祭りの後
少し解説や心情的な語りが多い回です
「碧ちゃんおはよ」
「よ、よう。おはよう」
いつもと変わらない月曜日の朝。
今日も楓と蓮と登校すべく、こうして合流し挨拶を交わしていた。
「う、うん・・・おはよ」
それに対して碧は、そんな2人・・・というより蓮に対してぎこちなく手を挙げて答えながら挨拶を返す。その様子はどこかよそよそしく蓮と目を合わせる気配は無く、どこか逃げるように挙動不審となっていた。
「・・・」
「・・・」
そして両者そのまま、気まずい時間を過ごした後にこの空気から逃げるように歩み始めて登校していく。しかし気まずそうにしていた割には両者の距離はピタッと横並びにくっつきながら学校への道を歩き出す。
しかしその後の登校中にも会話はない。思い切って話し始めても1度2度交わし合えばまた何事も無かったかのようにまた沈黙が続く。
そんな2人に楓は何をどうしたらこうなるのかと碧と蓮を交互に見るが、この2人なら何があってもおかしくないかと息を吐く。
今その話題を切り出しても現状をかき回してしまうだけかと、後で個別で話を聞くことを誓う。
その為、楓からも無言の圧をヒシヒシと感じ、碧はダラダラと汗を流しながら今の状況に焦り不安を募らせていった。
これ迄のやり取りで皆も察せられるとは思うが
この2人、夏祭りの告白以降何ら進展はなく、今も告白のときのそのままの状態でいるのであった。
そりゃ告白しておいてその答えを言わせなかったのだからそうなってもおかしくない。
そんなこと自業自得だと思うかもしれないが、しかし今の状況が完全に想定外だったのは当の本人である碧であった。
碧は自分の心を少しでも打ち明ければ蓮と親密になれるかと思えばまさかのギクシャクした関係になるのだから文字通り今から思えば後の祭りというものである。
しかしこそれもこれも碧の心境を鑑みれば仕方がない側面もあった。
何故なら2人はいつ付き合ってもおかしくない程の仲であり、その中で夏祭りという雰囲気と楓のアドバイスにやられ自然と告白する流れができてしまうもおかしくない。
普通の男女であればそこで新カップルが出来てめでたしとなるのだが、こと碧のこととなれば事情はまるっきり変わってしまう。
何故なら碧には人と異なる体の秘密があるのだから。普通ならばそれらを打ち明けて付き合うと言うのが手順であるし碧もその認識でいたのだ。
しかし時に恋とは人を盲目的にさせ、理性をも忘れ感情が優先させられる時もある。
あの夏祭りは、そんな夜の1つだったのだ。
弱った心に青春を体現したかのようなシチュエーション。あの時だけは全ての煩わしさを忘れて駆け落ちしても良いとさえ思える夜だった。
しかしこうして夜が明け冷静になってみれば碧の中でジワジワと何で言ってしまったのだと自身の浅慮に思い悩ませられる。
が、それでも一つだけ言えることは、決して後悔はしていないということである。
ずっと言えなかったことが言えて心がスッキリとしてさえいた。
そんな事から悩みつつも、何処か夏祭り以前のような告白をしなければという焦りと余裕のなさは無くなっていた。そういう事もあり、紆余曲折はあれども碧は碧で達成感を抱いていたのである。
それならそれでめでたしでいいじゃないかと思われるかもしれないが、そう事は単純では無い。何故なら当事者は碧1人ではなく、寧ろ真の被害者と言ってもいい人物がいるからである。
それは通り魔的に告白をされ、更にはその答えを禁じられるという無理難題を押し付けられずっと悶々とした日々を過ごしている人物、そう蓮である。
そんな蓮も気まずさを感じながら、一緒に登校する碧の横顔をみて目を逸らすとドキドキと煩い心臓を抑えて息が荒くなっていた。
あいちゃんが俺のことが好きだと・・・?
その告白はあまりにも突然であり青天の霹靂と言っても過言ではなかった。更に内容も短くそれでいて完結であるからこそ効果は凄まじく、その結婚という言葉には蓮も完全にやられてしまう。
『結婚をしたい方の好き』
それは完全なるLoveとしての告白であり、更には学生だけのお付き合いを超えて生涯身を捧げてもいいとすら思ってくれているそんな告白はなんとも衝撃が大きい。
その瞬間だけで蓮の頭の中では結婚しさらにはその先すらも想像してしまう程に胸が踊り浮き足立つ程であった。
その答えはもちろんYES。
寧ろ本当はこんな告白は蓮の方からしたかったと思っていたが、告白されるまでの蓮と言えば1度碧に男として見られていなかった出来事からそういう話は避けるようになっていた為、後から見ればなんと軟弱男だったと今更ながらに思う。
多分そんな自分に呆れて碧からこんな告白があったのだろうと解釈をしたが、だがその時の条件に1つの内容が付け足されることとなるのは予想外であった。
それは今返事をしないで欲しいとの事である。
どう言う事だ・・・。
改めて俺の方から告白をし直せということだろうか?
