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レラの決心 (☆☆☆)

「わたしは……王国の人間だ。その事実は変えられない。そのせいでわたしを信頼できないのは……致し方ないと思う。でも……! 信じて欲しい。わたしは……ドラクの味方だ。この地でお前たちと共に生きると誓う!」


 そう言うと共に、肌身離さず身につけていた王国騎士団のネームタグを引きちぎ理、洞窟の大穴に投げ捨てた。

 かつては勲章だと思っていたが、今ではゴミのようだ。王国にとってわたしは従順な捨て駒だったにすぎない。縛っていた首輪を自ら外し、自身を解放した。

 

 リグもハティもハッと一瞬大きく瞳を見開いた。

 ハティは瞳を潤ませているが、リグだけはわたしの涙に飲まれず冷静だった。訝しむ目つきでをわたし睨む。


「何を今更……。俺はまだ、お前を信じることができない。お前は俺たちに何をもたらす? お前を信じて、俺たちはどんな得をする?」


 わたしは涙を拭い、胸を張って答えた。


「王国の侵略計画を阻止し、和平の道を模索する。民族や種族に上も下もない。ドラクと人間が仲良く暮らせる世界を作る」

「馬鹿言え! そんなことできるわけが……」

「為す自信があるから言っているのだ。……王国に乗り込み、国王を説得する。武力ではなく、話し合いで解決する!」

「……お前が?」

「ああ、わたしが先頭に立ち、国王との交渉に導こう。国の代表同士で世界の未来について話し合うのだ」


 さっきまで何を言っても言い返していたリグの言葉が途切れた。わたしから目を逸らし、静かに思案に耽っている。


「わたしのことを信じてくれるか?」


 そう問いかけると、リグは一呼吸置いてゆっくりとこちらを見た。


「……お前のことを信じるのはそれを為してからだ。もし裏切ったり、失望させることがあれば、今度こそお前を追放する。ベルが許しても、俺はお前を許さない」

「もちろん、わたしもそのつもりだ。裏切り者は殺してもらっても構わない。何より、ドラクのためにこの命を賭して挑む」


 わたしたちの様子を眺めているだけだったドラゴンが力強く唸った。


「ベル……」


 ドラゴンに駆け寄り、ごつごつとした鱗を撫でた。


「危険な目に遭わせてごめん。おかげでやっと決心がついた。ベルの想いを受け入れ、共に生きていくと誓う」


 ドラゴンは喉を鳴らして、わたしに答えた。


「ハティ、ベルと話がしたい。人の姿に戻っても大丈夫か?」

「ええ、回復はゆっくりになりますが、ベルファレス様もそれがお望みでしょう」


 ハティは濡れた頬を手のひらで拭っていた。


「猶予はねぇ」


 リグは焦っているせいか、荒々しい口調だ。


「わかっている」

「……いいでしょう。ベルファレス様の回復を待つ間、その時間をレラ殿に差し上げます。その後、ベルファレス様と共に今後のことをお話ししましょう」


 リグは自身が身に付けていた外套を脱ぎ、わたしに手渡した。人の姿に戻ったベルファレスにかけてやれ、と言うことらしい。


「生意気な口をきいてすまない。ドラクの運命はハティの身にも関わる。それだけ俺も必死なのだ」


 リグはドラゴン姿のベルファレスに向かってそう告げると、すぐに踵を返して洞窟を出ていった。


「では、また……」


 ハティは会釈をした後、小走りでリグの背中を追いかけ、二人は去っていく。



 2人だけの空間になったことを確認し、ドラゴン姿のベルファレスにもたれ掛かる。ドラゴンは首を降ろし、地面に顔をつけていた。

 ちょうど鼻孔のあたりをさすり、そこにそっと唇を添える。牙の首飾りで、人差し指の先を切り、血の滴をドラゴンの顔に落とした。


 ドラゴンはまばゆい光を放ち、その中で輪郭が人の形に変わっていく。

 発光がおさまると裸体のベルファレスが姿を現した。


「ベ……」


 名前を呼び終わる前にベルファレスが抱き締めてきた。わたしの体は大きく暖かい腕の中にすっぽりおさまる。


「危険な目に遭わせてすまない。作戦だったとは言え、ひどいことを言ってすまない。許してくれ……」


 ベルファレスの腕の中で懺悔しながら、涙を零した。


「あの時、ベルはわたしを信じると言ってくれた。……でも、わたしは不安だったんだ。ちゃんと謝りたかった。ごめん……ベルファレス、ごめん……ごめん……」


 謝罪の言葉を繰り返し、ベルファレスの胸にしがみつく。最後の方はかすれ声しか出なかった。


 ベルファレスは黙ったまま、ただわたしを抱いていた。言い終わるのを待ってから告げた。


「もういい。もう充分謝ってくれた」


 優しく頭を撫でられる。それに安堵し、ベルファレスの胸に埋もれる。

 暖かくて安心する。しばらくその感覚にひたっていると、顎をくいっと持ち上げられた。ベルファレスの熱い視線とかち合う。


「俺はずっとレラを待ち続けた。お前からの言葉が欲しい。物言わぬドラゴンの前では饒舌だったのに、俺の前では黙りこむとはずるいだろう」


 急に気恥ずかしさがこみ上げ、体が熱を帯びる。

 ベルファレスは今度こそ逃してはくれない。わたしの瞳を射抜くように見つめてくる。


 この鋭い眼差しはずっと変わらない。ずっとわたしのことを飽きずに見てきた瞳だ。


 やっとわたしはそれに応える決心がついた。胸の奥深くから、想いが滲み出て、それを言葉に載せた。


「……好きだ。ベルファレス。ベルと共に生きていきたい……!」


 ベルファレスは目を大きく開き、驚いた顔をするので、慌てて言葉を付け足す。


「……えっと、……違ったか? 愛している……とか? ベルに命を捧げたい……とか? ベルなしでは生きていけない……とか? ……ああ、何と言えばいいんだ?」

「ははは……もう充分。上出来だ」

「……上出来?」


 ベルファレスが声に出して笑うので、首を傾げる。正解がわからない。


「……レラのことだから、わかりにくい言葉で言うのかと思ったが……こんなにもはっきりと愛の言葉が聞けるとは……充分待った甲斐があると言うものだ。もういい加減、俺はお前の“恋人”なんだな?」


 わたしは返事の変わりに小さく頷くと、ベルファレスはつかさずわたしの顔を覗き込んだ。


「レラ、言葉で聞かせて欲しい……」

「ああ……わたしはベルの女だ。……好きにしろ」


 熱にのぼせておかしくなったのか。勝手に口が動いた。


 自分の口から発せられた言葉に恥ずかしくなり、目を逸らそうとしたその時、ベルファレスが唇を重ねてきた。唇を奪うように軽く口で食む。


「ドラゴンの俺にした口づけのお返しだ。……好きにさせてもらうが、待った分これだけじゃ俺は満足できない。俺の想いを受け入れてくれるんだな?」


 返事をする前に額に口づけが降ってくる。


「うん……」


 広くてたくましい胸板に頬を寄せる。


 愛がどんなものか、言葉で語ることは難しい。でも、これが愛ではなかったとしたら、何が愛なんだろうか?


 そう思いながら、ベルファレスの胸に抱かれた。


 きっと、これが『愛する』ということなんだろう。


 ベルファレスは裸体に外套を羽織り、わたしを抱き上げる。「こうしたかった」と、唇を頬に落とし、自らの居城にわたしを運んでいった。


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