3667.四度目の会議
魔装兵ルベルは、印暦二二〇一年の終わりをアーテル共和国領内で迎えそうだ。
アーテル共和国の大統領選挙が終わっても、ミェーフ大領領は相変わらず命を狙われ、警護任務が継続する。
ルベルはラキュス・ラクリマリス王国軍所属だが、アーテル領ランテルナ島に住む魔獣駆除業者の擬装身分がすっかり板についた。
ミェーフ大統領は精力的に視察をこなし、国内各地の復興状況などを自分の目で確認して回る。
一カ所に留まれば、そこを国家再統合派のテロリストやキルクルス教系国際テロ組織星の標に狙い撃ちされる可能性が高いからだろうが、移動中の危険は度外視するようだ。
実際、何度も暗殺未遂事件が発生した。だが、ルベルを含む魔法戦士の護衛が常時、三人から四人で貼り付いていれば、魔獣も力なき民のテロリストも確実に撃退できる。
力なき民ばかりの大統領警護官たちだけでは、到底、今日まで守り切れなかっただろう。
印暦二二〇一年十二月下旬。
ミェーフ大統領は自ら使節団を率いて、ラキュス・ラクリマリス王国の王都ラクリマリスで開かれた第四回国家再統合会議に出席した。
シポーブニク大佐と魔装兵ルベルは、ランテルナ島の魔獣駆除業者に成り済ました上で、ミェーフ大統領から個人的に雇われて護衛する。
近衛兵セルペンチニートは【姿隠し】の腕環を装着し、密かに大統領を守る。湖の民に特有の緑髪や緑色の体毛を誤魔化せないからだ。
ラズートチク少尉と一般兵トレウゴールカは、フリージャーナリストの偽装身分で情報収集しつつ、護衛任務を補助した。
ラゾールニク少佐は今回、大統領警護の任務を外れて別件で動く。
ミェーフ大統領と共にラクリマリス城の密議の間に入れるのは、シポーブニク大佐、魔装兵ルベル、近衛兵セルペンチニート、アーテル人の大統領警護官の四人だけだ。着席した大統領の背後の壁際で控える。
……自分の国のお城にこんな風に入るの、なんか変な気分だな。
この会議はもう四度目だが、ルベルは何度来ても慣れなかった。
ラキュス・ラクリマリス王国側は、議長のカミェータ神官長、黒髪に白髪の混じるリューチク外務大臣、緑髪のゴルテーンジヤ外務大臣、明るい赤毛のプンツォーヴィ外務次官、緑髪のコンフェータ外務次官、ローク・ディアファネス大司教が出席する。
これまでと同じ面々に加え、今回はウヌク・エルハイア将軍も臨む。
アーテル共和国側も、使節団を率いるミェーフ大統領、ホプリテース軍務大臣、ファブラ外務大臣、アテウス外務次官、セパリウス大司教、緑髪のコーラカル自治会長は前回までと同じで、これにアーテル共和国陸軍対魔獣特殊作戦群のルペルス隊長が加わった。
ルペルス隊長は三十代半ばくらいの男性で、本土のアーテル人にしては珍しく、光ノ剣の魔法を発動できる程度には魔力を持つ。
今回、双方が武官を参加させたのは、議題が軍事に関する件だからだ。
カミェータ神官長が手短に型通りの挨拶を並べ、会議の開始を宣言した。一呼吸置いて表情を改め、ミェーフ大統領に視線を注ぐ。
「早速、本題に入りましょう。バルバツム連邦軍が、アーテル人の孤児を衛生兵としてドラクラ共和国に派遣した疑いについて、現在の状況をお聞かせ下さい」
「我が国と致しましても、到底、看過できる事件ではございません。バルバツム連邦陸軍は、我が国への復興支援、救援物資の搬送を隠れ蓑に我が国の孤児を誘拐し、事もあろうか、呪歌【癒しの風】を教え込んでアルトン・ガザ大陸南部の紛争地域に少年兵として送り込んでいたのですから」
ラキュス・ネーニア王家の王族に問われ、ミェーフ大統領が背筋を伸ばして応じる。
実際、アーテル共和国は、ミェーフ大統領が記者会見を開き、公然とバルバツム連邦に抗議した。
バルバツム連邦政府は、その二日後にようやく「調査する」とは言ったが、未だに謝罪の言葉などはひとつもない。
……その調査って多分、ドラクラ共和国領内のバルバツム軍駐屯地で例の告発動画を撮影した兵士が誰か、犯人捜ししてるだけなんだろうな。
魔獣駆除業者に扮した魔装兵ルベルは、ミェーフ大統領の護衛なので、会議に口を挟むことなどできない。壁際に並んであれこれ考えを巡らせるだけだ。
こんなことは、誰でも思い浮かべるだろう。
ミェーフ大統領が説明を続ける。
「バルバツム連邦軍に対して、我が国の基地内に設けた連邦軍の駐屯地への立入り調査を打診しましたが、拒まれました」
「調査すら拒むとは……疚しいことがあると言っているようなものですね」
ゴルテーンジヤ外務大臣が、肩に掛かる濃い緑の髪を払いのけ、侮蔑を籠めた声を出す。
「ですが、その翌日には、一転して我が国の調査官の立入りを許可しました」
「何かみつかりましたか?」
陸の民のリューチク外務大臣が、ミェーフ大統領に続きを促す。
ミェーフ大統領は浮かない顔で答えた。
「調査の結果、駐屯地のどこにも、拉致された孤児どころか、子供は一人も……子供が居た痕跡すらみつかりませんでした」
「そんなコトだろうと思ってな、我が国は例の動画が出回った時点で独自に調査を実施した」
ウヌク・エルハイア将軍が言うと、アーテル側の関係者は、ラキュス・ネーニア王家の王族でもある将軍に期待と不安の入り混じる目を注いだ。
ミェーフ大統領が先を促す。
「調査結果は、我々と共有していただけるのでしょうか?」
「共有するのは構わんが、そちらでも、バルバツムでも、魔道具による調査結果は証拠採用できぬのであろう?」
いずれも、キルクルス教国だ。
ミェーフ大統領は、もどかしげに応じた。
「……はい。しかし、子供たちの行方を捜すのは、バルバツム軍を処罰する為ではございません。避難所などから連れ去られた孤児を救出する為です」
「残念ながら、子供らは既に殺害され、遺体は証拠隠滅の為、魔獣の餌にされてしまった後だ」
ウヌク・エルハイア将軍は険しい顔で簡潔に答えた。
アーテル側の出席者たちが息を呑む。
魔装兵ルベルたちは、ラゾールニク少佐からの通信で先に知らされた。
「あの……紛争地域に衛生兵として派遣された子供たちがどうなったか……も、調べて下さったのでしょうか?」
アーテル共和国のセパリウス大司教が小さく手を挙げ、震える声で質問した。
ウヌク・エルハイア将軍は、キルクルス教の聖職者に顔を向けて答える。
「あぁ……調べたとも。生きて居れば、帰国させる手助けをできると思ってな」
「どのように調べて下さったのでしょう?」
アーテル共和国のファブラ外務大臣も、恐る恐る聞いた。
☆バルバツム連邦に抗議……「3644.連邦軍に抗議」参照
☆例の告発動画……一本目「3638.拡散前の確認」、二本目「3639.二本目の動画」「3640.枯野に放つ火」参照
☆独自に調査……「3646.孤児兵の処遇」参照




