王国突撃 (★★)
国王直談判の作戦を作戦を立ててからまもなく迎えた新月の夕暮れ。決行の日がやってきた。
わたしは再びドラクの衣装に身を包んだ。白い厚手の布でできたチュニックで、裾や襟、縁に刺繍が織り込まれている。幾何模様で何色もの糸を使って描かれており、祖国の装飾と比べると異質のものだった。同じ布でできたズボンを履くと、この地に住むドラクの男と同様の格好になった。少し異なるのは刺繍が凝っていることくらいである。
袖を通した時に、改めて彼らの仲間になったのだと実感し、嬉しくなった。
「これを上から身につけてください」
ハティは胸当てとと腰巻を手渡した。それぞれ動物の皮の上に固い鱗が縫い付けられている。わたしが不思議そうに眺めているとハティが解説した。
「ドラゴンの鱗です」
「えっ……!? ってことはみんなの体の?」
驚くとハティはふふふと含み笑いをした。
「ええ、そうです。人間の肌も生まれ変わるように、ドラゴンの鱗も生え変わります。剥がれた鱗を集めて、商人に売っているんです。軽いのに火に強く、強度も高いんですよ」
「……いいのか? こんな貴重なものを」
「ええ、レラだから、差し上げたいんです。……しかも、この鱗の大半はベルのものです」
ハティの耳打ちにドキリとして手を止める。
ベルファレスに体を守られているようだ。安心すると同時に力がみなぎるように感じられた。
「最後にこれを」
「冥界の石……!」
原石を磨き上げた小さな黒い宝玉。それを連ねて長い首飾りに仕上げてある。
「多いに越したことはありません」
ヨークシュアの時は戦闘で紛失しベルファレスに危機が生じた。
より遠方だからこそ、備えが必要だった。同じ首飾りを5つ重ねて首にかける。
「磨き上げ、純度を高めているからこそ、武器としても力を発揮してくれます。投げ込めば、一瞬で相手を蹴散らすことができるでしょう。……さあ、洞窟でベルが待っています。行きましょう」
洞窟ではベルファレスがリグと共に出発の準備をしていた。
冥界のエネルギーを体中に取り込み、力を蓄え、ドラゴン化した状態で待ち構えていた。
背や胴体はなめし革で覆われている。わたしが背に乗り込む時の鞍の役目と人型に戻った時の衣服のかわりになるようだ。首にはわたしと同様、冥界の石を連ねた首飾りが何重にも巻かれており、胴体を包むなめし革にも冥界の石が打ち込まれていた。
「お揃いだな」
ドラゴンになったベルファレスの首を撫でると、顔を下ろして頬擦りをするかのようにわたしの顔に寄り添った。
「準備は万全だ」
「ありがとう」
リグからわたしとベルファレスの剣、弓矢を受け取った。弓矢の矢じりにも冥界の石がつけられている。
「どうした?」
わたしが黙って突っ立っていると、リグが尋ねてきた。
妙に感傷的になってしまう。
「いや、なんでもない。……今までありがとう」
「しみったれた挨拶はごめんだ。俺にはドラクの長は荷が重すぎる。誰がベルのかわりなんて務めてやるか。さっさと行って、さっさと戻ってこい」
リグはそっぽを向いてわたしたちを追い出すようにシッシと手を払う仕草をした。
「ふふふ……、まぁ、ひどい」
照れ隠しで不遜な態度を取るリグの心中を察したハティはただ笑っていた。
作戦会議の場で見せた、憂う瞳を心配していたわたしは、物言わぬベルファレスの鱗に触れ、そっと寄り添った。
「ベル、お前も不安なんだろ? 大丈夫だ。わたしがついている。ふたりでいれば何も怖くない。お前は最強のドラゴンだろ? わたしだって、最強の女だ」
目を閉じ、額を鱗に押し付けた。
ざわざわしていたベルファレスの心が少し落ち着いたように感じた。確かめるようにしばらく触れ合いを続けた。
ベルファレスから離れ振り返ると、待っていたかのようにハティとリグが声をかけた。
「お気をつけて」
「あとは任せろ」
「……ああ、行ってくる」
ドラゴンの背にまたがり、わたしは集落を飛び立った。
太陽は地に沈み、夕焼け空は夜空へと変わっていた。
目指すはわたしの祖国、ヘスティア王国の地。
ベルファレスと共に風になり、漆黒の闇を突き進んだ。
使命を背負い発ってから、初めての帰還。あれからひとつの季節を越えようとしていた。