蓮は今尚その答えが出ておらず、碧の横顔を再度チラリと覗くが分からない。碧曰く本当のことーーー何かしらの秘密を伝えられたその時に答えが欲しいとあるが、蓮にとってどんな内容が来ようが関係なく答えはYESと決まっているのだが。
それこそ本当は碧は人間ではなく天使様であり、これは生物としての垣根を超えた恋愛なのかもしれない。
だって人間離れしたかわいさと愛らしさであり、そんな事があってもおかしくはない。
告白されて以降、そんな浮かれきった蓮の頭の中では妄想が繰り広げられる程に多種多様な事を考えてはいたがどんな場面でも答えは決まっていた。
しかしそれでもである。
そんな蓮にも一つだけどうしようもないことがあった。ズバリそれはいつ碧からその話をされるのか分からないことである。
碧は本当のことを言えた後にと言っていたが、それは今日なのか明日なのか。
はたまた何年も後なのか・・・。
そんな葛藤から蓮も蓮でソワソワとばかりしていた。
そうして、楓はそんな2人を後ろから見守りながら学校へ向かうのであった。
☆
碧たちはその後もぎこちない会話が続き、学校へたどり着いた。
いつもと変わらぬ登校経路と時間なはずなのに、只管に長く感じた碧は肩に力が入っていたせいか、校門をくぐれば多くの生徒と騒がしさで若干気が紛れ自然と力が抜けていく。
そしてそのまま靴を履き替え、教室へ向かへば休み前よりも仲が良くなれた気がする見知った顔がいっぱいだった。それはあちらも同じように感じているようで、おはようと言った挨拶が前より多く交わされている気がする。
昔はこんな多くの人に挨拶なんて返せなかったのに、自分でも変わったなと思う碧。しかし肝心の好きな人に対しては挨拶を上手くできていなかったりと、肝心なとこではまだまだダメだなと肩を落としながら席へ向かう。
蓮とは離れ難いが、それでも今は恥ずかしさや色んな感情が溢れ出してしまうので一先ずはありがたい。
もう少し落ち着いたら、せめて時間がこの気まずさを解決してくれるまでと考えながら机にリュックを置き、椅子を引いた。
「はぁ・・・」
本当は、早くボクの本当のことを言えればいいんだけどなぁ。
そうすればまこんな事でクヨクヨしなくてもっとれんに甘えられるのに。
でもそれはいつ言おうか。
夏祭りの夜という、絶好の機会を逃してしまった碧にとって何時あのようなチャンスが訪れるのかは分からない。
それにその瞬間が差し迫れば差し迫る程嫌われてしまうのではないかと不安になる。だって、中身は男なのだ。多様性とか言われる時代でも、そんなのただの裏切りだしそして何より碧に対する対応が変わってしまった時に自分の心が耐えられるか分からない。
碧は悩みながらも、今は授業1時限目からの授業に集中だと席に着く。
つい不安で押しつぶされそうになるが、こうして蓮と顔を合わせる状況になければ平静でいられるのだから、今日一日を通してゆっくり考えようと決めた。
そんな時である。
碧が座ると同時に隣の席も共に椅子が引かれて座る音がする。そりゃ当たり前である。
隣の席は転校してから楓が座っており、一緒に登校してきたのだから同じタイミングなのも何らおかしくはない。
碧は楓と言えばと夏祭りの時にかなりお世話になったことを思い出す。何だかんだ告白に踏み切れた事も感謝しているし、実はあの後浴衣を一緒にクリーニング屋まで出しに行ってくれたことにも改めて感謝を伝えたい。
碧はその意を伝えるべく、体を傾けて改めて声を掛ける。
「そうだ、かえでーーーーーーーぇ、」
そうして碧が体を傾け顔を上げてみれば、そこにはいつもの目線の角度では顔が伺えずに困惑する。しかしもう少しだけ目線を上げてみると、そこには楓とおなじくらいに、いやそれ以上に見知った顔があった。
しかし皮肉な事に、これが今日初めての目を合わせた瞬間でもあった。
「っ!?れ、れんーーー」
な、なんでっ。
そう、碧の隣に居たのは蓮であったのだ。
「っ!?」
そして驚いてから思い出す。
そ、そうだったっ。
そう言えば週末の休みに入る前に席替えを行っていたのである。それも碧の歓迎を兼ねたレクリエーションの一件で行われた席替えである。
このクラスにおいて新たなアイドルを迎えて行われた席替えは大いに盛り上がったが、それでも皆が空気を読んだと言うか何なのか、碧自体は席を選ぶ順番は遅かったが皆は頑なに蓮の隣だけは避けており、そんな暗黙の了解がある事など当の本人は知らずに、蓮の隣が埋まらないかと碧1人だけはハラハラとしてながら待っていたのは実に碧らしいというかなんと言うか。
そんな経緯がありつつも決まった席なのだが、こと休みが明けて見れば碧にとっては非常に困ったものとなってしまった。
楓の名前を呼びながら振り向くものだから、蓮もなんだろうとこちらを振り向いてしまい完全に目が合ってしまった。
そして10秒ほど見つめた後、碧は顔が赤くなりカーッと体温が急上昇したのが分かった。
