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女神の泉 (☆☆☆☆☆)

 ハティが運んできた食事の中にハーブを使った鹿肉の煮込みがあった。わたしが教えた調理法を従者にも伝え、城内では料理の味革命が起こっているらしい。


 ここでもパンが焼けたらいいのにと、思いながら根菜のすり身を焼いたパンのようなものを齧る。


 わたしが知っている生活様式や娯楽を伝え、彼らの生活を豊かにしていくことが、今後のわたしの生き甲斐になっていくかもしれない。

 自分の未来に胸が高鳴った。


 食事の最中もベルファレスは離してはくれず、彼の膝の上に座らされ、遅い朝食を取った。


 薄いガウンの上から肩や背中をなぞられ、「食べにくい」、「すまない」と言うやり取りを何度も繰り返した。


 ベルファレスは「気分ではない」と、食事を口にしなかった。部屋に運ばれた冥界の石で充分らしい。


 そのせいか、わたしはずっと体を擦られ、熱が増していく一方だった。胸がいっぱいですぐに空腹は満たされてしまった。


 食休みを終えると、「とっておきの場所がある」と、ある場所に連れてこられた。



「ここか!?」


 そこはかつてハティに案内された湯殿だった。

 ベルファレスの部屋から直接繋がっていた。以前は従者の通路を使い遠回りしてきたのに。


「いつでも好きな時に入れる」

「それはいいことだが、何がとっておきなんだ?」


 ベルファレスは口の端を上げて自信たっぷりに含み笑いをした。

「ふっ……。レラとふたりきりで入るからとっておきなんだろう? ……来い」


 差し伸べられた手を取る。「滑りやすいから気を付けろ」と気遣われ、湯の近くまで手を引かれた。


(優しい……)


 ふとベルファレスを見ると、楽しそうに微笑んでいた。


「入るぞ」


 ベルファレスがガウンを脱ぎ捨て、湯に浸かった。


「ほら、レラも来い」


 呼び掛けられるが反射的にガウンの衿をぎゅっと掴んだ。ベルファレスしかいないが、明るくこんな開けたら野外で裸になるなんて。

 入浴剤前なのにすでに顔がのぼせてくる。


 ベルファレスと素肌を合わせ、体を重ねたことを思い出し、恥ずかしくなる。あの時は夢中で意識していなかった。でも今は意識してしまって恥ずかしい。


(どうしよう……)


「なぜ困った顔をしているのだ?」


 衿を掴んだまま、おろおろしてしていると、「そうか」とベルファレスが口を緩ませ微笑んだ。


「初々しい様子もまたそそるな。そのまま入れ」


 手を引かれるまま、ガウンを脱がずに湯に入る。

 湯気に包まれる中、膝下だけ湯に浸かった状態で、ベルファレスに抱かれた。

 湯に浸ったところからガウンが水分を含んで肌に張り付き、いっそう体の境界線を目立たせてしまう。恥ずかしさから体をこわばらせていると、ベルファレスが耳元で甘く囁いた。


「俺だけを見て、何も考えなければいい……」


 顎を持ち上げられ、口づけられた。初めは触れ合うだけだったのが、ついばむように変わり、吐息を交わす深いものに変わる。深く口づけられながら、水分を含んで肌に貼り付いたガウンが剥がされていく。


「ベル……」


 口づけの合間に名を呼ぶと、それに応えるように強く抱きしめられ、再び唇を奪われた。

もう羞恥心は水に流れるように消え去っていた。わたしたちは素肌を密着させ抱き合っていた。



「いい景色だな」

「ああ」


 湯に浸かりながら、景色を満喫する。生い茂る林の向こうに見える山肌や空、湯殿周囲の木々をふたりで独占していた。ドラクの首長にだけ許された特権だ。


「なぜここがとってきなのかわかるか?」

「……さあ?」


 ベルファレスが言いたそうに質問を投げかけてくるので、とぼけた態度を取る。


「ふっ……それはだな……」


 ベルファレスはもったいぶって答える。


「この湯殿は始祖のドラゴンが傷を癒したと言われる泉と伝えられているのだ。……だから、レラと一緒に入るのことは俺にとって大事なことなんだ」


 ベルファレスが背中からわたしを抱いた。

ずっと湯に浸かっていたせいもあり、わたしは一瞬でのぼせてしまう。


「頭がくらくらしてきた……そろそろ上がろう」


 ベルファレスの腕をほどき、立ち上がる。湯を滴らせるわたしの背中に向かって、ベルファレスがうっとりとした声で言った。


「美しい……」


 ベルファレスが背中の傷痕に触れるので、ビクッと体が震えた。もう痛くもないはずの傷口がジンジンする。


「この傷もレラが必死に生きてきた証だ。この傷さえも愛おしい。この傷があるからより美しいのだ」


 生まれて初めて、わたしのすべてを受け入れてもらえた気がした。その言葉に心が満たされていく。わたしの中であたたかい何かが生まれ溢れ出していく。


「俺の女神……」


 わたしは振り返り、溢れんばかりの笑みを向けた。


 愛している。


 その言葉を乗せて、心から微笑む。

 隠すことなく、惜しげもなく、ありのまま素肌の自分を晒して。


 ベルファレスが余裕のない顔で抱きしめてきた。熱い吐息を耳元に吹きかけてきた。


「初回は丁寧にと思っていたが、二度目は我慢できない。手荒く抱いてしまうかもしれないが許してくれるか?」


 返事のかわりに首に腕を回し、きつく抱き返す。



 わたしからの返事を受け取ったベルファレスは、わたしを抱えてそのままベットに運んだ。


 水滴が残る素肌を合わせ、互いの体を求め合った。晒された肌の上に愛の施しを受け、時も忘れて抱き合った。


 気づくと眠りに落ちており、目を覚ました片方が誘い、再び抱き合う。夜がふけるまでそれを繰り返した。


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