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オケアノスオブイースポーツエリア  作者: 桜崎あかり


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第12話『トップランカー』その9

・2021年9月25日付

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 ラスト30秒、そこで見せたアルストロメリアの動きは――周囲のギャラリーが歓声を上げるほどの印象を与えた。


 蒼い残像を展開する程の速度で動く彼女は、まさに流星のようだと周囲は語る。こういう感想に言及するのはARゲームに知識がない人物に限られ、経験者は違う部分に言及していた。


 彼女のスキルは確かに前作をプレイ済みでも、付け焼刃で身に付けられるような物ではない。それを踏まえると――。


「やはり、そう言う事か」


「彼女は前作経験者、あるいはシリーズ常連だったと言う事だ。そうでなければ、あそこまで柔軟に対応はできない」


「まさか、このマッチングで経験者が複数人いるとは」


「経験者って?」


「ビスマルクは全面クリア経験者と言う話だ。それに、他のプレイヤーも――」


 中継を様々な場所で見ているプロゲーマーは、アルストロメリアの動きを見て即座に経験者である可能性を指摘していた。


 だからこそ、あの動きには納得出来たと語る。ただの視聴者やにわかプレイヤーが突っ込めるかと言うと――無理な相談だが。


「しかし、どのタイミングで気付いたのか――アルストロメリアがファンタジートランスのプレイヤーだった事実を」


「こっちだって、どのプレイヤーが前作もプレイしていたのかを把握するのに苦労はする」


「ライバル登録の有無か」


「それもあるだろうな」


 何とかアルストロメリアが経験者と把握したプレイヤー勢は、ため息を漏らす。それ程にあのバトルが――予想外の展開になったことを物語る。


 フィールドのバグと思われるテクスチャーは元に戻ったが、偽アルテミシアを含めたアーマーのバグは解消されていない。


 プレイ開始から1分が経過した辺りで、他のギャラリーが気づかないレベルで細かなバグが発生していたのである。


 これらがデータの処理落ちとみるユーザーもいるだろう。その証拠が本物のアルテミシアが放った必殺技に発生していたバグだ。


「後は、ここを何とか対応できれば――」


 アルストロメリアは右手にロングソード、左手にライトセイバーと言う二刀流に変更して最後の発狂譜面に挑む。


 ホーミング機能のある武器を使用しても問題はないが、あの数ではとても対応しきれない。


 目の前に見えるのは――100に近い数のターゲットだ。あれを近距離武器で挑むのは、無謀だとウィキにも書いてある。


 例え処理落ちだろうと、バグが発生していようとアルストロメリアには関係ない。それを言い訳にしてゲームオーバーになったとは言えないからだ。


「えっ!?」


「一体、何が起こって――」


「これがARゲームプレイヤーの本気なのか?」


【信じられない】


【人間の限界を超え過ぎだろ】


【冗談ではない】


「これが、ARゲームの恐ろしさか――」


「もはや、何が起きても驚かないぞ」


 その動きはジャパニーズニンジャのようであった――と他のギャラリーは語った。


 彼女の速度は、まさに特撮を見ているような印象を受けたとも語ったギャラリーもいる。


 アルストロメリア、彼女は何をプレイヤーに見て欲しいと思ったのか?


