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告白 2

「え、ここって・・・」


 蓮の目的地に着いたのか、碧が辺りを見渡せばそこは公園であった。


 お祭り会場からはバスを乗ってやって来たためほどほどに遠いいが、どうしてこんなところに。


 碧は疑問を浮かべるが、夜の静かな公園のはずなのに耳をすませば若い男女のはしゃぐ声のようなものが聞こえてくる。


 何だろうと思いつつ蓮が歩みを進めればぼーっと点々とした光が浮かんでいるのが確認できた。


 人魂と言うやつだろうか?


 そう一瞬見間違えたが近くに行くにつれてその正体が段々と分かることとなった。

 と言うか正体がこちらに駆け寄ってくるのだから嫌でもわかる。


「あー!碧ちゃんこっちこっちー!

 花火大会二次会会場はこっちだよ!」


「え・・・に、二次会?」


 その正体は果歩であり、手には手持ち花火が握られていた。そして今更ながらに火薬の匂いが漂ってくることで、花火大会の終わりにこうして集まり二次会が行われているのだと知る。


 もちろん蓮が言っていた花火と言うのはこのことである。果歩の後ろを見れば男子や女子が混じりあって花火をし、そして盛り上がっていた。中にはいい雰囲気になっているようなペアもいて、なんというか・・・実に青春してるなぁなんて俯瞰的に見てしまう。


 そうしてしみじみとしながらも果歩と話していると、遅れて楓がやってくる。


「碧ちゃんと合流出来たのね、良かったわ」


「ああ、一時はどうなる事かと思ったけどな」


 蓮が笑い飛ばしながらそう答えたが、その元気は碧に気を遣わせないようにしている様に見えたのは自意識過剰なのか、碧はシュンとしながら謝った。


「あの、・・・心配かけてごめんなさい」


「ふふ、いいのよ。今になれば話のタネよ、慌ててる蓮も面白かったし」


「おいおい・・・」


 どうやら電話の向こうの蓮は相当に乱していたらしい。碧は蓮の顔を見て、気まずそうな顔に対して申し訳なさで己の方が恥ずかしくなる。


 でもあの時は変に意固地になってはいたけどそれだけ会いたくないと思っていたのだ。

 でもそれすらもどれだけ周りに迷惑をかけていたのだと知れば申し訳なさで胸がいっぱいである。


 そうして微妙な雰囲気が流れてしまったその時。


「あー!蓮たちが抱き合ってる!」


 とある男子の声が響き、一時的にそんな空気を吹き飛ばす。さらにそれに続けて他の男子たちの声が続く。


「なにぃ!?」

「まじじゃねーか、やっぱ付きあったんじゃねーか!くそぉ」

「これが夏祭りマジックか・・・」


 そう言われて気づく。


 そ、そうだったっ。


 鼻緒が切れていた碧は蓮の腕の中で小さく抱かれ収まっていたままであり、そんな姿で現れれば注目の的になる事など分かりきっていた。


 そんな風に野次を飛ばされると照れたようにいそいそとお姫様抱っこをやめて下ろされた。


 そして蓮はガシッと肩を掴まれると男子グループに連れてかれてしまう。


 そうして取り残された碧には女子グループが集まっていく。


「えーなになに!ふたりはもう付き合ってるの?」

「誰が見ても相思相愛だったもん、おめでとう〜」


 そんな勘違いとともに揉みくちゃにされたが、アタフタとしてると事情を知る楓が助けてくれた。そんな楓は「ちょっといいかしら」なんて言いながら人の壁を分け入って碧の元へ来て腕を掴む。


