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豪華列車での旅が始まるよー。
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昨日まではセーツィ号を飾り立てるガラス張りの展示ドームだったが、それはもはや見る影もなく、今は簡素な臨時駅舎になっていた。セーツィ号へは大量の石炭が詰め込まれ、給水車から水を受け取って出発の準備を進めている。
機体後部では貨物用のハッチが開け放たれて、クレーンを使って次々と大型のカデンが積まれていく。
今も見知ったカデンがクレーンでつられて貨物室の中に消えてゆく。『プーグルーグ式業務用大型全自動掃除機 第一号』ことゴンパパである。貨物室に大人しくし搬入されるゴンパパ。
客室の準備と清掃も終わったようで、搭乗口にタラップが降ろされて車掌が配置につく。先ほどから乗車開始を待ち焦がれてソワソワしていた乗客が、搭乗口に駆け寄っていく。
「あたしが一番ー!」
車掌にチケットを見せ、半券を受け取ると、トタトタと駆け足で乗り込んでゆく。
「L客車の221号室ね」
L客車とは進行方向を向いて左側の客室の並びを指す。その左客室2階の21号室である。
2等客室は主に2階に、1等客室は見晴らしの良い3階にある。
レナは手荷物を置くと、ふかふかのベッドに飛び込む。ふかふかのベッドはレナの体をしっかりと受け止めて程よく沈み込んだ。シーリングファンの影がレナの上でゆっくりくるくると回る。
「フォッフォッフォ。流石は車豪華客車じゃのぉ」
物珍しそうに内装をキョロキョロと見廻すプーグルーグ。
「親方、恥ずかしいから落ち着いてください」
ルークが小声で注意する。
ジャケットさえ着れば正装だと思っているフシがあるプーグルーグは黒のジャケットのしたには派手な柄のアロハシャツ。麦わら帽子にサンダル履きというチグハグな格好であるが、まったくきにする様子がない。
「ルーク、早く探検に行こうよ」
一足先に2等客室を堪能し尽くしたレナが部屋から出てきてルークを誘う。
「ほれ、せっかくだから行ってきなさい」
「えー。ぼくはこれから親方に説教を」
「そんなもんは後でもいいわい。はよう行ってきなさい」
「もう、分かりましたよ。部屋でちゃんとしたかっこうに着替えてくださいね」
ルークはそう釘を刺してレナとともに探検に出かける。
実際に乗客が乗っている車内は工房博の展示中とはまるでイメージが違う。乗客の服装も、豪華な正装・ドレスばかりで工房博のお祭りムードは全く無い、落ち着いた空気に包まれている。カジノ・球技遊戯室・バーなどなど。バーでは中を覗いてバーテンさんに入店を断られた。一通り巡ってレストランで博士と合流する。
「ねぇ、ルーク。御飯のあとはダンスホールに行こうよ」食後の紅茶に入れた砂糖をかき混ぜながら、レナ。「え?でも、ボク。ダンスなんてやったことないし、それに…」華やかなダンスパーティーに出れる様な服は持ってないよ。そう言いたげに、ガラス窓に映る自分の姿を見る。「大丈夫よ、そんなに難しくないんだから。ほら、貸し衣装でおめかししてダンスホール行こうよ」「せっかくだから、二人で行ってきなさい」プーグルーグもルークの背を押す。「博士は行かないの?」「ふぉっふぉっふぉ。ワシはラウンジで新鮮タマゴの玉子酒で一杯やってくるわい」「そっかー」玉子酒はなんか違うような気もしたが、よく解からないのでレナは深くは追求せずに、カップの紅茶を飲み干して席を立つ。「行こう、ルーク」ルークの手を引いてレストランを後にした。
ダンスホールもまた、工房博で展示室として使われていた時とはまったくの別世界だった。展示物が取り払われ、変わりに高そうな絵画や装飾で飾り立てられた煌びやかな内装を、シャンデリアの明かりが格調高く照らし出す。そのたおやかな光の中で、キリッとしたスーツ姿の紳士とフワリとしたドレスの淑女が、楽団の奏でるワルツにのせて優雅にくるくると回る。ルークは、着慣れない燕尾服に緊張とと居心地の悪さを感じながら、ホールの入り口でレナを待つ。「ルーク、おまたせ」レナの声に振り返る。レナは、
「どお?」
と言う様に、スカートをつまんで優雅にお辞儀してみせる。アップに纏めた赤髪と純白のドレスがとても印象的だ。「ほら、ピルルちゃんにも蝶ネクタイ付けてくれたんだよ」自慢げにピルルを差し出すレナ。たしかに、小さな黒い蝶ネクタイが付けられていた。
「キュイイー」
当のピルルも嬉しそうだ。どんな用途でこんな小さな蝶ネクタイが用意されていたのかは解からないが。「二人とも、似合ってるよ」ルークの言葉に照れたように笑い合うレナとピルル。
「踊ろう、ルーク」
ルークの手を取って、上品に踊る紳士淑女たちの中に入っていく。
周りは大人ばかりで、ともすれば埋もれてしまいそうだ。初めてのダンスに、ルークはおぼつかない足取りでヨタヨタとレナについていくのがやっとといった雰囲気だ。
「ほら、ルーク、落ち着いて。誰に見せるものでもないんだから、そんなに緊張しないで」
たしかに、周りの誰もが他人に注意を向ける事は無く、自分たちのダンスを楽しんでいる。ましてや、視線の高さの合わない子供に気を留める者など居なかった。周りは関係ない、そんなレナの言葉で落ち着きを取り戻したのか、音楽に耳を傾ける余裕が出てきた。「そう。音楽に合わせて、思ったように動けばいいの」
レナが微笑む。
「うん」
ルークにも踊ることの楽しさが少しだけ解かってきたような気がした。




