2 04
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砂丘の合間から僅かに覗いていた真っ赤な夕陽もすっかり地平線に沈み、辺りは穏やかな藍色に包まれた。
レナとルリエは、砂風の防げる砂丘の影に陣取って、眠る準備を進めていた。トンボの銅を枕にして毛布を被る。地面の砂にはまだ昼間の火照りが残っているが、冷たい風が吹き始めてる。
「ねぇ、ティーエおねーちゃん」
「なに?」
「わたしね、ずっと考えていたの。やっぱりね、おねーちゃんは悪い人には見えないわ」
「そお?ありがと」
「だからね。わたし・ティーエおねーちゃんのこと信じる!」
一気に言って、僅かに視線を落す。
「でも。でもね、ひとつだけ教えて欲しいの」
「ん?」
ティーエは、静かに続きを促した。
「…なんで。…なんで、怪盗さんなの?どうして悪いことしているの?」
「うん。そうね。…あたしにはね、探している物があるの。それは、あたしの…。いや、あたしとあたしのお爺様の大切な物でね。それを全て見つけるまでは、どんなことでもするって決めたの」
「大切なもの?」
「えぇ、そうよ。それは…」
「それは?」
「ザルクコレクション」
「ザルクコレクションって、ドクター・ザルクの大冒険に出てくる伝説の財宝、だよね?」
「そうよ。でもね、その物語はね、半分作り話で半分は本当の話なの」
「それじゃ、ドクター・ザルクは本当にいるの!?」
「いるわよ。…いた、って言ったほうが正しいかもしれないけれど。最後に会ったのは、あたしの4歳の誕生日の少し前。…伝説のトレジャーハンター、ザルク・マスティース。あたしのお爺様よ」
「わぁ、凄い!冒険家ドクター・ザルク、会ってみたいな!」
「そうね。もっとも、物語とは違ってお爺様は考古学博士ではなかったけれどもね」
「そうなんだ」
「そうよ、手品好きで。そう、レナちゃんみたいに、誰からも好かれる人だったわ」
「えへへ」
「ドクター・ザルクの物語は、世の好事家たちの間に出回ったお爺様の日記『ザルクの手記』の写本の1冊を元に書いたのかもしれないわね。だから、お爺様と本当にソックリ。さ、そろそろ寝ましょう」
「うん」
「明日は早いわよ。暑くなる前に出来るだけ歩かないとね」
2人は毛布に包まって横になる。風は冷たくなってきたが、トンボの体温が伝わってきて寒くは無かった。機械のようで生きている。やっぱり不思議だな。レナはそんな事を思いながら眠りに落ちた。
少しだけ色褪せた景色。それほどに古い記憶の奥底にしまってあった景色だった。それは、あたしが4歳の誕生日を迎える1週間ほど前のことだった。
「少し早いけど、誕生日のプレゼントだよ」
そう言って祖父のザルクは1つの卵をくれた。この地方には居ない珍しい鳥の卵だそうだ。「ちゃんと温めるんだぞ。ルリエが4歳になる頃にはこの卵も孵るはずだ。同じ誕生日になるといいな」そう言い残して、ザルクはまた発掘の旅に出てしまった。これが、ルリエが祖父に会った最後だった。
卵はぴったりルリエの誕生日の日に孵った。雛にはデイジーと名づけた。
ここで、ティーエは目を覚ました。「あ、夢…」目を覚ました瞬間、波にさらわれる砂の城のように崩れて消えようとする夢の記憶を慌てて反芻する。「デイジー…」悲しい夢ではなかったのに、何でだろう?目には涙の跡。ティーエは涙を拭おうとして、止めた。隣でスヤスヤと寝息を立てているレナが、しっかりとティーエの手を握っていた。空には満天の星がキラキラと煌いていた。




