3657.運転手の愚痴
アミエーラは今回も、アーテル共和国の首都ルフスでの事前活動を無事に終えられた。
ラキュス・ラクリマリス王国の王都第二神殿に所属するボランティアの一人が、アミトスチグマ王国の夏の都へ【跳躍】で送り届ける。
南門で待つ運び屋フィアールカが、ボランティアが帰るのを待って声を掛けた。
「アミエーラさん、お疲れ様。どうだった?」
「う~ん……街路樹の根元にご遺体が放置されてて、ギームン神官が【火葬】して下さいました」
「あらあら……」
二人は総合商社パルンビナ株式会社の役員マリャーナの招待を受け、その足で彼女の邸宅へ向かった。
家主のマリャーナ、居候のファーキル、運び屋フィアールカと共に食卓を囲み、昼食を摂りながら現地の状況を報告する。
「食事中にするには、ちょっとアレなコトがあったんですけど」
「構いません。時間を節約する為に話して下さい」
家主のマリャーナに促され、アミエーラは死体遺棄の件も話した。
壁際で待機する使用人が何人も顔を引き攣らせたが、無言を貫く。
共に食卓を囲む三人は、温かいシチューを食べながらイヤな話に耳を傾けた。
「その後は、特に何もなくて、いつも通りに教会と病院の周りに【道守り】を掛け直して、礼拝堂で【癒しの風】を謳って帰ったんですけど、この動画、どうしましょう?」
「食べ終わってから、一緒に見てどうするか決めませんか?」
ファーキルが提案する。
アミエーラはマリャーナの顔色を窺った。
マリャーナが少し考えて聞く。
「先に公開した風景写真の反応はどうですか?」
「そこそこですね。元々フォロワーが多いアカウントなので、以前と同じように拡散してくれています」
アミエーラが、歌手としての自分のアカウントで公開するより反応がいい。
……まぁ、フォロワーの層が違うし。
「魔獣激ヤバのフォロワーは、他人の不幸を安全な場所から眺めたい人が多いからよ」
運び屋フィアールカが吐き捨てた。
マリャーナが緑髪の同族を意外そうに見て聞く。
「拡散しても、バルバツム連邦を批難する動きにはならない……と?」
「今のアーテルの状況の元凶がバルバツムだなんて思いもしないのよ」
「魔獣激ヤバさんって、その辺のこと言ってなかったんですか?」
アミエーラは驚いて聞いた。
「あの人、写真や動画の説明は書くけど、どうしてそうなったかは書かないの」
「えぇ……?」
「時々バルバツムの悪事に関するニュースを拡散するけど、それをわざわざ開いて読むフォロワーがどれくらい居るか、わからないわ」
「あー……まぁ、ねぇ」
ファーキルが微妙な顔で曖昧な声を出した。
アミエーラは話題を変えようと、ファーキルに聞いてみる。
「あ、そうだ。リストヴァー市の話って集まりました?」
「昨日、アゴーニさんが、メドヴェージさんから聞いた話を持ってきてくれましたよ」
「どんな話だったの?」
先日は、久し振りにメドヴェージの元気な姿を見られて嬉しかった。
「メドヴェージさんには運転手仲間の愚痴聞くのを頼んだんで、いい話はないんですけど」
ファーキルは前置きして話し始めた。
メドヴェージは、戦後間もない頃から運送会社に復帰して、大型トラックの運転手として働く。
食事時に居る街で食べるので、行く先々の食堂に顔見知りができた。
今回拾った話は、ワゴン車や小型トラックで配送する零細運送会社の社員と、自転車で配達する個人の話だ。
「最近、景気はどうよ? ネット通販の配送って儲かンのか?」
メドヴェージが、リゴルネットから受注した仕事の話に誘導する。
定食屋で相席する彼らは、待ってましたとばかりに愚痴を吐いた。
「リゴルネットってクソ企業だぞ」
「何でまたそんな……大企業だから配送の歩合もいいんじゃねぇのか?」
「ネット通販で買物すんの、ここらじゃ西教区の住民ばっかだ」
「何のかんのあっても、やっぱ金持ちだもんな」
リストヴァー市の北端にある定食屋で、同じ食卓を囲む別の運転手が同意する。
「リゴルネットの物流倉庫は東教区だろ? 西教区へ行くにゃ坂道じゃねぇか」
「まぁ……そうだな。でもよ、坂くらい他の配送でも通るだろ?」
メドヴェージが質問で先を促す。
零細企業で働く運転手は、リストヴァー市民も食べ慣れてきた魚肉団子を飲み下して答えた。
「西教区だけじゃなくて、ゼルノー市やマスリーナ市のリゴルネットの営業所にも運ぶけど、営業所からはバイクや自転車で配達する人と交代するんだ」
「お前さんたちが玄関先まで届けるワケじゃねぇんだな?」
メドヴェージが勤務する運送会社は、リストヴァー市内の工場と契約して、市外の別の工場と素材や部品を運ぶ業務だけを受注する。
運転手仲間たちは、何も知らないメドヴェージに何がイヤか熱く語った。
「坂で荷物揺れてどっかぶつけて外箱の段ボールに穴開いたら、中身無事でも丸ごと弁償させられるんだ。ウチは企業間取引ばっかで宅配はしねぇんだけど、こんなん言うのリゴルネットだけだぞ」
「商品は外箱に直入れじゃなくて、届ける商品自体にもそれ専用の箱があるモン多いんだけど、中の箱が無事でも外の段ボールの角がちょっと傷んだだけでも弁償させられンだ」
「本とかは、外箱がちょっと傷んでも中身全然無事だけど、それでもダメなんだとよ」
「宅配会社の連中も似たようなコト言ってたな」
「は? 注文した奴ぁ、外箱なんざ別に要らねぇだろ」
メドヴェージは本気で驚いた。
運転手仲間たちは、揃って首を横に振る。
「完全にキレイな状態で届けないとクレームが入るからって、弁償でカネ取られるけど、モノはもらえねぇんだ」
「は? 弁償って買取じゃねぇのか?」
「うん。外箱が傷んだ荷物は物流倉庫に持って帰って交換して、また営業所に行き直しなんだけど、箱が凹んだ荷物がどうなるかは知らねぇ」
「買取なら、そいつを売ってナンボかでも燃料代の足しになるのになぁ」
別の運転手仲間がボヤくと、近くの卓の者まで頷いた。
「車と燃料はこっち持ちだから、個人でやってる奴は割に合わねぇってすぐ辞めちまうんだ」
「残った奴で回すんだけど、年々荷物が増えててキツくなってくし」
「お前さんたちゃ辞めねぇのか?」
「ウチの会社は借金して中古車調達したから、辞めたくても辞めらんねぇって社長が頭抱えてるよ」
「個人でやってる奴ぁ、車の借金ねぇのか?」
メドヴェージは不思議に思って聞いた。
「個人だったら、別の仕事がみつかったら車売って終わりだよ」
「あぁ……身軽なんだな」
「そうでもねぇぞ」
メドヴェージが納得すると、別の卓から声が飛んだ。
「えッ?」
話に乱入された運転手仲間たちが一斉にそちらを見る。
茶髪の若者だ。
……今度は何?
アミエーラは、緊張感で喉が詰まりそうになった。
運転手のメドヴェージが仲間から聞いた話を葬儀屋アゴーニが聞き取り、アゴーニがそれをファーキルに伝えた又聞きなのがもどかしい。
アミエーラは、具沢山のシチューを口に運びながら続きに耳を傾けた。




