心歩み寄る日々6 (☆☆☆)
会話が途切れてしまい、わたしは何もすることなく焚き火を見つめ続けていた。
ベルファレスはわたしに目もくれず、ひたすら魚の焼け具合を見ていた。
気を遣っているのだろうか?
これまでベルファレスから言い寄られてばかりだったので、こうやって何もしてこない、かつ、何をして過ごせば良いかわからない時間は苦手で、余計に居心地を悪くさせた。
「焼けたぞ」
「ありがとう」
やっと魚が焼き上がった。芳ばしく焼けた川魚にかぶりつく。淡白で脂の少ない身がさっぱりしていて美味だった。
「おいしい……」
「よかったな」
会話は再び途切れてしまう。互いに無言で焼き魚を食した。
それ以降、ベルファレスもわたしも、言葉を交わさず、焚き火をただ眺めていた。
空腹が満たされ、体も温まってきた。そのせいか、さっきまで居心地が悪いと感じていたこの空間も心地良いものに変わっていた。慣れれば、ベルファレスの隣もずいぶん落ち着くものだ。
ゆらゆら揺れる赤い炎。ほのかな明かりにパチパチと薪が燃える音が眠気を誘った。
あくびを噛み殺し、眠くない振りをする。それを察したのかは知らないが、ベルファレスがしばらくぶりに口を開いた。
「この前の決闘のことだが……。レラの褒美を忘れていた」
「決闘?」
「忘れたのか? お前が俺を倒しただろう。地面に手をついてしまった。だからあの決闘はレラの勝ちだ」
「ああ、そうだったか……」
すっかり決闘の勝敗のことを忘れていた。そもそも勝敗や褒美なんてどうでもよかった。
「……何がいい? 望みは何だ?」
ベルファレスはゆっくりと問い掛けた。喉に何かがひっかかっているように歯切れが悪い。相変わらず鋭い目つきだが、ほんの少し憂いを含んでいた。思い詰めているように感じる。
わたしは今純粋に思うことを口にした。
「……久しぶりにふわふわのパンが食べたい」
その回答にベルファレスは面を食らってぽかんとしたあと、声を出して笑った。
「ははははは……」
「なぜ笑う!?」
馬鹿にされたのかと思って恥ずかしくなる。眠気も吹っ飛んでしまうくらいの大声を出した。
「すまん……」
ベルファレスは笑いを落ち着かせた後、心情を語った。
「まさか、『祖国に帰してくれ』と言い出すのではないかと思ってな。……だから、お前を負かすために、手を抜かずに本気で責めたのだ。それでも俺は負けてしまった」
その手があったか。
今のわたしにはその考えは思いつかなかった。祖国に帰る選択肢はわたしの中で薄れつつあることに気づいた。
「信用されていないとは心外だな! 誓約の儀式をしただろう!」
胸を張って文句を言うと、ベルファレスは緊張を崩しフッと笑った。
「そうだったな。いつレラが俺の“恋人”になってくれるのか、少し気になっていてな」
鋭い瞳をさらに細め、こちらに視線を送ってくる。憂い含んだ瞳はいつもより色っぽい。
普段は避けていたのに、まっすぐベルファレスの目を見つめ返した。
憂いがあったのは、自信がなかったからなのかもしれない。わたしはフンと鼻を鳴らした。
「らしくないぞ。ベル。いつもの自信はどこにいったんだよ」
「お前が俺を不安にさせるんだ……」
ベルファレスはわたしから目を逸らした。そして、焚き火を見つめて呟いた。
「……その願いを叶えたら、”恋人”になってくれるか?」
「そうだなぁ。ベルの努力次第でな!」
「相変わらず手厳しいな……」
拗ねているような、しょげているような口調は、初めて会ったときとは比べものにならないほどで、愛らしかった。
ベルファレスはそれきり、黙り込んでしまった。無言で火を見つめていると再び眠気が襲ってくる。
「ベル……寒くないか? そろそろ服を返そう……。わたしの服も乾いただろうから……」
眠くなる前に城に戻ろう。
そう思って言い出すが、口にするだけで体は動かなかった。
ベルファレスはズボンのポケットから手のひらに収まるくらいの石を出して見せてきた。
「こいつがあるから大丈夫だ」
黒い石を手渡してきた。石炭のような鉱石だ。
「……これは?」
「ここの洞窟で拾った冥界の石だ。この土地で良く採れる。冥界のエネルギーもここから得ることができる」
なるほど。これが王国が言っていた新規エネルギー源になりうるコーラル鉱石のことらしい。
手で包むと、熱が伝わっていき、体がじんわりと暖かくなっていく。
「ふああ……」
堪えきれずにあくびが出てしまう。
目蓋が重くなり、視界が薄らいでいく。ぽかぽかとした何かがわたしを包む。
「俺のことは気にするな。眠っていろ」
声が上からおりてきて、眠気を自覚する。体がベルファレスの方に倒れていき、たくましい胸に迎えられた。
(ああ、わたしは……)
そのままベルファレスの胸に抱かれ、まどろみの中に落ちていった。




