第12話『トップランカー』その10
・2021年9月25日付
細部調整
あれから一カ月が経過したゴールデンウィークのある日だった。天気は晴天で、雨が降るような雲は全く見えない。
その中で、あるゲームのロケテ会場に姿を見せたのはアルテミシアだったのである。彼女は既にARアーマーを装着済み――。
「これがパワードフォースか――」
評価はプレイしてから判断を下すと言うのが、彼女のやり方だ。未プレイで批判だけを続ければ、ネット炎上勢力と変わりない。
そうしたやり方は正しいコンテンツ消費と言えるものではないだろう。だからこそ、正しい道に導くのがプレイヤーのやる事である。
パワードフォースがどのようなゲームだったのかは、ロケテレポート等では詳しく書かれていない。これには別の事情があるのだが――。
【ゴールデンウィークにロケテストを始めた割には――情報が少ない】
【守秘義務が発生しているようなロケテストではないと思うが、何があった?】
【ARゲームのロケテストは、大体がこんな感じだろう】
【そうなのか?】
【そう言う物だ。ARゲームは、市民権を得ているようで――実際には違うと言う事だ】
【真相不明としたいのは、どちらなのか。芸能事務所か、運営か、それとも――】
様々なコメントが流れる中、それらを鵜呑みにすれば芸能事務所やまとめサイト、広告会社の思う壺と考える人間が――新たな勢力を生み出す。
それがある意味でもガーディアン以上の勢力なのかは――まだ分からない。
「これが別勢力を呼ばなければいいが――」
一連のまとめも確認していたアルテミシアは別の事件が起こる事を懸念している。
世界的なデスゲーム禁止はネット上でも浸透したとは言えず、ARゲームを巡って色々な個所で炎上するのは避けられないかもしれない。
結局、ゲームで全てを決めたり、ARゲームがイースポーツ化したりするには時間がかかるだろう。
「今は――ゲームを楽しもう」
色々と考えなくてはいけない課題は存在する。ネット炎上も規制法案が叫ばれる中で終わる事はない。
結局は一連のサイクルを繰り返している状態が――今のコンテンツ業界なのだろう。
旬のジャンルが入れ替わり立ち替わり――アルテミシアが懸念しているのは、こうした消耗し続けるだけの状態を、何としても終わらせたい事だった。
ロケテストは一カ月行われ、そこで得られた情報の分析が続いている。
それらをベースにして新たなARゲームを生み出すのに新システムを導入する必要性があったのは、言うまでもないだろう。
特撮番組であるパワードフォース、それを完コピは無理にしても――世界観を再現する事は可能かもしれない。
「これらのデータ、どうするつもりですか?」
パソコンの前で男性スタッフが、色々と言いたい事はありつつも手を動かしている。
データに関しては他のARゲームよりも少ない方なのだが、上層部にはチェックが付けられているデータのみを提出するように指示されていた。
「こっちが分かる訳がない。とにかく、データの集計が完了次第に――」
「とにかく、送るデータ量はロケテストの集計では少ない方だ。すぐに終わらせるぞ」
別のスタッフがスタッフに色々と指示を出すのだが、優秀なスタッフが引き抜かれたゲーム会社では――。
それでもバイトを雇って何とかしているが、ロケテストのデータを整理するのも一苦労だった。
データ整理を行っているスタッフは数十人ほどだが、部屋の広さが縦長で20メートルあるかないか――と言うスペースである。
スペース的に駅のホームと言う例えが正しいのかどうか分からないが、ここは改装準備中となっているオケアノスのメインエリア跡地――。
あるいは、準備中のエリアをレンタルしている場所と言うべきかもしれない。本来であれば、ここは予備サーバールームとして使用する予定のようだ。
「この私でよければ、力になろう――」
片方の若干遠い入口から姿を見せたのは、ビジネススーツ姿のカトレアである。賢者のローブを着ていないので、誰なのか分からないスタッフが多かったが。
「あなたがどうして? ファンタジートランスの方は?」
「あちらは他のスタッフに譲って来た。私では荷が重かった訳ではないが、一連の責任を取った形とも言える」
