3632.不審な繋がり
「国家再統合会議……あぁ、そう言や、ジョールチさんがラジオで言ってたな」
トラック運転手のメドヴェージが思い出した顔で、国営放送のアナウンサーを見る。ジョールチは、頷いて話を引き取った。
「先月末、第三回国家再統合会議が王都ラクリマリスで開かれました。第一回は先月一日でした」
「一カ月に三回も同じ議題で会議を開いたんですね?」
アミトスチグマ王国在住のアミエーラが驚く。
「第一回は顔合わせと問題点の整理、二回目はアーテルの国家再統合反対派を呼んで、彼らの懸念の洗い出し、十一月末の三回目は、ラキュス・ラクリマリス王国側の国家再統合反対派を呼んで、同じく懸念を洗い出し、改めて問題点を整理しました」
ベテランのアナウンサーは、複数の記事の要点を簡潔にまとめてくれた。
ファーキルが、待ってましたとばかりに本題を切り出す。
「来週、第四回の会議が開かれる予定なんですけど、どうも、バルバツム連邦の横槍が入ったらしくて、アーテル共和国側の再統合反対派だけじゃなくて、中立派も先延ばしに動き始めたっぽいんですよね」
アミトスチグマ王国のマリャーナ宅に集まった面々に緊張が走った。
報道関係者のジョールチ、レーフ、ラゾールニクも、まだ掴んでいなかったらしく、真剣な顔で総合商社パルンビナ株式会社の正社員ファーキルを見詰める。
ラゾールニクが当然の質問をした。
「それって、どこ情報?」
「先週、租借地の病院へ納品しに行ったんですけど、お手洗いで入院患者のバルバツム兵同士で喋ってるのが聞こえました」
「アーテル領に派遣された末端兵士の雑談かぁ」
ラゾールニクが微妙な顔になる。
クルィーロが何か言いたそうな目でラゾールニクを見た。だが、すぐ諦めた顔になり、ファーキルに視線を戻して聞いた。
「その兵隊さんたち、何て?」
「再統合したら、王家が元の版図を支配するようになって、バルバツム連邦とかキルクルス教国の企業を締め出すに決まってる。だから、アーテルで土地を買った複数の企業がロビー活動を展開して、連邦政府や議員に何か依頼したっぽいんですけど、彼らもその内容までは知らない感じでした。情報源は不明です」
「どうしてトイレでそんな雑談するのよ。男の人ってみんなそうなの?」
運び屋フィアールカが呆れた顔で、男性陣を見回した。
「いや、普通、隣の人と話なんかしないで用が済んだらすぐ出ますよ」
クルィーロが手をひらひら振って苦笑し、葬儀屋アゴーニ、ラゾールニク、レーフ局長がニヤリと笑って同意した。
運転手のメドヴェージがフィアールカとアミエーラにに聞く。
「女の人はどうなんだ?」
「女性は用が済んでから、鏡の前で化粧直しとかする時に雑談する人が居るには居るけど、私はそう言うのしないわね」
「私も、トイレで話すのは落ち着かないんで、すぐ出ますね」
「そう言うもんなんだ?」
メドヴェージは、フィアールカとアミエーラの答えに拍子抜けした。
ソルニャーク隊長が真剣な面持ちで言う。
「病院のトイレ……彼らは一足先に自力で歩ける程度まで回復して、他の入院患者に聞かれたくないから、病室では言えない話をする為に連れ立ってトイレに行った可能性があるな」
「成程ねぇ」
フィアールカが納得する。
「俺が入っても話を続けてましたけど」
「共通語がわからないと思われたのではありませんか?」
「あぁ……そう……かもしれませんね」
ジョールチに指摘され、ファーキルは微妙な気持ちで頷いて説明を続ける。
「今週に入って、アーテルの中立派が、国会で反対派に迎合する発言をするようになりました。SNSでも、議員の個人アカウントで同様の発言を繰り返しています」
「それまでは、特に反対してなかったってコトですか?」
アミエーラが確認する。
「はい。ミェーフ大統領はどこの政党にも所属していません。今のアーテルの与党は安らぎの光党なんですけど、選挙区によって党員の再統合の賛否が割れてて、党としては中立なんです。少し前まで与党で今は最大野党の星道の碑党は、支持者に星道の職人が多いんで、魔法使いと協力して聖典に記された善き業を完全な状態で行使するべきだって言って、国家再統合に全面的に賛成です」
ファーキルが総合商社パルンビナ株式会社の業務で集めた情報を整理すると、情報源が限られる葬儀屋アゴーニ、ソルニャーク隊長、運転手のメドヴェージは、難しい顔で頷きながら聞き入った。
インターネットの接続環境を持つ面々も、口を挟まずに耳を傾ける。
