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王国の魔の手2

 城までの帰り道、気になっていた“3人”の関係について問いかけると、ベルファレスが遠くを眺めて懐かしみながら語った。


「俺達が子供の頃と言うと、人間にとってはだいぶ昔のことになるが、寝食を共にしたきょうだいのような仲だった。リグは強くて、俺は勝負で負けてばかりだった」

「ベルが?」


 ドラクの現首長が家臣に負けていたなんて。思わず驚きの声が漏れてしまう。「意外だろう?」と、ベルファレスは笑いながら話を続けた。


「ドラクの長が死ぬと、次の首長を決める。候補者同士で闘い、勝ち残った者が長となる。強い者がなる掟だ」

「負け続きだったベルがリグを打ち負かして、長になったのか! 凄いじゃないか」


 わたしの嬉々とした反応にベルファレスは表情を曇らせた。


「いや、リグに頼まれたんだ。リグはわざと負けるようにして、俺を勝たせた」

「何故だ?」


 リグは首長になることを拒み、八百長をしたと予想した。人の上に立つことを好まないように見えた。それが、理由だと思ったのだが、ベルファレスの答えは意外なものだった。


「ハティを伴侶にするためだ。ドラクの長は人間の女を迎えることが決まっている。リグはハティと結ばれたい。俺の方は始祖の伝説のように人間の女に強い憧れがあった。……お互いの利害関係が一致したということだ」

「そっか……ふふふ」


 笑いが溢れてしまい、ベルファレスが訝しげにこちらを見てくる。


「なぜ笑う?」

「ドラクも人間らしいところがあるんだなって……」


 首長の座には女が絡んでいた。好きな女と共に生きたい。その想いは人間の男だって変わらない。安心したことで溢れてしまった笑みだった。ベルファレスもつられて笑う。


「俺たちは一部人間でもあるぞ」

「そうだったな。長が人間の女を娶る掟になにか理由があるのか?」

「ハティは閉鎖的に生きるドラクが少しずつ人間に近づくためでないかと言っていた。人間との交配が進めば、俺たちの子孫が生きやすくなる、と。……これも掟のせいだが、ドラクの長になってから、俺を“ベル”とは呼ばなくなったな」


 もうすぐ集落の城壁ところで、ベルファレスは話を切り上げた。最後の方、付け足すように語った部分は少し寂しそうな声だった。


 そのあと、急いでハティの元へ戻った。



 すりおろした薬草を煎じて飲ませたり傷口に塗ると、リグが軽快な回復を見せ始めた。

 医務室に運び込まれた大量の鉱石の効果もあったかもしれない。


 やっと自力で上半身を起こせるようになったリグの様子にハティは涙を流した。ひどく心配していたんだろう。いつも飄々としていた彼女の初めて見る涙だった。


「傷口が塞がってきました……本当によかった。レラ殿のおかげです」

「3人のためなら喜んで力になる。お前たちは昔からの“友人”なんだろ?」


 リグとハティはきょとんと顔を見合わせた。ベルファレスだけがわたしの問いかけに反応した。


「そうだな。レラ。大事な俺の大事な“友人”を救ってくれて、本当に感謝する」


 そう言った後、瞳を鋭くギラリとさせてベルファレスが話を続けた。一変して張り詰めた空気に変わる。


「猛毒の銃弾が気がかりだ。……レラを疑うわけではないのだが、我々の動きが平原の民に探られている可能性はないか」


 わたしは単独でこの地を訪れた。

 もしや、背後を誰かにつけられていた? 可能性があるとしたら、ドラクの領土直前までだ。


 下手なことは言えず黙っていると、リグがポツリ口を開いた。


「狙撃されたのは、山の麓にある、ヨークシュアと呼ばれる農村から程なくのとこでした。その晩は月明かりもなく、深夜でした」


 リグはドラゴンの翼に銃弾を食らい、その姿をなんとか保ったまま飛んで帰った。その後、城壁の外の高原で人の姿で倒れていたところを明け方に発見されたそうだ。偵察の途中で力尽きないように冥界を石を首飾り状にしていくつか身につけて行ったが、狙撃により鉱石は紛失してしまったことで、体力も底を突き、解毒の自己回復も機能しなかったようだ。


 王国の人間がヨークシュアに潜伏していることは確実で、暗がりの中で標的を狙える狙撃手はよっぽどの腕に違いない。


(……まさか、ランティスか?)


 兵器開発部隊や狙撃部隊の育成にもランティスは絡んでいた。特務部にも狙撃手を配置したいとか、そんなことを国王に進言していたような……。


「……すまない。きっと王国の人間の仕業だ。ドラクの領土を侵略しようと次々と刺客が送り込まれているようだ」


 その場が緊張感に包まれた。


「レラ、疑ってすまないが、正直に答えてくれ。お前の知るところではないな?」

「ああ、わたしは直接知らない」


 わたしの答えにベルファレスは少し緊張を解いた。柔らかい声に変わる。


「よかった。安心した。大切な俺のレラに敵意など持ちたくない。お前の故郷や立場もあることは重々承知しているが、いかなることがあっても、レラは俺の傍にいて欲しい。これが俺の願いだ。……受け入れてくれるか?」


 ドラク達を助けたい。それにはベルファレスの傍にいて、彼らと共に生き、彼らを支えることが最善だと思った。

 わたしの腹は既に決まっていた。


「もちろんだ」


ベルファレスが差し出した右手を両手で包んだ。今度こそ、彼の鋭い瞳をしっかりと見つめて。

 わたしと見合ったベルファレスは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに喜びの顔に変わった。


「感謝する、レラ。信じているぞ」


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