決起、そしてすれ違い (☆☆)
リグが「気になることが……」と話を切り出す。
「ヨークシュアからやってくる商人がまだやってきていません」
毎月やってくる行商が、予定より半月も遅れていると言う。
「近隣の森で落ち合い、警護しながらこちらに向かう手はずですが、今月はいっこうに姿を見かけません」
「それは気がかりだな」
ベルファレスが顎に触れ、しばらく思案した。
このタイミングでリグが王国の小銃で被弾している。
頭の中である可能性を思い描いた。
「商人がヨークシュアで足止めを食らっているのではないか?」
先に言い出したのはベルファレスだった。それは私も同じ考えだった。
「わたしもそう思う。リグが被弾した弾から、王国の人間が拘束している可能性が高い」
ピリリと緊張感が走る。
「我らのことについて口を割る可能性は……?」
ベルファレスの問いにハティは自信なく答えた。
「……口が固く、信頼のおける商人です。……しかし、命を天秤にかけられた時……それでも口外せずにいられるでしょうか?……わたくしたちのせいで命を落とすことになったら……とても……」
後半は震えていてか細い声だった。
現時点でも商人の命の保証はない。まだここに王国の人間の手が届いていないと言うことは、まだドラクの集落については口外されていない。
それか、死人に口なし。拷問の末に、殺されたかだ。
わたしの中で熱い何かが燃え滾った。
「助けに行こう!」
3人は目を丸くする。一番に反応したのはベルファレスではなく、リグの方だった。
「馬鹿か! わざわざ、我らの居場所を知らせに行ってどうするのだ!? 下手に動くべきではない! ……はっ、申し訳ございません」
後半はベルファレスに対してだった。意見をしたあとで、首長の女を軽蔑したことに気付き慌てて詫びた。
「……良い。リグの意見はもっともだ。俺も以前はその考えであった」
「以前は、と申しますと?」
リグに真意を問われたベルファレスはわたしの目を見て語った。
「隠居し、守るばかりの暮らしにも限界がきているようだ。子孫のためにも外への道を開かなくてはいけない」
「それは我らも侵略のための道を進むと言うことですか!?」
リグは力強く反発した。無意味な争いは望まない心の内が感じ取れる。ベルファレスはリグの言葉を受け止めた上で、こう返した。
「侵略ではなく、共存するための道を模索したい。武力で侵略されれば武力で返すしかない。今までとは異なる方法を取らなければ異民族とはわかり合えない。……しかし、困難なことではない。レラとこうやって共に過ごし、時には笑い合えるのだから」
ベルファレスと見合って頷いた。わたしも同じ気持ちだったからだ。
「その前に、ヨークシュアで不遇に遭っているかもしれない“友人”を救いだしてやらねばな」
「商人を救出しに、ヨークシュアに向かわれると言うことですね」
ハティは恐る恐る尋ねた。
「そうだ。この役目は俺が引き受ける。レラ、お前も来てくれるな?」
その誘いにわたしは胸を張って答えた。
「もちろんだ」
どこか納得していない様子のリグと不安そうなハティを残し、わたしたちは医務室を出た。
「おい、どこへいく?」
自室に戻ろうとしたところ、ベルファレスがわたしの肩を強く掴んだ。
「えっ……?」
「お前が行く部屋はこっちだろう」
振り返るとベルファレスが熱っぽい視線を向けてきた。
「こっちって?」
行き先をベルファレスの部屋の方向に誘導され、やっと事態を飲み込んだ。
部屋に誘われ……、連れ込まれそうになっている!?
ベルファレスは無言でわたしの手を掴む。
「ちょ、ちょっと……」
引かれる手を振りほどくと、ベルファレスは口を尖らせた。
「レラは『いかなることがあっても俺の傍にいる』と誓ったではないか。お前は『もちろんだ』と答えたはずではなかったか?」
寂しそうに拗ねている。
「あ、あれは……ドラクに協力すると言うことで……、決して片時も離れずベルのそばにいると言う意味では……」
しどろもどろに弁明すると、ベルファレスは大きくため息をついた。
「……これだけ待っても、まだお前は俺の想いに応えてくれないのか。……期待した俺が馬鹿だった」
そう言い残し、去ってしまった。その背中はいつもより小さく見えた。
(どうしよう……)
ベルファレスをがっかりさせてしまった。
わたしに対して真っ直ぐ向けてくれる想いを受け取らずに、無碍にしてしまった。
きっと彼を傷つけてしまった。
申し訳なさは焦りになり、やがて不安に変わった。
息が詰まり、胸の奥が痛い。その痛みでどうしようもなく心が切なくなってくる。
初めて抱いた感情だった。