これ以上見つめていたら変になる。
碧はバッと体を正面に向き直し、何も無かったかのように黒板を見つめたまま固まってしまう。
「あ、あぁ・・・」
しかしそんなあからさま過ぎる態度に蓮は情けない声を出しながらガビーンとしたリアクションをして、肩を落としながらすごすごと前を向き直した。
碧は正面を向きながらも、視界の端に映る蓮の姿に胸がキューっと締め付けられる思いだった。
こんなはずじゃ無かったのに・・・。
もっと仲良くなるはずだったのに。これじゃあ逆に蓮を傷つけてしまっている。
碧は直に視界を机に向けるようになってしまう。
悲しくて、苦しくて。
碧は自分の気持ちと反する行動ばかり取ってしまう自分で、傷つけてしまった蓮のことを考えると遂には俯いてしまった。
そして痛む胸を抑えながら、碧は蓮の顔を見れずとも言い放つ。
「ぜ、絶対に言うからっ」
「え?」
突然の言葉に蓮は大きく反応してこちらを見た。相変わらずその視線には合わせられなかったが、自分の気持ちだけは伝えようと必死に伝える。
「まえ、言ったこと。ボクの隠してたこと言うからってやつ、あしたーーー、あ、あさっ・・・え、えっと」
碧は明日、明後日と何度も言い直し、そして終いには言葉に詰まってしまう。そして苦し紛れに話を続けるが見切り発車な為その後が続かない。
「その、そ、それは・・・」
「・・・それは?」
そして最後は言葉を濁しながら答えに窮していると、そんな碧達の元へとある男子生徒の声が聞こえてくる。
「なぁ聞いたか!一昨日の祭りで宮川と桜井さんが付き合ったんだって!」
そんな男子生徒による、ある種下世話じみた内容の話題が響き渡った。
それに対して周りは「まじか!」と反応し、それな対して満足気に話を続ける。
「あー、まじまじ!」
「確かに俺も手を繋いで来てるの見たぜ!」
「あれやっぱそういうことかよ!」
そんな声に反応した友達だろう、別の男子が知り合い同士の付き合っただなんだという熱愛スキャンダルに耳を大きくして反応した。
恐らく夏祭りに来ていなかった生徒なのだろう。こうして行った者から遅れて情報が共有されているのである。
確かに公園で行った花火の時に仲睦まじい男女がいたが、恐らくあれは付き合いたてホヤホヤだったのだろう。
碧は自分が話の途中なのだと言うことを忘れ、現実逃避もあってその言葉に耳を立ててしまう。
「ずっと宮川の片想いだったけど夏祭りで告ったらオッケー出たんだってよ!
いいなぁ・・・」
男子生徒は語りながらも悔しそうに目を細め悔しさに表情を歪ませる。
「あぁー、俺にも彼女できねーかなぁ」
「ははは、バレンタインもゼロなのにそんなの無理だろ!」
「いやいやまだ分からんだろ、宮川だってそれまで接点なかったって言うし!
それにーーー」
そ、それに?
タイムリーな色恋な話題に碧の耳がピクピクと動きっぱなしになる。
「それに、ーーー学祭の告白のジンクスとかあんだろ?ほら、学祭中に告白するとってやつ」
「馬鹿だなぁああいうのは両思いの奴らが告白するきっかけになってるだけでお前とは大違いなの」
「んなのまだ分かんねぇじゃんかよ!
必ず結ばれるって聞いたもん!」
そんな悲壮感溢れる嘆きに冷酷にも現実を突きつける友達の言葉に更に火に油を注ぐこととなる。しかし嘆く男子生徒の余裕が段々となくなっていき、何だかんだ言葉使いも怪しくなっていた。
しかし友達同士だからのやり取りなのか、みなはそれを見て笑い悪くない雰囲気が流れていた。
ついつい碧もそれに見入ってしまい、ハッと再度思い出すかのように蓮へと向き直す。
その間蓮は碧のペースを急かすこともなく、緊張したまま放置プレイとなってしまったため碧は申し訳なささで頬を掻く。
そうして気恥しさで頬を掻きながら目を逸らして言った。
「そ、その・・・。それじゃあ、学園祭の日までに、伝えよっかな・・・」
「が、学園祭・・・」
それが指す言葉の意味。
流石に先程のバカ騒ぎは蓮の耳にも届いており、そして学園祭というイベントにそう言うジンクスがあると言うことは碧よりもよく知っている為、直ぐにそのことに思い至る。
そう、在り来りな言い伝えではあるが碧たちが通う学校にもそういう話1つや2つは勿論存在し、その中の1つに学園祭が終わるまでに告白した男女は必ず結ばれるというものがあるのである。
もちろん転校してきたばかりの碧が知ってはいなかっただろうが今の話を聞いてのことなのだろう。ならばその事が意味することは1つ。
蓮は学園祭という言葉を何度も反芻し意識すると、既に今から緊張してしまいゴクリと唾を飲むのであった。
そうして約束されしXデーが定められることとなった。
しかし突発的に定められた期日であるからこそ、碧は知らないでいた。既に学園祭まで1ヶ月を切っていることを。
そうして後日、その事を知った碧が慌て出すのはまた別の話である。