「バルバツム兵が言ってたロビー活動とやらの中身はわかんねぇけど、アーテルの日和見連中が急に反対に回ったってのが、繋がった風に見えるな」
葬儀屋アゴーニが何とも言えない顔になる。
ラゾールニクがタブレット端末をつついた。
「そのSNSの発言って見たコトないんだけど?」
「所謂、裏アカで、鍵を掛けているのでフォローしていないと閲覧できないんですよ」
「アミトスチグマ人になったファーキル君が、アーテルの政治家をフォローしてるんだ?」
ラゾールニクが殊更に驚いてみせる。
「会社の業務で情報収集用に作った捨てアカです。所詮、身許確認とかしない無料サービスですし、アーテル人のフリなんて簡単ですから」
「はははッ。坊主、相変わらずだなぁ」
メドヴェージが痛快そうに笑う。
「って言うか、政治家の人が鍵アカ? 普通、公開しません?」
歌手としてSNSを活用するアミエーラが疑問を呈した。
「あの党は元音楽家が多いので、ファンサービスの一環なんだと思いますが、一般公開し難い裏話的なのを裏アカで垂れ流してますね」
安らぎの光党に所属する議員は、引退した芸能人が多い。
終戦と復興を目指して政界に身を投じた現役の芸能人も居るが、政治家は兼業禁止なので、歌手や演奏家としての活動を休止せざるを得ない。
落選や引退で政界を出た後、速やかに芸能界へ復帰する為、少しでもファンの歓心を繋ぎ留めたいのだろう。
運び屋フィアールカが呆れる。
「裏アカの存在がバレたら、週刊誌とかにボロクソに叩かれそうよね」
「政治家としては終わりそうですけど、持って行き方によってはファンが同情して支援しますから、芸能人としては再起の見込みがありますよ。最悪、事務所を離れても、ユアキャストで個人的に活動するのは誰も止められませんし」
「なんか、ズルいよな」
クルィーロが自分の端末から目を上げて嘆息した。
現役芸能人のアミエーラも、批難がましい目を自分の端末に向ける。
ファーキルは話を進めた。
「それで、急に反対に回った中立の議員を調べてみたんですけど」
「さらっとそんなコトできるの、相変わらずだなぁ。話が早くて助かるよ」
ラゾールニクがニヤリと笑う。
「裏アカ議員はみんな、選挙区が南部で、北部の工業地帯に土地や工場を持つ富裕層から献金を受けていました」
「芸能人のファンとしてじゃなくて、純粋に政治家として……ってコト?」
クルィーロが何かを察した顔で確認する。
「多分、そうだと思います。彼らが所有する土地の一部、または全部が、ラキュス地方企業団地合同委員会に参加する企業から、売買を打診されています」
「ん? 戦時中にポシャったんじゃなかったか? 魔獣がわんさか出た上にインターネットが繋がらなくなってよ」
葬儀屋アゴーニが訝る。
「ネット通販大手のリゴルネット株式会社は残りました。戦後、カネにものを言わせて、租借地から近い土地に物流倉庫を建てて今もどうにか運用しています。それを見て、合同委員会を抜けた企業の一部が戻って来たんです」
「土魚がいっぱい居て、働く人の安全を確保できないのに」
拳を震わせたアミエーラは、呪歌【道守り】の支援で定期的にアーテル本土の水害被災地に足を運ぶ。
「リゴルネットはアーテル人を雇用するだけじゃなくて、バルバツム連邦在住の不法移民……魔力を持つ人物を警備員として雇って送り込んでますよ」
「えッ? しかし、不法移民としてバルバツムに逃れたと言うことは、魔法使いとしてはあまり強くないのではありませんか?」
ジョールチがすぐ問題点に気付いて指摘した。
葬儀屋アゴーニもアナウンサーの疑問に同意する。
「魔法戦士じゃなきゃ、魔獣の養分になって終わりだろ」
「倉庫の敷地から一歩も出るなって命令して【魔除け】の敷石の魔力源として働かせてるんですよ」
「なんだ。居るだけでいい系なのね」
運び屋フィアールカが拍子抜けして、クッキーを口に入れた。
☆今のアーテルの与党は安らぎの光党……「3571.再統合の会議」参照
☆少し前まで与党で今は最大野党の星道の碑党……「2959.首謀者を特定」参照
☆ラキュス地方企業団地合同委員会
始動……「1027.工業団地計画」~「1029.分断の阻止へ」参照
戦時中の動き……「1152.大統領の演説」「1225.ラジオの情報」「1234.長期化を予想」「1235.水を穢した者」参照
戦時中にポシャった……「1260.配布する真実」~「1262.沈みゆく泥船」参照
☆魔力を持つ人物を警備員として送り込んでます……「2792.リゴルの事業」参照




