3676.水面下の連帯
アミエーラたちボランティアは、アーテル共和国の首都ルフスからラキュス・ラクリマリス王国の王都第二神殿に戻った。集会所で会議机を囲み、何とも言えない顔を端末に向ける。
机の中央に端末を置いた若者が、画面をゆっくりスクロールした。
〈天球議会は星の標の残党だ〉
〈証拠の音声もある〉
〈天球議会はバルバツムに逃げた星の標から鎮痛剤系違法薬物を仕入れてる〉
〈天球議会は痛み止めと称して、避難所で違法薬物をバラ撒いてる〉
〈天球議会は避難所でヤク中を量産して自爆テロの捨て駒を調達している〉
〈天球議会が配った薬でヤク中にされた奴が居たら連絡して欲しい〉
〈一緒に復讐しよう〉
〈ただの復讐じゃない。みんなを薬物から守る聖戦だ〉
〈慈善活動を隠れ蓑に星の標のテロ部門にカネを流してる〉
〈天球議会に寄付してはいけない〉
過去の投稿は一カ月に一回か二回程度で、犯行予告以外の投稿は全く拡散されなかったが、フォロワーは二万人以上も居た。
年配のボランティアが首を捻る。
「フォロワー多いのに反応が妙に少ないな?」
「反応? あぁ……全然拡散されてないね?」
「フォロー数とフォロワー数が同じなのに?」
数人が自分のタブレット端末で検索し、同じアカウントを表示させた。
アミエーラは、鎮花茶の薬効で落ち着いてきたが、それでも端末を手に取ろうとすると手が震える。
隣に座る年配の女性が気付いて、端末をアミエーラと自分の間に置いてくれた。
拡散は全くないが、どの投稿にも三桁は賛成がある。
ざっと見た感じ、コメント欄への投稿はなさそうだ。
学生ボランティアが、画面から顔を上げて言った。
「これ……最近まで鍵掛けてたんじゃないかな?」
「鍵……? どうしてそう思うんだ?」
白髪の男性が、打てば響く勢いで学生に聞いた。
「この……星の標=天球儀会に薬物依存症にされた被害者の会ってアカウントのフォロワーとかの欄を見たら、相互ばっかりだから」
「それが鍵とやらとどう関係あるんだ?」
老人は学生の説明にピンと来ない顔で更に聞いた。
「えぇっと……このアカウント、今は世界全体に公開してますけど、最近までは鍵掛けて相互フォローの人だけの限定公開だったんじゃないかなって」
「鍵って……仲間内だけで内緒話してたってコト……なのね?」
アミエーラの隣のおばさんが自信なさそうに確認する。
「まぁ、大体そんな感じで、限定公開だと、拡散機能が使えなくなるんスよね」
「拡散はできなくても、賛成の機能は使えるのね?」
おばさんが念を押す。
「そうっス」
学生が頷くと、白髪の老人もようやく納得した顔になった。
「相互フォローだと、外から見えないダイレクトメッセージの機能で遣り取りできるから、この……今、見えてる投稿のコメント欄には書けないような……何かの相談とか、そう言うの、してたんじゃないかなって」
若い女性が言葉を濁して補足すると、白髪の老人は唇を引き結んで自分の端末をつついた。
会議机を囲む十数人の神殿ボランティアたちが、微妙な顔で画面を睨む。
魔獣駆除業者が大きく息を吐いて、緑髪の頭を掻いた。
「するってぇと、アレか? このアカウントの管理者は、星の標のせいでヤク中にされたっぽい人に声掛けて仲間に引き入れて、二年くらいこっそり連絡取り合って、天球儀会の連中に自爆テロやって来いって命令されて、爆弾渡された時に天球儀会って言うか星の標の事務所に戻って仕返ししたってことか」
アミエーラの隣に座るおばさんが、自分の端末で件のアカウントのフォロワーの一人を表示させた。