「碧ちゃん浴衣汚れちゃってるじゃない。

 ほら、こっちおいで」


「えっ、あ・・・これは」


 助かったと思ったが、しかしその時に切り出された内容も碧にとっては答えに窮するものであり、シドロモドロになりながら手を引かれて行った。


 そしてある程度周りから離れると楓はしゃがみこみ碧の浴衣をじっと見つめる。


「うーん、これは泥かしら?終わったらクリーニングに出しましょうか」


「へ・・・?これ、綺麗になる?」


 汚してしまった罪悪感で申し訳なくなっていたため、何を言われるかとドキドキしていたが、シミ汚れについてはなんて事のないようにそう言った。

 余りに拍子抜けしたために楓へと聞き返す。


「綺麗になるわよ。ほら、この浴衣も前回の花火大会の時に雨に降られちゃって汚れちゃったけど綺麗でしょ?」


「うん、きれい」


 楓は裾の方を強調するように見せるが、確かにそこには何も無かったかのように綺麗だ。


「あ、でも今変に汚れを取ろうとすると悪化するから絶対に触っちゃダメよ?」


 しかし楓の付け足した言葉によってまたも碧に緊張が走る。どうやら繊維の間に入り込むとかなり厄介な様子。

 経験者は語ると言うやつだろうか。しかしそれと同時に希望があるのだと知り少し期待してもいいのかなと胸が軽くなる。

 碧は浴衣をギュッと掴んで少し笑顔が零れた。


「ふふ、だから安心して。

 でもそれよりも」


「はぇ?」


「ほら、動かないでね」


 そう言って楓は後ろに回り込むと髪を解いた。


「はぇ、な、なに?」


「髪、ほつれてたわよ」


 そして櫛を手に取ると髪に通しながら話しかけてくる。最初こそ髪が絡まっていたのか櫛が通りずらかったが、優しく何度も通す事で最後はスルスルと通るようになっていく。


「どう?」


「え、・・・ど、どうって?」


 碧が振り向こうとしたが髪が引かれる感触があったので振り向きはせず聞き返した。


「蓮との関係は変われたかしら?」


「っ、」


 しかしその後の言葉で碧はドキッとすることとなる。碧は口をパクパクとさせなんと言おうか迷った後、肩を落としながら言った。


「分かんない・・・、今日もダメダメなことばっかで」


 そう、楓にも蓮にも、たくさんの人を巻き込んで迷惑をかけてしまった。とてもじゃないけど好きにさせる所ではない。


「・・・むしろ、ボクの方がいっぱい好きになるばっかになっちゃった」


 今回のお祭り、碧の方から手を引き蓮を楽しませようとしていたのに、結局また蓮に手を引かれてしまった。迷惑だっていっぱいかけた。


 それに本当はもっと、可愛い姿を見て欲しかったのにな。


「ふふ、碧ちゃんもすっかり恋する乙女ね」


 第三者としての目線で見れば微笑ましさすら感じるが、それが本人とならばそうとはいかない事は楓も知っている。

 なのでしっかりフォローすることも欠かさない。


「でも、そんなに気を張らなくてもいいんじゃないかな。もし碧ちゃんだったら、蓮にいつも完璧な王子様でいて欲しい?」


「そ、そんなの・・・全然」


 突然な極端な質問に、碧は少し疑問とそう言わざる負えない答えに少しだけ難色を示しながらもそう答えた。


 そんな碧に楓はさらに畳み掛ける。


「それじゃあ、碧ちゃんはいつも蓮にエスコートして欲しい?サプライズを用意して、毎日ときめかせる様なことをして欲しい?」


「そ、それは嫌かも・・・」


 碧は想像して少し眉をひそめながらそう答える。


「それと一緒よ。なんて・・・少しありきたりだったかしら?

 でも好きな人には横にいてくれればそれでいいって思っているのは絶対碧ちゃんだけじゃないってことだけは念頭に入れておいてね」


「・・・うん」


 碧は分かったような分からないような、しかしこれ迄の事から楓の言葉には絶対的な信頼を置いているため、その言葉を自分なりに受け入れる。


「だから何が言いたいかといえばね、碧ちゃんも自分を・・・ううん、等身大の形を受け入れれば自然と心の中の本当の声が出てくるはずよ」


 等身大。

 確かに今日という日を特別な日にしようと拘ろうとはしていた。そのために自分をよく見せようともして、逆にカラ回っていたのも否めない。そんな普通でいて大切な日常を投げ捨てるような、本末転倒な事をしてしまっていた。

 碧はどうすれば良かったのだろうと思い悩んでいると、悩みこんでしまった碧の思考をリセットさせるように碧の背中をぽんと叩く。


「はいっ、これで終わり!

 鏡は・・・ないか。でも、髪は元通りよ」


「ありがと、かえで」


「いいのよ」


 碧は軽く髪に手を当てると、浮き毛となった箇所は元通りとなり、しっかりと形作られている事に嬉しくなった。


「なんてね、さっきは説法みたいなことを説いて見たけどそれはそれ、これはこれよね。

 だって女の子はオシャレが好きなんだから、常に特別な自分になりたいものね」


 そうして楓にポンと背中を押された。


「不思議よね、髪型1つで力が湧いてくるんだもん。だからこれはおまじない・・・、行ってらっしゃい碧ちゃん」


「ーーーーうんっ!」


 碧はそう元気よく答えると蓮の元へ駆けていく。鼻緒が切れている為にペンギン歩きのようになってしまうが、それでも逸る気持ちが抑えられない。

そうして見つけた蓮はといえば、散々イジラレ倒した後なのか、少し疲れた顔で男子グループから離れたところで休んでいた。


 碧は踏みとどまりひとつ深呼吸をする。

 そしてキュッと線香花火を握りしめた。


 ここに来る前に楓に線香花火を持たされたのだ。それを持ちながら蓮の隣へ静かに寄ると、黙ったままチョンと隣へ付く。


 しかし直ぐには気づいてもらえず、それが少し寂しくてワザとらしくコホンと咳払いをした。するとさすがに気がついたのか、蓮は顔を上げて碧の存在にようやっと反応する。


「ん?あいちゃんか?」


 そんな蓮に碧は少し緊張しながら、線香花火を胸に寄せて簡素に誘う。


「れん、一緒に・・・しよ?」


 そんな言葉足らずな言葉にドキッとさせられる。が、しかしすぐに線香花火の事なのだと思考が追いつくと蓮はドキッとさせられた事を誤魔化すようにカラ元気で答えた。


「あ、ああっ!どっちが長くできるか勝負するか?」


「・・・うん」


 そうして2人は少しだけ人から避けるように隅へ寄りながら肩を並べてしゃがみこむ。そして持ってきたライターで同時に火をつけると線香花火はぱちぱちと音を立てて花火を散らし始めた。


