第12話『トップランカー』その6
・2021年9月25日付
細部調整
ブーメランのエネルギーチャージを続けるアルテミシアだが、敵に襲撃されたりしていない。
他のプレイヤーが妨害をしようと言うのであれば、フレンドリーファイアの判定を受けるだろう。
そうした事情もあって、敢えてスルーをしているのだ。しかし、ターゲットはブーメランを持っていない腕にビームライフルを固定、それで対応している。
そして、エネルギーチャージが完了したと同時にチューブをパージ、ブーメランを偽アルテミシアに向けって思いっきり投げ飛ばした。
その勢いはあまりにも高速で、ゲームのデータとしても処理が追い付いていない。それ程に彼女の使用した特殊技は周囲の想像以上の展開を生み出している。
本来であればARガジェットの必殺技使用時でもデータの処理は正常に行われ、それこそARバイザーで見る事が出来るはずだ。
しかし、アルテミシアが放ったブーメランは違っている。明らかにデータのノイズも周囲に発生――バグと受け取られかねないような挙動をしていた。
「あれは、もしかして――」
この様子をモニターで見ていたスタッフも、違和感に気付き始めた。ファンタジートランスで使用されているガジェットは、必殺技を含めてもバグが起こるような事はない。
ロケテストの時でも、大まかな動作不能やゲーム進行に支障をきたすレベルのバグは報告されており、いくつかは修正したはずだ。
「その通りよ。一部プレイヤーが使用しているものだけではない、ファンタジートランスで使用しているガジェットは試作型――」
「カトレアさん、貴女はなんてものを実装したんだ――」
「しかし、それを実装しなければ、今の状況を打破なんて出来ない――」
「最初から、芸能事務所等が乱入してくるのは想定済みだったのか」
「違うわね。最初から来るのが分かっていたのは、アイドル投資家やネット炎上勢力に代表される――オケアノスで活動が禁止されている勢力」
「マッチポンプとしてファンタジートランスを要したのならば、貴女のやっている事は――」
「私はあくまでも狂言回しに過ぎない。ある程度の助言はしたとしても、実際に戦うのは――ランカーなのよ」
「カトレアさん、貴女も同罪じゃないのですか?」
男性スタッフとカトレアのやり取りは続く。しかし、カトレアはスタッフの目を見て語る事はなかった。
モニターで展開されている――メインバトルの方が、彼女にとっては重要だったのだから。
「同罪と言うよりは――最初から狂言回しと言う立ち位置ではなく、映画の監督だった――と言うべきか」
別の男性スタッフが、カトレアに関して語るのだが――その発言に関しては彼女自身も否定はしない。
「ファンタジートランスをプレイするのは、あくまでもプレイヤーの役目だ。最終判断を下すのは、スポンサーやマスコミ等ではない――」
カトレアは一定のお膳立てをしたのは事実である。しかし、ゲームの最終的な評価をするのはプレイヤー自信にゆだねていた。
しばらくして、カトレアはトレードマークとも言える賢者のローブをCG演出で消滅させ――インナースーツ姿となる。
さりげなく巨乳であり――それは男性スタッフが驚きの声をあげるほどだ。
アルテミシアが見せたバグ技は別の意味でも話題となる。まとめサイトではファンタジートランスを欠陥ゲームと煽り、炎上を狙ったりしていた。
大抵のサイトは芸能事務所AとJの資本金で動いているような物だったのだが――この一連した流れが判明するのも後からだったと言う。
【アレはバグ技ではないだろう】
【バグと言うよりは、処理が追い付いていないと言うべきだ】
【しかし、それほどの高性能ガジェットが出回るものか?】
【ネット上の噂では軍事兵器に転用できそうなレベルの物があると言う話だ】
【ソレは信じがたい。それこそ――ホビー系アニメの世界じゃないか】
【しかし、あれほどの高性能ガジェットが試作されていると言う話は色々な場所で聞く。嘘と決めつけるには――】
ネット上では、アルテミシアのバグ技に関しての考察や議論も行われている。
しかし、そうした状況はゲームフィールド内のプレイヤーには聞こえていない。
あくまでも、こうした声もノイズ扱いとしてゲーム内では流れないのだ。
「まとめサイト等が動く事も想定済み。それに――」
カトレアがタブレットで表示していたのは、大手まとめサイトである。
このサイトはARゲームに関してネガティブなイメージを植え付けるとして、オケアノスでは閲覧禁止扱いにされているサイトだ。
オケアノス内で閲覧禁止になるサイトは、海外系のサイトは当然だが――まとめサイトや大手芸能事務所の運営しているサイトも対象になっている。
それに関して、芸能事務所側は営業妨害として抗議をしているようだが、ARゲームに対して彼らが起こしている事と変わりないとして却下を続けていた。
「我々の真の目的は――」
そして、カトレアはタブレット端末に表示されているサイトを別のサイトに切り替えた。
そのサイトとは――アカシックレコードとネット上で呼ばれているサイトで、様々な情報が載っている。
カトレアは、このサイトでファンタジートランスのヒントを得た。
そして、試作型ARガジェットの導入を決めたのもアカシックレコードの記述を見て――とある懸念を持ったのである。
「コンテンツ流通の正常化――それには変わりないだろう。オケアノスのやり方では、いつか芸能事務所と同じであると非難される。だからこそ――」
だからこそ――そうつぶやいたと同時にカトレアは、アルテミシアの演奏している場面を見て思った。
「我々は、独自のやり方を行わなくてはいけない。仮にベースはアカシックレコードだったとしても、まとめサイトや一部メーカーの様なやり方ではなく――」
アカシックレコードをベースにファンタジートランスを生み出した。それは間違いない。カトレアも、そう自覚している。
内容を有名ゲームのパクリ等とプレイせずに避難し、それをネットで炎上させる勢力――。そうした勢力を完全駆逐するのがコンテンツ流通の正常化に近づく、そうカトレアは思っていた
しかし、カトレアは気付かない内に様々な重圧等の影響で考えが歪み始め、次第に芸能事務所AとJの思う壺になっていたのかもしれない。
「あとは――私ではなく、プレイヤー自身が決め――?」
自分の役目もここまでか――そう考えているカトレアだったが、ある映像を見て――。
「どういう事なの――これは」
表示されているゲージがバグでおかしくなったのだろうか? 明らかに偽アルテミシアのゲージは回復していたのである。
本来の仕様では、ボスが回復する事はあり得ない。ハンティングアクションやFPS等では回復アイテムもあるかもしれないが――これはあくまでもリズムゲームだ。




