3649.確認した事実
アミトスチグマ王国にあるアミエーラの部屋に集まった面々は、自分のタブレット端末を握りしめ、息を詰めて検証動画を視聴する。
小さな画面の中で、フリージャーナリストのモガール記者が協力者の男性に【明かし水鏡】で、バルバツム連邦軍に関する疑惑の真偽を確かめさせた。
協力者の魔法使いは、顔出しNGで声もボイスチェンジャーで変えてあり、何者か不明だ。
「あッ、生きてるかどうかって言うか、まず、居場所、ですかね?」
モガール記者が質問を言い直した。
魔法使いが、左手を魔法の深皿【明かし水鏡】に浸して不自然な声で問う。
「アーテル共和国軍の基地に設置されたバルバツム連邦軍の駐屯地には、現在もアーテル人の孤児が居る」
銀の深皿を満たした水がざわつき、縁側から起ち上がって中央へ倒れた。
発言内容が事実なら、水は動かない。
アミエーラは動悸が激しくなり、端末を握る手に汗が滲んだ。
画面の中では、視聴者の動揺にお構いなしで検証が続く。
モガール記者が深呼吸して、魔道具への質問を依頼した。
「えーっと……孤児たちは基地に居ない……どこに居るか、えー……元居た避難所に帰してもらえたか聞いてもらっていいですか?」
「バルバツム軍の駐屯地で、呪歌【癒しの風】の訓練を受けるアーテル人の孤児は、元々居た避難所に帰された」
魔法の深皿【明かし水鏡】の水がざわつき、再び白い牙を向いて中心に向かって倒れた。
「避難所には居ない……となると、えー……里親に引き取られた……とか?」
赤毛のモガール記者が、顔を引き攣らせて質問を捻り出す。
協力者の男性は、同じ形式で魔道具に聞いた。
「バルバツム軍の駐屯地で、呪歌【癒しの風】の訓練を受けるアーテル人の孤児は、里親に引き取られた」
銀の深皿は水を波立たせ、これも否定した。
記者の声が震える。
「えッ……? 避難所にも、里親の所にも居ない……? 大勢居るから、ひとつの質問では対応できないのかな? 一人については正しくてても、別の子については嘘だから?」
「知りたいのは、孤児の安否でしたよね?」
「えっと、は、はい」
「バルバツム軍の駐屯地で、呪歌【癒しの風】の訓練を受けるアーテル人の孤児たちは、現在も全員が生きている」
記者に協力する男性は、質問を断定形で発言することで、魔法の深皿に問うた。
水が、即座に銀の深皿の縁から白い三角波を立て、頂点を中央に傾けて倒れる。
アミエーラは、さっき美味しいお菓子を食べてふわふわした気持ちが、完全に吹き飛んだ。
赤毛のモガール記者は顔を引き攣らせた。
「いや、まぁ、全員って言ったら、一人でも、例えば、病気で亡くなってたら、否定しますよね?」
「バルバツム軍の駐屯地で、呪歌【癒しの風】の訓練を受け、アーテル共和国領内で死亡したアーテル人の孤児の死因は、病死である」
協力者の男性は、記者の疑問を整理して【明かし水鏡】に確認した。
魔法の深皿は、これも明確に否定する。
記者に協力する魔法使いは、続けて事故死についても確認したが、これも魔道具に否定された。
平和の花束の四人が息を呑む。
アミエーラも、イヤな予感で端末を持つ手が震え、食卓に置いて深呼吸した。
協力者の男性が、記者の質問を待たずに質問を発する。
「バルバツム軍の駐屯地で、呪歌【癒しの風】の訓練中だったアーテル人の孤児たちは、全員が、バルバツム軍に殺害された」
魔法の深皿は、最も否定して欲しい質問には、水を動かさなかった。
協力者が水の中で手を動かすが、逆らうように水滴ひとつ跳ねない。
モガール記者が、怯えた顔で情報を整理して、質問を練る。
「えっと……バルバツム兵が、治癒魔法の呪歌を訓練中だったアーテル人の孤児を殺害した、と……えっと、その、時期がいつか、えーっと例の、ドラクラ共和国で撮影された呪歌専門衛生兵の動画が公開された前か、後かで聞いて下さい」
「アーテル共和国内に設置されたバルバツム連邦軍の駐屯地内で、呪歌【癒しの風】を訓練中だったアーテル人の孤児は全員が、ドラクラ共和国で撮影されたアーテル人の呪歌専門衛生兵の動画が公開された後、バルバツム兵に殺害された」
しばらく待ったが、水は凍り付いたように微動だにしなかった。
「え……殺したって、マジで?」
黒髪の歌姫アルキオーネが、アミエーラの向かいで声を震わせた。
平和の花束の他の面々も蒼白な顔で、自分の端末を食い入るように見詰める。
アミエーラも、同じ顔だろう。
モガール記者が泣きそうな顔で聞く。
「えっと……何でって言うか、その……殺された子供たちは、せめてちゃんとお弔いされましたよね?」
「バルバツム軍が殺害したアーテル人の孤児は、丁重に弔われた」
魔法の深皿【明かし水鏡】は、水を波立たせて「事実と異なる」と示した。
アミエーラは、呪歌【道守り】を謳って結界を張るボランティアに参加し、度々アーテル共和国を訪問する。その経験から、バルバツム軍が孤児たちの遺体をどう扱ったか、いや、どう処理したか想像がついた。
マコデス共和国の波風新聞に記事を売込んだと言うことは、赤毛のフリージャーナリストはマコデス人だろう。だが、報道に携わる彼は、日々のニュースでアーテル共和国の状況を知っている筈だ。
赤毛のモガール記者に協力する国籍不明の男性は、記者に先回りして質問した。
「バルバツム連邦軍がアーテル共和国内で殺害したアーテル人の孤児の遺体は、魔獣の餌にされた」
アミエーラは、水が波立ってこれを否定するのを待ったが、魔法の深皿は水を動かさなかった。
端末の小さな画面で、大柄な赤毛の記者が拳を握って声を震わせる。
「口封じと証拠隠滅……? 酷いコトを……ッ」
「でも、これって、アーテル人自身も、薬物依存症で亡くなった人にしてるんですよね?」
協力者の男性はさらりと言った。
……いや、まぁ、そうなんだけど、でも。
アミエーラは気持ちがぐちゃぐちゃで、言葉が出なかった。




