10
10
劇場の控室でお茶を御馳走になって、ルリエといろいろな話をして、劇場を出るともう夕方だった。
「いけない!終わっちゃう前に、また工房博見に行けるかな?」「今からなら…間に合うかな?」
ルークも首を捻る。走って向えばギリギリ間に合うかもしれない、そんな時間だ。
「大丈夫よ、最終日は少しだけ長く開いてるの。それで、最後には花火で締めるのよ」
「わぁ、ステキ!花火見たい!」
「うん、行こう」
「ルリエおねーさんも一緒に行こうよ」
「え、でもパス持ってないのよ。公演で行けないだろうからって、買ってないの」
「それなら大丈夫ですよ。ボクの親方が出展してますから、パスはあります」
ルークがポケットからパスを取り出して差し出す。
「わぁ、ありがとう!デイジー、行くよっ」
まるで子供のようにはしゃぎながら、ルリエはいそいそと出かける準備をした。
その後、みんなで会場巡りをして、プーグルーグ博士と合流して花火を見物した。
夜空いっぱいに咲く打ち上げ花火はとても綺麗だった。でも、これでお祭りが終わってしまうのだと思うと、少し寂しかった。
レナたちは、ルリエと別れてホテルに戻る。そして、少し遅い夕食をとった。
「とうとうラーゼリートともお別れじゃのう」
博士が寂しそうに呟く。
「あっという間でしたね」
ルークも寂しそう。
「ヨークレー市までのチケットが取れれば明日に帰るから準備をしておいておくれ」
「そうだ!帰りのチケット!!」
「どうしたの?レナちゃん?」
「じゃじゃーん!」
レナはポケットから1通の封筒を取り出す。
「これは?」
訝しげな表情の博士に手渡す。封筒はマーティエンス候の印が入った蜜蝋で封がされていた。マーティエンス候といえば、中央貴族会に加盟していないヨークレー市で唯一といってもいいほど中央に対しての発言力を持つと言われる有力貴族家だ。
「さっきね。郵便で届いたの」
「こんばんわー。ルフィーアお姉さんの、ダチョウの郵便やさん速達便でーす!」
レナがノックされたホテルのドアを開けると、元気の良い声が飛び込んできた。
「ルフィーアおねーさん。どうしたの?」
満面笑顔のレナに急かされて博士は封を開ける。中
から出てきたのは、3枚のチケットだった。
「セーツィ号の2等客室チケット!?」
驚きのあまり、プーグルーグとルークの動きが止まる。
「夏休みに入る頃にね、お爺ちゃんの家に遊びにいったんだ。そのときね…」
「レナは夏休みに旅行に行くんだったかな」
「うん!工房博に連れて行ってもらうの!!」
「おぉ、そうかそうか。楽しみだね」
「うん!」
「それじゃ、爺ちゃんも何かプレゼントをあげなければならないね。そうだな…」
しばし考える素振りを見せて、わざとらしくポンと手を打つ。
「折角の旅行だ、帰りはセーツィ号に乗ってみたくはないかな?工房博に合わせた特別便が出ているんだよ」
と、孫に甘いマーティエンス伯爵は悪戯っぽく笑った。
「うわぁ、乗ってみたい!」
「1等客室じゃなければ許さんと言ったんだがなぁ。この得別便の1等客室は工房博主催関係者の貸切だと言われてしまったよ」
肩を落す祖父に、レナは抱きついて頬にキスをする。
「おじいちゃんありがとう!」
マーティエンス公の表情は、即座に『孫に甘いおじいちゃん』のそれに戻っていた。
「…という事があったんだけどね。チケットが遅くなっちゃって、郵便が間に合わないといけないからってナイショにしてたんだ」
大急ぎの速達便で持ってきてくれたルフィーアの姿が思い浮かばれる。
レナの言葉に、プーグルーグとルークはまだポカンとしていた。