彼女の言う責任とは、ネット炎上は回避されたが――試作型ガジェットを運用した事にあった。
致命的レベルではなかったが、一歩でも間違えると危険極まりないガジェットを運用した事は――あってはならないことである。
下手をすれば人命も――と言う事で、辞職では済まなかっただろう。それ程にカトレアの独断は運営にもダメージを与えたのだ。
炎上に関与した偽アルテミシアを逮捕、資金源だったまとめサイトの摘発、オケアノスのセキュリティホールを発見した事――ある程度の功績破認められたが、それでも責任問題は別だった。
最終的にはファンタジートランスのスタッフからは外され、別の部署に送られる事になる。
6月某日、ファンタジートランスの運営体制が変更され、ゲームバランスの見直しも行われた。
イベント会場で登壇した担当者はカトレアではなく、別の背広を着た男性が新しい担当になっている。
「今回は、我々の不手際によりプレイヤーの皆様に不愉快な思いをさせてしまった事を、この場を借りてお詫び申し上げます」
最初の挨拶は、まさかの謝罪だった。そして、一連の発言後には観客に向かって頭を下げる。
ここでカメラのフラッシュが多くなるような場面だが、マスコミ向けの会見ではない為にフラッシュは全くない。
これに関しては周囲の観客も違和感を持つのだが――。
「本来であればサービス終了も視野に検討をしてきましたが、様々な新作ARゲームがリリースされている中、ファンタジートランスにも多くのファンがいる事を思い知りました」
「一部のスタッフは、今回の問題を受けて入れ替えなくてはいけなくなりました」
「しかし、我々は今回の問題でネット炎上をしたコンテンツは即座にオワコンとなり、黒歴史化すると言うネガティブな考えばかりが先行し、その結果が――あの事件になった、と反省する次第です」
「様々な部分でご迷惑をかけてしまいましたが、これを教訓にしてファンタジートランスの運営を続けていこうと思います――」
他にも担当の男性からは話があったが、覚えているのはこの辺りである。
ゲームの運営初心者だった訳ではないのは事実である一方で、彼らは1回のネット炎上が起きた事ですぐに終了してしまうと考えていた。
ソシャゲで大炎上した一件、超有名アイドル商法絡み、まとめサイトによるマッチポンプ――そうした事件は、簡単に風化しない。
これらの事件を起こせば自分達の言う事を聞いてくれる、あるいは思うがままに会社を動かせる――そう思っているカリスマネット炎上者もいるだろう。
そうした勢力を恐れてしまえば、新たなゲームを作る事は難しい――そうスタッフは考えて、ファンタジートランスの存続を決めたと言える。
一連の会見を観客席ではなく、センターモニターから見ていたアルストロメリアは、極度の緊張をしていた。
自分のやった事がネット炎上勢力に悪用され、こうした謝罪会見になってしまったのではないか――と。
「私は――これから、どうすれば」
言葉を絞りだそうとしても考えが出てこない。
「ネット炎上におびえていたら、何も始められない。負けフラグ等を恐れて何もしないと決めてしまえば、可能性は失われる」
そんな中で、ベンチに座っていた一人の女性が声をかけてきた。自分の事を言えるかどうか不明だが、体系が似た者同士。
髪型がメカクレであるか、そうでないか位なので――あえてスルーをしようとしたが、今の自分ではその勇気もない。
「何を始めれば、何をすればよいのですか?」
アルストロメリアはベンチに座る彼女に尋ねる。そして、ため息をひとつ――その後に目を合わせてきた。
「そうね――また、頭をからっぽにしてゲームを楽しめば?」
即答である。しかし、何も考えないでプレイすると言うのは――自分も忘れかけていた物だ。
それを、思わぬ形で思いだしたのは――思わぬ収穫と言える。
「ありがとうございます!」
メカクレの前髪を――と思ったが、その時には既に彼女の姿はない。一体、彼女は何者だったのか?
しかし、別のセンターモニターを確認して――その人物の正体に気付いた。
「VRゲーマーの――ウォースパイト!? まさか、あの――」
アルストロメリアは、彼女が現在進行形でネット炎上が続くウォースパイトである事に驚く。
今も炎上と戦っている人物がいるのに、自分はここで終わってどうするのか――?
