迷子
「あれー、まじでスマホが使えないな」
照れ隠しで歩き出した蓮と付き添う碧であったが、先程から蓮が楓達と合流すべくスマホで連絡を取ろうとするが繋がらない。
何やらメッセージが送れないようで、人混みによる混線で電波がかなり弱いみたいである。
碧も微力ながら楓にメッセージを送ってみたが、送信エラーが発生し確かに送れなかった。
「んー、どうすっかな。
もう少しで花火始まっちまうけど」
別に集合しようなんて決めていた訳ではないけれど、そういう話の流れになっていたので一応集まろうと動いているがこれだとなかなか前途多難そうである。
「まぁ、とりあえず居そうなとこに行くか?」
「うん、分かった」
蓮は頭をカリカリと齧った後諦め、そして碧へ顔を見向けて移動しようと提案する。
どうやら蓮には心当たりがあるようで、お祭り初心者な碧はもう言われるがままについて行くことしか出来ない。
そうして移動し始めたのだが、先程よりも人が多いと感じられた。お祭りもそろそろ本番という時刻となりピークに達しているのであろう。この中で本当に楓たちを見つけられるか心配である。
そうして未だに連絡を取ろうとスマホを片手に蓮は歩き、碧はその後を続く。碧は手を繋ぎたかったが、生憎蓮の手にはスマホと水風船が握られており、手を繋ぐスペースなど無く少ししょんぼり。
そんな中蓮は多少の焦りを感じているようで、段々と周りを見る余裕が無くなっており、少しだけ碧がついていくには大変な歩調へと変わっていく。
そんな蓮へと食らいつくよう碧はペンギンのようにちょこちょことついて行った。そうして蓮の足元を見ながら着いて行くと、突如自分たちの足元を照らす程の眩い光が放たれた。
そしてその直後に訪れる心臓を撃ち抜く程の音が響く。
ドォーン、という轟音が。
「っ!?」
碧は何かが爆発したのでは無いかとドキッとしながら後ろを見ると、そこには色彩豊かで華やかな花火が空に咲いていた。
その花火は余りにも壮大で、大きな衝撃を碧へ与えることとなる。何故なら碧にとって花火とはビルの隙間から見えるどこか遠くの別の世界で起こっているようなものであったからだ。しかしそれが初めて至近距離でこの様な轟音を聞いたものだから空を見上げながら目を白黒させてしまった。
しかし恐ろしいまでのその荘厳な光景の中に、全てを忘れさせてしまうほどの美しさがあった。
そして碧が見た一発の花火に続き、さらに1つ2つと打ち上がりスピーカーから流れ出す曲に合わせてリズムを刻む。
碧の人生観が変わるような衝撃に対しその感覚を共有しようと、碧は花火から目を離せないまま蓮へと声をかけようとする。
「みて!れーーーーーっ」
「おーい!」
「花火が見えやすい場所があるんだってよ!行こーぜ!」
「ちょっ、お前らまてって!」
「ーーーーきゃっ!」
後ろを向きながら蓮のいるであろう方向へ身を寄せようとした瞬間にその間を横切った人達によって遮られてしまった。
更にそれに続くように人が移動し始め大きな流れとなって碧を押し出した。どうやらこの近くに観覧席があるようで、急いで戻る人達がボトルネック状に狭まったこの通路に押し寄せているのだ。
そしてその通路の真ん中にポツンと残されていた碧は時折人にあたりそを避けようとした先でも同じような事になり、ジリジリと人の流れに流されるように観覧席の方へ向かってしまう。
「れ、れんっ」
最初に人と当たった際に既に蓮の姿を見失っていたが、ダメ元で叫んでみるがやはりその声は届くことはなかった。
花火や音楽が絶え間なく流れる状況に加え人より小柄な体格の碧を見つけるのは中々に困難であったのだ。
そうして流されるままに観覧席まで行ってしまった碧は、改めて周りを見渡すと流石に運良く蓮と再会出来るはずもなく、花火が上がる度に賑わう中、碧だけが1人残された感覚でそれを見上げた。
どうしよう・・・。
以前のように弱くない碧はこれだけではパニックに陥ることはないが、それでも心細さと不安からに言い表せられない恐怖に襲われる。
