レラちゃんパン買いに【番外編SS】(☆)
『外敵女騎士のわたしが竜王様の寵妃に!? 降伏から始まる溺愛生活』番外編ショートストーリー
時間軸は本編最終話前。
単話で読めます。本編よりコメディ感、溺愛度強め。
タイトルは聞き覚えのあるものを拝借してつけています。
『焼きたてのふわふわパンが食べたい!』
常にそう願っていたわたしの願いがついに叶えられる日がやってきた!
パンを作るために、商人から小麦粉を仕入れたのだ。
ドラクの地には上質な天然水が豊富だし、岩塩もある。必要な材料は揃っている。
パン職人ほどではないが、小麦農家で育ったので、作り方は知っている。
「これを混ぜればいいんですか?」
「そうだ。混ぜて、こねるんだ」
ハティは得体の知れない物質に触れるように、恐る恐る指先で水を含んでどろりとした小麦粉に触れた。
「そんなんじゃダメだ。手のひらを使ってこねるんだ」
「そ、そうなんですね……」
明らかに気持ち悪がっている。
「もういい、わたしがやる!」
思いっきり引いているハティにかわり、力いっぱい小麦をこねた。「教えてください」と言ってきたのは彼女の方だったのに、今はわたしの様子を眺めているだけだ。
時間をおいて発酵させれば、あとは焼くだけ。
焼き上がりの香ばしいパンの匂いを思い出し、胸がワクワクすると同時に腹の虫が鳴った。
「おーい! リグ」
城の厨房から外に出て、集落外れでリグと合流した。
「レラの言うとおりに“パンかまど”を作ったぞ」
「ありがとう!」
リグが腕を向けた先には、パンかまどが出来上がっていた。
いびつな煉瓦が積み重なった様子はいかにも素人の手造りだとわかる。
祖国のものに比べれば小さく簡素であるが、パンを焼く上段部分はドーム状になっており、下段には薪をくべる造りになっている。
パンかまどとしてはバッチリな見た目だ。
「よし、これでふわふわパンができるぞ」
意気揚々とパン種を置く。
「……で、火はどうやってつける?」
「そりゃあ、あれだろ。火を起こすなら……」
リグが親指を立てて自身の背後を指した。
指し示す空の方向には、こちらに飛来してくる黒い影が見えた。
……まさか!?
そのまさかである。
ドラゴン姿のベルがこちらに接近してくる。
積み上げた薪を吹き飛ばしながら、かまどの前に着地した。
「……おい。何もこんな大袈裟に火をつけなくたっていいだろう」
呆れ返り、リグにじっとりとした視線を向けるが、逆に威張って言い返された。
「寵妃の口に入る初めてのふわふわパンだ。我が主君自ら、妃のために火を起こしたいと仰せである」
こんな時に改まった態度で言うので、折れる他ない。
それに、せっかくベルがドラゴン姿になってくれたのだ。
「わかったよ。……ベル頼む。薪に火をつけてくれ。あぁ、少しでいい。火の粉を起こすくらいでな。火加減が肝心なんだ」
ドラゴン姿になったベルの口先を撫でると、喉を鳴らした。「わかった」の返事だ。
ベルはスゥーっと息を腹に吸い込み、炎の息を力いっぱい吐き出した。
ゴオォォォーー!!
「えーーーー!! ちょっと!! 強すぎだってば!!」
ドラゴンの口から吐き出された息は炎の柱となってかまどを包み込み……。
全てが灰色になるまで燃やし尽くした。
「……火の粉でいいって……、言ったのに……」
わたしは地面に両手と両膝を着いて嘆いた。
後に残ったのはすす汚れたかまどの残骸と炭のようになったパン種だった……。
「あぁ……」
「……」
リグもハティも、掛ける言葉はなく、呆然と立ち尽くしていた。
「わたしの……ふわふわ……パン」
地面に涙が伝い落ちる。
「……いや……、悪りぃ……、どうも火加減が……難しかった……みてぇだな。ベルはレラのために力いっぱいやったんだ……わかってくれや……」
「……わかってるよ」
リグのフォローが虚しく心に響く。
むしろ、ベルに失敗させてしまい申し訳ない気持ちになってくる。
* * *
「じゃあ、行ってくる!」
「ええ、気をつけてくださいくださいね」
「……あ、俺の分も頼むわ!」
「……わたくしの分もお願いします。ベルの分もお忘れなく」
「わかってるよ!」
自家製パンが焼けないのはしょうがない。
気持ちを切り替えて、麓のヨークシュアのパン屋に買い物に出掛けることにした。
もちろん、交通手段はドラゴンだ。ベルがヨークシュアまで連れていってくれる。
パンを買って往復で数時間。
小麦をこねて発酵させて焼いて……、その時間を考えると買い物に行った方がよっぽど効率的だと、ドラゴンの背にまたがってから気がついた。
それでもわたしは、ドラクの地で作る自家製パンを諦めない。
いつかは必ず……!
そう思いながらも、パン職人が作るふわふわパンのことですぐに頭がいっぱいになり、ウキウキしながらベルの背に乗って買い物に出掛けた。




