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朝食の後、博士とルークは技師会の寄り合いへ出かけてしまった。その間、レナは暇だったのでホテルを出て近所の探検に出る事にした。
ホテルを出るとき、ボーイさんに「おや、今日はお留守番ではなかったのですか?」なんて呼び止められた。レナが散歩に行くと答えると「道に迷われないように気をつけてくださいね」なんて言われてしまった。しかし、迷路のように入り組んだ路地をもつヨークレー市に馴染んだレナには、はじめて来た街とはいえ、そう簡単には迷子にならない自信がある。
「大丈夫よ」
と笑顔で答えて、元気よくロビーを飛び出す。
ラーゼリート市は、新興のヨークレー市とは違い由緒ある古都だ。中央貴族会の影響が強い貴族の街でもある。昨日は陽が落ちきった後だったので暗くてよくわからなかったが、一歩外に出て、格式ある大きな石造りの建物が並ぶ綺麗な街並みが視界いっぱいに飛び込んできて、圧倒されてしまう。
「いってらっしゃいませ」
というボーイの声を背中で聞き、元気よく駆け出した。モザイクタイルの大通りをしばらく進み、やがて脇道に逸れる。そのまま、ずんずんと裏道を進んで行き…、路地と路地をつなぐ小さな広場で、レナは真っ白いオウムと話す綺麗なおねーさんを見かけた。
k「…特別列車デショデショ?姫のキラキラいっぱいじゃなーい」「何言ってるのよ?列車の警備はいつもより厳しいんだから。1等客車はVIPの貸切よ?か・し・き・り!…あっ」
おねーさんは、レナの視線に気づいてちょっと慌てた様子で
「腹話術みたいなものよ。あたしはルリエ。で、この子はデイジー。劇団員なのよ。劇団シルク・イリュージョンって聞いた事無い?」
と自己紹介をした。
「わたしはレナ。レナ=レイントンよ。ごめんなさい、この街へは工房博を見に昨日着いたばかりだから、詳しくないの」
「そうなんだ。…そうだ、ラーゼリート観光の記念に、あたしたちの劇を見ておゆきなさいよ。工房博の開催期間は毎日公演をやっているのよ」
そう言って、レナにチケットをくれた。
「ありがとう。絶対に見に行くね」
「えぇ。ほら、デイジー。御挨拶は?」
「劇場で会いましょー。来てくれないと泣いちゃうからー」純白のオウム、デイジーが身ぶりをつけて挨拶をしてくれる。
「わぁ、凄い。それじゃ、お稽古の邪魔しちゃ悪いから。またねー」
レナも挨拶をして二人(?)と別れる。
あのオウムさん、本当にしゃべってたみたいだった。凄いね。でも、『列車の警備がどうこう』ってどんなお芝居なんだろう?
博士とルークを誘って見に行こうっと。綺麗なおねーさんと不思議な白いオウムが気になって仕方が無いレナはそう決意して、また路地をずんずんと進んで行く。
路地を抜けるとふたたび大通りに出る。そこでピエロの格好をしたお兄さんに風船を貰った。ウサギの形をした可愛らしい風船を鮮やかな手捌きでその場で作ってくれたのだ。細長い風船に少半分くらい空気を入れて形を整えつつ、数個所をねじって頭と胴体としっぽをつくっていく。ギュッギュッと風船が軋む音はするが割れることはなかった。最後に長く伸びた末端部分を2つに分けて折り込んで耳を作るとあっという間にウサギの風船が出来上がった。仕上げに
、ペッペッと丸いシールを2つ貼って目を作ってくれる。
「是非お家の人と見に来てね」手渡されるときにピエロがそんな事を言った。何かと思ったら風船の結び目に小さな広告が付いていて「シルクイリュージョン公演!」と書かれていた。さっきチケットを貰ったお姉さんの劇場の呼び込みだったらしい。
「わたしね、招待されたの。だから絶対に見に来るわ」
そうピエロに答えて先ほどのチケットを見せる。
「招待チケットだなんて凄いじゃないか。あまり出回ってないんだぜ。⋯ルリエの奴、大盤振る舞いしたな」
ボソリと気になる事をつぶやいたが、次の瞬間にはまた笑顔に戻っていたので聞き直せなかった。
その後は市場や公園を散策して、夕方には(少しだけ迷ったものの)無事ホテルに戻った。
結局その日は夕食時に合流するまでは一人っだったが、充実した一日を過ごした。