碧は冷静にならないと、とスマホを取り出してメッセージを送ろうとしたが未だに先程楓に送ったメールが送れておらず、碧をさらに不安を掻き立てる。
そして試しに蓮へメッセージを送ってみたがやはり繋がらない。
拙い。
人は多いが見晴らしは良いここで、蓮もしくは知り合いを探すか。
それかこちらから探しに先程の場所へ戻るか、連絡が取れるようにする為に人が少ない場所まで行くか。
碧は悩みつつ、何に置いてもここにいては人が多すぎて厳しいと判断し先程の場所まで戻ることにした。
そうして探しに出た碧ではあったが、先程まであれほど楽しかったはずなのに、今こうして1人になって見る景色はとても心許なさでいっぱいだった。
右を見て左を見て。
不安げな表情を浮かべる碧は正に迷子そのものであり、肩を落とし何時もより体が小さく見えるため尚のこと幼さが増す。
行き交う人の多さにも、その喧騒も、そして碧の胸まで響く花火の音でさえ先程までの見え方がまるで違う。
蓮がいないだけでこれ程までに不安に映るものなのか。
碧の心境を急かすかのように花火の間隔も狭まっていくように感じる。
そうして水風船すくいの屋台まで戻ってきたはいいものの案の定、当てずっぽうで探しに来た所で蓮の姿は見つかる訳もなく、皆が上を見上げ花火に見入るなか、碧だけが俯きトボトボと歩いていた。
そして終いにはその歩みすら止めてしまい、目元に涙を浮かべてしまう。
「れん・・・、どこ?」
漏れ出た悲鳴は喧騒の中へと消える。
そうして自然と目元に涙を滲ませたその時、碧の耳にとある声が響いた。微かではあるが、確かに遠くから聞こえる声。
しかし残念な事にそれは蓮のものではない。それよりももっと、高くて、そして碧と同様に不安に押しつぶされそうな声。
碧は自分の不安は他所に、その声の場所へと進む。聞こえてくるのはもう少し進んだ先だ。そしてそこには変哲のない、屋台に挟まれた通路の真ん中にポツンと、誰にも見向きもされない中に泣きじゃくる子供が立っていた。
男の子だ。
それも碧と同じ浴衣を着て額にはお面も顔からズラす様に頭につけている。きっと同じようにお祭りを楽しんでいたのだろう。そして碧と同じでハグれて迷子になっている。
碧は自然とその子の近くへと歩みを進める。
そして浴衣に気を使いながらしゃがむと、その男の子と目を合わせるようにして声をかけた。
「大丈夫?迷子?」
「うっ、えっぐ・・・ふぇ?」
男の子を目元を拭っていたため碧の存在に気づいていなかったようで、声をかけて初めて反応を示した。
「・・・おねえちゃん、だれ?」
ズビズビと鼻を垂らし鼻声になりながも碧の問いかけに答えた。それに対してニコリと笑いかけながら碧は安心させる。
「ボクは碧っていうんだ。
君はお母さんとはぐれちゃったの?」
「あい・・・?
うん、おかあさんどこか行っちゃったの」
見る限りだと小学生1.2年生と言ったところだろうか?不安でいっぱいだろうに、話せばかなりしっかりとした返事が貰える。
「そっか・・・それじゃあボクと同じだね。
実はボクも迷子なんだ」
「おねえちゃんも迷子なの?」
「えへへ、頼りないお姉ちゃんでごめんね。
でも迷子同士、仲良くする?」
「うんっ!する!」
折角自己紹介を行ったがどうやら呼び方はお姉ちゃん呼びに落ち着いたみたいだった。
その後男の子・・・名前を聞けば優希くんと言う名前らしく、名前の通りに勇気に満ち溢れた強い子であり、お母さんのことを聞き出すと手を繋ぎ探すこととなった。
自分も迷子なのにこんな事してていいのかなって言う不安にはなるが、それでも目の前の男の子を放っては置けないし。
それにこれはまるで・・・そう、楓に連れ出された時の記憶と重なったのだ。あの時も確か同じように迷子の子を連れ添っていたっけ。
あの時は自分から助けられなかったけど、今はこうして自ら行動し、困っている子を助けることができる。あの時助けに行けなかった罪滅ぼしという訳では無いけど、行かなきゃと思えたのだ。