 超絶プレイなのか、発狂譜面を攻略していく姿なのか、それともプレイその物か――。



 曲もラスト10秒に達した辺りで、遂に決着となった。偽アルテミシアに止めを刺したのは、アルストロメリアではなく――。


「これ以上、マッチポンプにつきあう義理もない――これで、お前達の推しアイドルの芸能事務所も終わりよ」


 偽アルテミシアを撃破したのは、何と本物のアルテミシアである。


 アルストロメリアがターゲットの連続撃破をしているタイミングで――残りゲージ的に止めを刺したのが、アルテミシアと言う事らしい。


 彼女の放った捨て台詞を聞く事無く、偽アルテミシアはそのままCG演出とともに消滅した。


《ステージオールクリア》


 今のマッチングで同じフィールドにいたプレイヤーのARバイザーに表示されたメッセージ、それはファンタジートランスを全面クリアした事を意味する。


 そして、最後のドアも開かれた。その先に何が待っているのかは誰も知らないだろう。アルストロメリアは一足先に、その扉へと走り出していた。


【遂に全面クリアが出たのか!】


【おめでとう!】


【おめでとう!】


【これはすごい!】


【全面クリアなんて初めて見る】


【扉自体がトラップと言う事はないのか?】


【それはないだろうな。これでクリア――のはずだ】


【このマッチングを見た後では、他のプレイヤーのバトルに満足できなくなりそうだな】


【そうなっていくと、今後は有名実況者や歌い手等がプレイした動画とかでない限りは――】


 中継のコメントでは全ステージクリアを達成したプレイヤーを祝福するコメントがあった。


 その一方で、このマッチングが二度と見られないのではないか――という声もある。


 それ程に祭りが終わった事に対して、寂しさを感じる観客がいたのも事実だろう。しかし、始まりがあれば必ず終わりが来る。


 ゲームオーバーが存在しないゲームもあるのかもしれないが、ARゲームに対する問題が山積みの中では――ゲームオーバーがある事で現実に戻す役割もあるのだろう。



 ゲームが終了し、シナリオブレイカーことアイオワはARバイザーを解除する事無く、ファンタジートランスのフィールドを後にした。


 他のプレイヤーの中にはインナースーツはそのままに素顔をさらしているプレイヤーもいるが、施設内であればバイザーを脱ぐ必要性はない。


 さすがに施設外に出た場合、フルフェイスと勘違いされそうな形状もあって――脱がなくてはいけないのだが。


「ゲームには始まりがあって、必ず終わりがくる。シリーズものでも、いつかは完結する――」


 アイオワは色々とこみあげてくる思いはあるのだが、まずは別のARゲームフィールドへと移動をし始める。


 そして、ファンタジートランスのフィールドを振り向く事無く――足早に姿を消した。

この様子を見ていたガングートとビスマルクも、特に何も語る事無く別のフィールドへと向かう。



 一方で、ログアウト後のアルストロメリアは待機ルームの方でベンチに座っていた。


 あまりにも現実離れしたゲームをプレイした事からなのか――疲れが一気に出たような形でもある。


 息を整えるのに1分かかっているのが、その証拠だろう。もしかすると、色々と考える事があったかもしれないが。


「どうやら、貴女も――そちら側のプレイヤーになったのですか」


 ベンチに座っているアルストロメリアの前に姿を見せたのは――賢者のローブを着ている人物だった。


 アルストロメリアはカトレアと一瞬思ったのだが、髪の色も雰囲気も若干異なっている。しかし、誰なのかは即座に分からない。


「あなたは、一体――」


 何とか息を整えたアルストロメリアも、一目でカトレアとは違うと気付く。そして、名前を尋ねるが――彼女が名前を語る事無い。


「私はARゲームに関して、色々と考えを持っている人間――そう思っていただければ結構です」


「考え? ARゲームは楽しい物とか、そう言った単純なものではなくて?」


「そうです。ARゲームは、みんなで楽しむ新たなゲームと言う時代は――終わりを告げています」


「どういう時代が来るの?」


「そうですね――日本のコンテンツ流通に重要なメッセージを伝える為の舞台装置でしょうか」


「舞台装置?」


「オケアノスの一部施設も、しばらくすればリニューアル期間として閉鎖されるでしょう。パチンコ店の新台入れ替えと同じ感覚で」


「例えが別分野すぎて、さっぱり見えてこないけど」


「――そうですね、ゲーセンで新台を入れ替えると言えば分かりますか?」


 2人のやり取りは続く。アルストロメリアは疲れている関係もあって、あまり怒鳴ったりは出来ない。


 一方で、賢者のローブの人物も彼女の体調を踏まえて――あまり大声で話そうとはしないようだ。


「それなら分かるけど――何が起こるの?」


 アルストロメリアの一言に対し、彼女はこう言った。


「新たなゲームが現れ、それが再び今回のネット炎上と同じ事を引き起こす――」


「それって、特撮シリーズもので恒例の――」


 アルストロメリアが特撮シリーズと言った所で、賢者のローブの人物は何かに気付き始めた。


「特撮シリーズですか――。そう言えば、近い内にロケテが行われるとか――」


 そして、賢者のローブの人物は別の場所に貼られていたポスターを見つめる。


 このポスターは電子式タイプではなく、紙のポスターだ。盗難防止と言う意味で特殊なカバーで防水した物だが――。


「これって――?」


 アルストロメリアは一目では何のロケテなのかは分からない。彼女には特撮作品の知識はないようだ。


「ここには、パワードフォースと書かれているようで―ー!?」


 賢者のローブの人物は何かに気付き、そのまま何処かへと足早に向かって行った。


 アルストロメリアは、彼女の名前を聞きそびれてしまったとも言える。


「一体、彼女は何を伝えようと――」


 パワードフォースのポスターを見ても、アルストロメリアには感じる物がない。


 特撮ヒーローのデザインは最近の作品をベースにしているようだが、これがゲーム作品なのか?


 もしかすると、パワードフォースを原作にしたARゲームなのかもしれない。


 版権作品をARゲームにする動きがあるのは、以前からあった。しかし、表に出たのは今回が初だろう。


 パワードフォースのロケテストは何回か行われていると公式サイトにもあったが、本当にこれがブレイクするのかはロケテの反応次第だ。


「今は、こっちよりもファンタジートランスを極めて見ようかな」


 この後、アルストロメリアはパワードフォースのロケテストにも足を運んだようだが、プレイしたと言う話はネット上では流れていなかったと言う。


 ファンタジートランスで活躍したトップランカーは、やはり他のゲームへ進出はせずにとどまっているケースが多くあった。


 しかし、プロゲーマーやARゲームの流行に敏感なプレイヤーはパワードフォースに流れていき、後にサービス開始まで秒読み状態――。


 それはあくまでも、アルストロメリア達の関わらない後の物語である。

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