 それは不規則に華を咲かせ、フラフラと身を揺らしながら勢いをましていく。


「線香花火花火なんて久々だなー、あいちゃんやったことあるか?」


「ううん。でも線香花火は知ってるから、ちょっと新鮮」


「はは、これが案外難しいんだぞ」


 そんな会話をポツポツと行っていく。そして会話と会話の間と言えばじっと2人は無言で眺めていた。

 何故なら持ち手を揺らさず安定させることで線香花火は長持ちさせるのに集中しているからだ。


 しかしそんな中、またも何でもないかのように碧がぽつりと呟いた。


「ねぇ、れん?」


「なんだ?」


 そこまで意味を持たない様な会話が続いていた為、蓮は線香花火に集中しながら話を聞く。


 溶けゆく火薬がダマとなりその変化に応じて色々な模様を見せていく花火はいま最骨頂に達していた。


 そんな最中である。


「れんはさ、ボクのこと・・・どう思ってる?」


「ぶふぅっ!?」


 蓮は吹き出した。それと共に、手に持っていた線香花火はその衝撃でダマが落ちていった。


「あっ」


 その瞬間、蓮は自身の負けを悟がそんな勝敗などどうでもいいとすぐさま碧を見てその言葉の真意を探る。


「それって、どういうーーー」


「ボクはさ、今までずっとひとりだったんだ。

 明るい性格でも無いし、人とも上手にお話できないし・・・。

 だから、こんなに親切にしてくれる人は初めてだったから」


 碧は今日のことや、夏休みの一つ一つの思い出を愛おしげに思いながらそう言った。


「それは、・・・別にそんなの関係ねーよ。

 したくてしてるだけで、勿論あいちゃんのことはよく思ってるっていうか、勿論ーーーでもあるけど」(ごにょごにょ)


 蓮は照れながら、最後の言葉は濁して言う。勿論困っている人がいれば同じことをするのだが、それでもここで好きだからといえばその行動原理が下心だけということになってしまうと思ったからだ。


 でも碧への思いを無かったことには出来ず、せめてもの抵抗で口にしたのだが、それは届くことはない。


「そうだよね・・・。

 れんは誰にでも親切で、優しくて」


 碧は未だにパチパチと跳ねる線香花火から目を離し、蓮を見つめた。


「でも・・・それじゃ嫌なの」


 その熱く火照ったような顔は果たして花火に照らされているからか。妙に色っぽく映る碧に蓮はゴクリと唾を飲む。


「本当はね。今日ボクは、れんの特別になりたいなって思ってここに来たんだよ」


「あいちゃん・・・、それって」


 固まった蓮に微笑みかけるように碧は言う。


「これは、一方的なボクの思い」


 そう、今から碧は自分でも自覚するほどに我儘な事を言うつもりだった。なぜならそれは生殺しにするような、ある種の逃げの様な行いだからだ。


「今回の花火大会で思い知っちゃったんだ。

 今のボクはれんの隣に相応しくないって」


「そんなこと俺は気にしなーーー」


「みんなっ、・・・そう言ってくれる。でもこれだけは譲れなかったの」


 碧は困ったように笑い、そして少しだけ目線を逸らすように線香花火へと向ける。

 しかし時が来てしまったのか、ポトリと火の玉が落ちてしまった。


「だから、今から言うことにれんは答えを言わなくていいから・・・ううん、答えを出さないで欲しいの。

 その答えはいつか、ボクが蓮の隣に立てた思う時に。

 そしてーーー」


 そんな落ちた先の線香花火を見つめながら碧は息を吐いた。


「ーーーそして、れんにボクの隠してる本当の事を言えたその時まで」


 その言葉に蓮はなんの事だと首を傾げるが、それに対しては申し訳なさでいっぱいになりながらも口を噤む。

 今は言えずとも、その事を打ち明ける勇気を、その覚悟の決意表明であるのだ。


「ごめんね、れん。

 そうじゃないと、ボクの気がおさまらないの。お願い。わがままなのは知ってるけど、そうさせて」


 そうしてパンパンと浴衣のシワを伸ばしながら立ち上がる。


 そして、見つめ合いながら数秒という短い間にも関わらず、永遠とも取れる程の幸せな時間を一緒に共有する。


 それからーーーー


「好き」


 ーーーただそれだけ。その二言のみを伝えた。


 それだけにしようと思ったのに、碧の胸から溢れ出した好きはそれでは収まりきらず結局最後まで言ってしまう。


「ううん、大好きっ。

 れん・・・。これはね、結婚したいの好きなんだよ?」


 子供扱いされていたからかなんなのか。

 碧の視点では蓮の心の奥深くにある気持ちなど知る由もなかった為に、前回の告白を勘違いで終わってしまった後悔からダメ押しの好きを蓮に伝えた。


 そうして周りの喧騒から取り残されたかのように、2人の間に静寂を作り出したのであった。

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