第12話『トップランカー』その8
・2021年9月25日付
細部調整
やはりというか、残り1分を切った辺りでトラップがあった。ある意味でも発狂譜面と言うべきか?
「おいおい、あれをクリアできるのか?」
「無理ゲーだろ?」
「リズムゲームは大抵の高難易度で、発狂があると言う」
「シューティングゲームだったら、これは積むだろうな――相当なシューター以外は」
モニターで観戦しているギャラリーも、2分が経過した辺りで状況が変化した事には驚いている。
彼らはモニターに映し出されている光景に対し、呆気にとられているに違いない。
別のギャラリーは、この光景を見て自分もARゲーマーになりたいと思う人物も――いるだろう。
それ程のスタイリッシュなプレイを――アルストロメリア達は行っているのだ。
「信じられない。これが――ARゲームなのか?」
「VRゲームよりも面白いのでは?」
「VRとARでは比べようがない。同じ物差しで語るのは炎上サイト等の思う壺だ」
「そう言った話題は週刊誌に取り上げられ、それこそ芸能人の不倫問題等で炎上するような状態になる」
「確かに――それこそ、コンテンツの異常な消費を加速させると言うか――」
更に別の男性は、VRゲームよりも面白いのではないか、と語り始める。
それこそ――ネット炎上勢力が使いそうな常套手段であり、下手をすればスキャンダルを金のなる木と勘違いしているマスコミと同レベルだろう。
その状況で偽アルテミシアは、予想外の攻撃を仕掛けてきた。まさかの第3の攻撃である。
その攻撃方法には、驚きの声が――。
「あんな攻撃、ウィキにもなかったぞ」
「どういう事だ?」
「むしろ、別のボスが使用する技を使っているのかも」
「別のボス? それこそあり得ない」
「もしかすると、別のARゲームの技を盗用しているのかも?」
「似たようなジャンルでは、ソースコードの盗用はネット上でも言われていることだな――」
ギャラリーの方はざわつき始める。中にはその様子をスマホで撮影しようと言う人間も出てきていた。
ネットカフェや自宅、谷塚駅や草加駅のモニターで視聴しているギャラリーも驚いていたので一目瞭然だ。
実際、あのステージまで到達したプレイヤーも少ない、全ステージクリアのプレイヤーも指折り数えるほど――という状況では、驚くのも無理はないが。
「あの技は明らかに――」
第3の攻撃をチェックした霧島は、自分があのフィールドに残れなかった事に対し――右手の拳を作って強く握りしめる。
自分ならば、あの攻撃に対するパターンが何となく分かるだろう。そして、アドバイスも出来るかもしれない――そう思っていた。
ファンタジートランスはあの時まで未プレイだが、それでもエアプレイ勢力のように知識を自慢するような事も、彼女は行わない。
その上で、あのプレイを披露してネット上で話題となったのだ。ある意味でも全面クリアは出来なかったが、実力者と言える。
「次こそは――必ず!」
霧島は強い決意を胸にバトルの行方を見守る事にした。
しばらくして、霧島の周囲から離れていたギャラリーも危険性はないという事もあって、じょじょに集まりつつある。
第3の攻撃は偽アルテミシアが指を鳴らす事で、何もない空間からビームダガーを呼び出し、それを相手に向かって飛ばす。
この攻撃方法に関して、何処かで見覚えがあると考えているシナリオブレイカーだったが、思いだそうとしても残り時間的には間に合わない。
逆にパターン攻略対策で運営が実装したと割り切り、譜面に集中した方が早いと判断するプレイヤーだっている。
「あの攻撃方法――まさか?」
アルストロメリアは、あの攻撃方法に若干の覚えがあった。ウォースパイトのネット炎上案件、そこに出てくるウォースパイトが使用していた能力である。
しかし、偽アルテミシアがウォースパイトの一件を知った上でデータに取り入れたのか――と言われると疑問に残るだろう。
それに加えて、ウォースパイトの一件はARゲームとは無関係のはずだ。マスコミはVRゲームもARゲームもゲーム犯罪が起こりうると思っているようだが。
(まずいな――これは使うべきではなかったか)
偽アルテミシアは、この攻撃を使った事に対して失敗したと考える。
いくら攻撃力が高く、他のプレイヤーを圧倒出来る力でも――時と場所を考えなければ、その行動は自滅を呼びかねない。
あの時、負けフラグに言及された事が偽アルテミシアにとっては、焦りを生んだのだろう。
「――そう言う事か」
その状況で、シナリオブレイカーはようやく接点が繋がったと――攻撃方法を見て確信する。
しかし、仮に攻撃方法が同じだったとして――その方法で回避できるのかは疑問だが。
考えていてもはじまらない。シナリオブレイカーは、大博打を打つ感覚で――シールドビットを自分の目の前に展開した。
その読みは見事に的中し、目の前に飛んできたビームダガーからはビームの様な物が放たれたのである。
そして、シナリオブレイカーは目の前の偽アルテミシアの正体を確信した。
「あの攻撃方法は――ウォースパイト事件のアレか」
シナリオブレイカーの回避方法を見て、ビスマルクも第3の攻撃に対処し始めた。
他のプレイヤーも追随するのだが、アルストロメリアだけはシナリオブレイカーの一連の行動をチェックしておらず――。
「あの攻撃は――!?」
アルストロメリアの目の前、そこには真空刃が花たれていた。まさか、第3の攻撃ではなく――こちらが来るとは予想外である。
他のマッチングメンバーも、このタイミングで真空刃が来るとは予想もしておらず――意表を突かれたと言う表情だ。
しかし、アルストロメリアは攻撃を回避しようと考えていた時には――既に回避していたのである。
彼女の反応速度は、他のメンバーよりもプレイ経験等を踏まえても早い部類ではないのに――。
「一体、何が起きた?」
「どう考えても常人の速度じゃない」
「ガジェットの特殊能力か?」
ギャラリーの方も、驚いているのだが――それ以上に驚いたのは、運営側のスタッフに違いない。
カトレアが試作型ガジェットを投入していたからと言っても、プロアスリート並の反応はあり得ないからだ。
それ程の動きをすれば、ARガジェットでもリミッターがかかるゲームも存在する。
「カトレアさん、あの能力は――」
モニターでバトルの様子を見ていたスタッフは指摘するのだが、カトレアは言葉を失っていた。
自分がやってきた事、それが実はバランスブレイカーを生み出すきっかけだったのではないか――と。
「あれだけの反応速度があれば、世界大会でも金メダルは取れますよ!」
「まさか、プロゲーマーではなくプロスポーツマンを育成する為に――あのガジェットを?」
「これは間違いなく、他のARゲームよりもヒットにつなげられるヒントに――」
周囲からは色々な声がするのだが、スタッフの声はカトレアには聞こえていないだろう。
周囲の声をシャットアウトしているのではなく、この光景は想定外の展開だったからである。