「ありがとう――アークロイヤル」
プレイヤーネームがウォースパイトだが、モニターを再度確認したら既に別プレイヤーのネーム表示に変わっている。
底に書かれていたのは、アークロイヤルである。しかし、この名前を後に――ウォースパイトは名乗る事になるのだが、それは先の話。
同時刻、草加駅近くのコンビニでARバイザーを被っていたのはビスマルクである。
ARバイザーは一種の携帯電話代わりにもなる為、こうした利用法もあるのだが――。
「ここならば、インナースーツでも目立たない。何とかなりそうね」
自分よりも露出度が高いようなコスプレイヤーも何人かいるような、歩行者天国に近いコスプレイヤー解放エリア。
ビスマルクのいたコンビニの前にあった道路は、丁度コスプレイヤーの写真撮影イベントが行われていたので隠れ蓑としては都合がよかったと言える。
『――炎上案件は処理完了だ。あの試作型ガジェットは世に出るのは早すぎた』
『しかし、良い収穫もあったのは事実。偽アルテミシアの運営していたサイトは、超大物まとめサイトだった。アレを封じたのは大きい』
『それに――有名ランカーの実力を調べられたのも大きいな』
ボイスチェンジャーで声を変えている人物は、女性だろうか? ただし、名前はアンノウンと書かれており――誰からの連絡かは分からない。
その口調等で誰かは分かりそうだが、ビスマルクは――様子を見る事にする。
『君のデータも調べさせてもらった。確かに、実力はあるようだな。それに――』
「それに?」
『すまない。今のは忘れてくれ』
『今回の事件は、後に大きな災いが起こるのを防ぐ為の訓練――そう言う事で処理してある』
『ガーディアンの方も欺くのは難しかったが、問題はない』
「南雲飛龍、WEB漫画家の貴女が――どうして、そこまで知っているの?」
通話の主は南雲飛龍、WEBでは名の知れた漫画家らしい。しかし、ビスマルクは南雲がそこまでの情報を知っている事を疑う。
そして、匿名通信をした理由も分からないままだ。
『我々としては、ネット炎上が起きては困る。ARゲームのイースポーツ化は回避不能だが――』
「ネット炎上を起こすのは、貴女の漫画の内容に問題があるのでは?」
『言ってくれるな、ビスマルク』
「某週刊誌の不倫スキャンダルの真似事をネット炎上でやるのは――問題があるのでは? 貴女の人格を疑うわ」
ビスマルクも南雲のやり方に関しては不満を持っている。
しかし、それでも彼女の密かな手助けなどがなければ、偽アルテミシアの事件は更に深い物になっただろうか。
『人格の疑うのであれば、新たなネット炎上を起こそうとしている人間の方に問題がある』
「新たな炎上?」
『あくまで噂の範囲だが――』
『大規模テロ事件に匹敵するであろう、芸能事務所と広告会社が組んだ炎上事件が近く起こるだろう』
『そこまでの事件が起これば、日本のコンテンツは超有名アイドルのA社とJ社だけが唯一神――という歪んだ考えの人間を増やす』
『そうなってしまっては、日本は大打撃を受けるだろう。それこそバブル崩壊が3回起きるレベルの経済破綻が起こるだろうな』
「経済から崩壊したら、それこそ日本は――」
『デスゲーム禁止法案で、命のやりとりと言う部分は全面的に禁止――次に懸念すべきは、経済と言うわけだ』
『これだけは言っておこう。WEB小説でも超有名アイドル商法に疑問を抱く作品がある。それを真似るであろう事件も出てくる可能性がゼロではない』
『だからこそ、我々はフィクションである漫画やアニメ、ゲームの様なサブカルコンテンツで訴え続ける必要性があるのだ。超有名アイドルは異世界転生や異世界転移に代表されるチートプレイヤーであると』
通話はここで切れた。しかし、彼女の考えはかなり歪んでいるのは間違いない。
だからこそ――彼女の様な存在を許せない部分もあるだろう。それでも――超有名アイドルのようなリアルチート待ったなしの存在は、何とかして駆逐しないと行けないのだ。
「ミストルティン――あなたは、何処へ向かおうとしているの? そして、このオケアノスは――」
それから数カ月後にはリニューアルの為にオケアノスの一部エリアが閉鎖される事となった。
大型施設の方も未完成箇所や調整が必要な部分が発見され、その整備を急ぐ事となり――拡張ゲーム都市とネット上で言われていたオケアノスも、ブームが過ぎる事になる。
物語はアルストロメリアからアークロイヤルへバトンタッチされる事となり――数年後にはパワードフォース事件が起きた。
やはり、時代は――コンテンツは――流行り廃りを繰り返す。その時代に幕を閉じる為、彼女は立ちあがるのかもしれない。




