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「そうそう、事のハジマリは夏休みの少し前だったよね」
レナは記憶の糸を手繰り寄せる。
「そうだ、あの日も博士の家に遊びに行ったんだっけ」
徐々に思い出してきた。
夏休みを間近に控えたある日の午後。石畳の坂を駆け上がり、ほぼ日課となっている、ヨークレー市青空通り765番地にあるプーグルーグ研究所に遊びに来たレナ。玄関の戸をノックしても返事が無いのはいつもの事で、レナは勝手に上がりこむ。廊下で全自動掃除機の「ゴンちゃん」に挨拶をし、奥の研究室の扉を勢いよく開ける。「博士、遊びに来たよー」肩に「暗闇ネズミ」と呼ばれる小さな野生機械の乗せた少女の元気な挨拶に「いらしゃい、レナちゃん」レナよりひとつ年下の少年で博士の助手を勤めるルークがおっとりとした声で答えてくれる。当のプーグルーグ博士も「やぁ、よく来たね」と製図台越しに笑顔で返す。そして、また製図台に向って作業を再開するが、博士より数倍しっかりしていて気が利くルークに促されて「そうじゃそうじゃ、また忘れる所だった」と前置きしてから「夏休みに大きな工房博が開催されるラーゼリード市へ遊びに行かないかね?」とレナに持ちかける。
「工房博?」
「そうじゃよ。工房博はいろんな国の技師たちが最新の機械や技術を持ち寄って発表しあう祭典なんじゃが、今回ラーゼリート市で開かれる万国工房技術博覧会はその中でも最大規模のもので…。簡単に言うと、機械技師のお祭りじゃな」
「へぇ、面白そう!」
「今回行かんと、次の開催は5年後じゃし、技師会加盟都市の持ち回りで行われるから次の会場が近いとも限らんしのぉ」
どうやら、今回の工房博では博士も出展するらしい。
「行く!行く行く!絶対に行く!ねぇ、博士は何を出展するの?」
「そうじゃな、お披露目前じゃが、折角だから見せてあげよう」
そういって、レナを研究室の奥のガレージへと案内する。
「これが、『プーグルーグ式業務用大型全自動掃除機 第一号』じゃよ」誇らしげに紹介するその機械は、円盤状の頭部にドラム缶のような胴体と、どんな段差にも強いキャタピラの足。ホースのようにしなやかに曲がる長い4本の腕の先にはホウキ・チリトリ・ハタキにトング。そして、背中には円筒形の網クズカゴと、姿かたちはさきほど廊下で合った全自動掃除機。レナ命名「ゴンちゃん」に酷似しているが、サイズはその三倍以上、レナの背丈の倍はある。
「へぇー凄いねぇ」レナは感心の声を上げて、しばし熟考。ふと顔を上げて「
ゴンパパ!ゴンちゃんより大きいから、ゴンちゃんのパパでゴンパパねっ」
「ふぉっふぉっふぉ。いい名前じゃのぉ」
レナの妙案に博士は満足そうだった。レナの姉たちは、この何にでも名前を付けたがるレナの癖を、10歳にしては子供っぽいと言うが、博士はそんなことを言わない。だから、というわけではないが、レナはこの工房が大好きだ。
「博士、ラジオつけていい?」
「かまわんが、また調子が悪いんじゃよ」
「大丈夫よ。デュークくん今日もよろしくね」
声をかけて、スイッチを入れる。ザザと、一瞬ノイズが入ったが、スピーカーはすぐに機嫌をなおして異国の音楽を奏ではじめた。
「ほらね」
ご機嫌なレナの様子に
「ふぉっふぉっふぉ、レナちゃんはラジオとも仲良しなんじゃのぉ」
博士も満足そうだった。




