3648.検証の第二弾
エレクトラのタブレット端末にアミエーラ、アルキオーネ、アステローペ、タイゲタの視線が集まる。
検証動画第二弾
SNSのトレンド一位に躍り出たのは、バルバツム連邦軍がアーテル人の孤児を呪歌専門衛生兵にして紛争地域に送った件を検証する動画の第二弾だ。
五人はそれぞれ、自分の端末でトレンドワードの欄を開いた。
無数のアカウントがユアキャストの動画を投稿に埋込み、あるいは波風新聞公式サイトやポータルサイトの記事を引用して、好き勝手にコメントする。
フリージャーナリストのモガール記者が、どこからか【明かし水鏡】を借りて、バルバツム軍の行為を検証する動画の第二弾だ。
……このモガール記者って多分、ラゾールニクさんの協力者なんでしょうね。
武力に依らず平和を目指す活動に参加した仲間たちが先週、再びマリャーナ宅に集まり、この件についてどうするか話し合った。
黒髪の歌姫アルキオーネが、端末を見詰めたままアミエーラに確認する。
「先週のもそうだけど、この内容って、ラゾールニクさんが記事を書くって言ってたのと同じなのよね?」
「うん。多分、ラゾールニクさんが別名で書いたか、このモガールさんも協力者なのかも」
歌手ユニット平和の花束の四人は、納得した顔で頷いた。
アミエーラ宅に集まった面々が、それぞれの端末で同じ動画を再生する。
解説するモガール記者は、赤毛で体格のいい中年男性だ。服の見える部分には、呪文と呪印の刺繍がない。
魔法の深皿【明かし水鏡】を使う魔法使いは、今回も顔出しNGだ。声も変えてあり、何者か不明だが、辛うじて男性なのはわかった。
赤毛のモガール記者が、魔法使いの男性に頼む。
「前回は魔力切れで途中になったんで、続きをお願いします」
「続き……何が知りたいですか?」
ボイスチェンジャー越しの不自然な声が聞く。
モガール記者は少し考えて質問を練り上げた。
「バルバツム連邦軍が、今も、呪歌【癒しの風】の訓練をしたアーテル人の孤児をアルトン・ガザ大陸南部の紛争地域で衛生兵として運用しているか……でお願いします」
「バルバツム連邦軍は、現在も、自軍で呪歌【癒しの風】の訓練を施したアーテル人の孤児をアルトン・ガザ大陸南部の紛争地域で、衛生兵として運用している」
銀の深皿【明かし水鏡】に左手を浸した魔法使いが湖南語で問う。
魔道具を満たした水は、彼が手を動かしても全く波立たなかった。
エレクトラが息を呑む。
「えッ? まだ、アーテル人の子がそんな遠くの戦場に居るの?」
「アーテルに帰らせてくれないの? 何で?」
アステローペが疑問の声を憤りに震わせた。
端末の画面では、モガール記者が質問し、協力者の男性が魔道具に確認する。
「魔哮砲戦争が終わったのは、講和条約が調印された印暦二一九四年二月一日ですけど、バルバツム軍がいつからアーテル人の孤児に呪歌の訓練を始めたか、聞いてもらっていいですか?」
「バルバツム連邦軍は、印暦二一九四年から、アーテル人の孤児に呪歌【癒しの風】の訓練を始めた」
協力者の男性が、終戦の年で問うと、魔法の深皿を満たした水が端から波立ち、中心に向かって倒れた。
「どこが違うのかな? えーっと……一年足して同じ質問をお願いします」
モガール記者が少し考えて言うと、協力者は頷いて、同じ質問を「印暦二一九五年から」で問い直した。
今度は、水が動かない。
バルバツム連邦軍は、終戦の翌年から、アーテル人の孤児に治癒魔法の歌を教え始めたのだ。
「じゃあ、次は、いつからアーテル人の孤児を紛争地に派遣し始めたのか、お願いします」
「バルバツム連邦軍は、アーテル人の孤児を呪歌【癒しの風】専門の衛生兵として、印暦二一九五年から紛争地に派遣し始めた」
訓練を始めた年で質問したが、これには水が波立った。
派遣開始を一年ずらし、「印暦二一九六年から」で同じ質問をすると、これには水が動かない。
モガール記者が、視線を【明かし水鏡】からカメラに移して、これまでの結果をまとめた。
「つまり、バルバツム連邦軍は、魔哮砲戦争が終戦した翌年からアーテル人の孤児に呪歌【癒しの風】の訓練を初めて、一年後の印暦二一九六年から、アルトン・ガザ大陸南部の紛争地域へ派遣し始めたと言うことです」
協力者の魔法使いが、モガール記者に聞く。
「次、何を知りたいですか?」
「孤児を訓練した場所ですね」
「バルバツム連邦軍は、アーテル人の孤児をバルバツム連邦に連れ出して、呪歌【癒しの風】の訓練を施した」
魔法の深皿を満たす水が波立ち、発言の内容を否定した。
「じゃあ、アーテル軍の基地を北から順番にお願いします」
モガール記者は、タブレット端末にアーテル共和国の地図を表示させて、魔法の深皿【明かし水鏡】の横に置いた。
協力者の男性が地図を見ながら、アーテル軍の基地を一カ所ずつ確認する。
「バルバツム連邦軍は、アーテル共和国のランテルナ北部基地で、アーテル人の孤児に呪歌【癒しの風】の訓練を実施した」
これには、水が波立った。
ランテルナ中部基地でも同様だ。
モガール記者が視聴者に向かって言う。
「アーテル共和国領の内、少なくとも、ランテルナ島内の基地では、孤児に訓練しなかったと言うことです」
赤毛のフリージャーナリストが、隣に座った協力者に顔を向けて言った。
「それでは、本土の基地は東から順番にお願いします」
協力者の男性が頷き、端末の地図を確認して問う。
「バルバツム連邦軍は、アーテル共和国のイグニカーンス基地で、アーテル人の孤児に呪歌【癒しの風】の訓練を実施した」
しばらく待って、協力者が水に浸した手を動かしたが、水はゼラチンで固めたように動かなかった。
テールム基地、ベラーンス基地、フリグス基地、アクイロー基地でも、同様に質問する。
魔法の深皿【明かし水鏡】を満たす水は、手を浸した者の発言に虚偽があれば波立つが、アーテル本土にある全ての基地で、水が動かなかった。
モガール記者が再び、視聴者に向かって結果のまとめを報告する。
「つまり、バルバツム連邦軍は、アーテル共和国本土の基地五カ所に設置した仮設兵舎で、アーテル人の孤児に治癒魔法の呪歌を教え込んだと言うコトです」
タイゲタが顔を引き攣らせた。
「本土の基地全部でって……全部で何人よ?」
ユアキャストの動画は、視聴者の驚きを置いて進む。
「それと、アーテル軍の基地にあるバルバツム軍の駐屯地で、訓練中の孤児が今どうしてるか、知りたいんですけど」
協力者の声が困惑を帯びて聞く。
「どうって……具体的に何が知りたいですか? 安否? 今もそこに居るか?」
「あ、そうですね。生きてるかどうか、お願いします」
赤毛のモガール記者は、イヤな質問をさらりと発した。
☆再びマリャーナ宅に集まり……「3631.旧交を温める」参照
☆検証動画……前回「3641.検証する記事」参照