直近の投稿も、少し前の投稿も、薬物依存症の息子の病状と家庭の苦境を短文で綴ったものばかりだ。
プロフィール欄には、高校生だった息子が発熱し、避難所を訪れたボランティアがくれた鎮痛解熱剤を飲んで以来、薬物依存症で苦しむようになったと嘆く言葉が並ぶ。
アカウントの作成は去年で、投稿を遡ると、息子の離脱症状が悪化の一途を辿るのが見て取れた。
「家族や身近な人が薬物依存症で悩んでる人をみつけて声を掛けて、外から見えないとこで話をして、復讐の仲間に引き入れたのね」
アミエーラは、声に出して考えをまとめた。
会議机を囲むボランティア仲間が無言で同意を示す。
「この犯行声明、投稿時間ぴったりだから、予約配信なんじゃないかな?」
「予約できるもんなのか」
年配の男性が感心する。
アミエーラは頷いた。
「えぇ。コンサートの予定とか、事務所が解禁する時間に予約配信してます」
「便利そうだけど、このアカウントの人、もしかして……生きてないとか?」
アミエーラに画面を見せてくれるおばさんが、怯えた顔で囁いた。
「それは……わかりませんけど」
SNSのトレンド欄には「星の標に復讐」「天球儀会はテロ組織」「ヤク中の反撃」など物騒な言葉が並ぶ。
「あッ! ニュース、ニュース見て!」
若い女性ボランティアが、端末を握りしめて叫んだ。
おばさんが、SNSを閉じてポータルサイトを開く。
ニュース欄のトップに「ルフスで連続自爆テロ」の見出しが躍る。
ボランティア仲間が息を呑み、それぞれの端末に視線を走らせた。
おばさんが関連記事を次々と開く。
短信の断片的な情報を繋ぎ合わせると、アミエーラたちが遭遇した北ルフス星友教会付近の事務所を含め、首都ルフスの計七カ所で爆発が発生。複数の死者と多数の重軽傷者を出した。場所はいずれも、天球儀会の事務所が入るビルだ。
「あッ、天球儀会の公式が声明出してます!」
「何て?」
若い女性が声を上げ、魔獣駆除業者が聞いた。
天球儀会の声明に気付いた女性が読み上げる。
「えぇっと……この度は、国家再統合推進派による卑劣な爆弾テロで亡くなられた会員の方々に哀悼の意を表します。また、負傷された皆様の一日も早い平癒をお祈り申し上げます。我々は決して、暴力に屈しません。必ず、このアーテルを知の灯で照らし、恒久平和を樹立します……ですって」
「犯行声明出したの、国家再統合推進派じゃなくて、ヤク中だよな?」
緑髪の駆除屋が端末を見て首を傾げた。
学生ボランティアが予想を語る。
「ヤク中の犯行声明に気付いてないとか?」
「お悔やみの声明、コメント欄に犯行声明のリンク貼られてンぞ」
予想を語った学生の隣の学生が、彼の肘を小突いて自分の端末を見せた。
おばさんも、天球儀会の声明を開く。
コメント欄が炎上し、どんどん投稿が増えて、読むのが追い付かない。
中年男性が叫んで端末を掲げた。
「こっち、追加来た!」
「こっちってどっち?」
「ヤク中の犯行声明、続き出た!」
アミエーラの隣に座るおばさんが「星の標=天球儀会に薬物依存症にされた被害者の会」のアカウントを表示してくれた。
ユアキャストの再生画面が埋め込まれた投稿で、これも予約配信らしく、時間が丁度だ。
「え? マジ? もう一時間も経ってんの?」
「えッ? ご、ごめんなさい。お夕飯の支度しなくちゃ」
誰かの驚きの声で、隣のおばさんが席を立つ。
アミエーラは恐縮して礼を言った。
「あ、いえいえ、有難うございました」
数人が、おばさんと一緒に会議室を後にした。