あとこうしていると自然と自分まで勇気が出てくるような気がした。少なくともこの子の前ではしっかりしてなきゃと言う気持ちもあるのかもしれない。
「優希くんはお母さんとどこではぐれちゃったの?」
「うーん、分かんない・・・。
わたあめ屋さん見てたら分からなくなっちゃったの」
優希は綿飴の屋台がある方向を指さしながらそういった。
綿飴。それは子供の目を引くような作成工程と包装に人気キャラを使う事でかなり人気である。きっと優希もそれにつられて見入ってしまったのだろう。
「わたあめ、そんなに好きなんだ。
それじゃあボクが買ってあげようか?」
「え?いいのっ!」
「うん、その代わり元気出してね?」
「わかった!」
そうして舞い上がる優希を連れ添って綿飴の屋台まで行くと、ズラリと出来上がり飾られる綿飴が並んでいた。仮面ライダーや人気ゲーム、アニメと言った子供の目を引くには十分すぎる程の品揃えである。
碧はその中から仮面ライダーの袋を手に取るとそれを優希に見せた。するとパアッと顔を明るくさせて頷く。
碧の予想通りと言うかなんというか。だって仮面ライダーのお面を頭にしてるから分かりやすいと逆にクスッと笑ってしまう。
碧は早速それを購入するとそれを優希へ差し出した。すると優希は飛び跳ねるように喜ぶので取り敢えず元気になってくれて良かったとホットする。
そして綿飴を食べ始めるのを見届けてから、これからどうしようか何て、考え悩む。試しにスマホを覗いてみるがやはりメールなどは無かった。
はぁ・・・れん、心配してるかな。
一緒に花火見よって言ったのに。
先程まで余裕のある表情を貼りつけていられたが、ふと思い返すと言い表せられない不安がよぎる。
「ーーーの?、おねえちゃん?」
「え?」
そうしてぼうっとスマホを眺めていると、ふと隣から優希くんに声をかけられた。
「あ、どうしたの?」
「おねえちゃん、大丈夫?」
「どうしたの?全然へーきだよ」
そこで碧は自身が今余裕のない表情をしていたのだと気が付き改めて笑って誤魔化した。
「優希くんこそ、寂しくない?大丈夫?」
「うんっ、お姉ちゃんがいるから楽しい!」
「ありがとね、ボクも優希くんがいるから楽しいよ」
本当に。恥ずかしい限りだが、碧は本心でそう思う。もしあの時出会えていなければ泣いていたのは自分の方だったかも知れない。
碧が優希を見ると真剣な顔をしながらも口元に綿飴が付いており、それが可笑しくてさらに寂しさなんて吹き飛んだ。
「優希くん待っててね」
碧はゴソゴソと手提げ巾着からハンカチを取り出すと、優希の頬を優しく吹き上げる。
すると片目を閉じながらそれを受け入れた。しかしどこか恥ずかしげではあった。
「ほら、これでかっこよくなったね」
そう言うと優希は顔を真っ赤にして照れてしまい、終いに額につけたお面を被ってしまった。
「おねえちゃん・・・、仮面ライダーテイラ見たいだ」
「?」
て、ていら?
最初分からなかったが多分それはその仮面ライダーの事かななんて勝手に考えた。しかしそれに似ているとはどう言う事だろうか?でも、褒め言葉として言ってくれたのだろう。たぶん?
「それって、どういう仮面ライダーなの?」
「テイラはね、いつも仮面ライダーギガを支えてくれるんだ」
んー、それってきっとその作品の仮面ライダーの1人ってことだよね?多分仮面ライダーギガって言うのが赤色のそのお面のキャラクターなのだろうか?
「あとね、すっごくつよくて、・・・か、かわいいんだ」
かわいい・・・、それなら女の仮面ライダーかな?ていうか今って女の仮面ライダーも出てるんだ。あまりテレビに疎い碧はそんな感想が浮かんだ。
何だか非常にむず痒いけど、そのテイラと言うのと比べてくれるのは嬉しい。
「そうなんだ。ありがとね、優希くん」
碧はそう言い優希の頭を撫でた。すると体を強ばらせたまま優希はされるがままになっていた。
この時期の子は多感な子が多いと言うのに素直に受け入れていた。なんだか優希の方こそ可愛いと感じてしまう。
そうしてヨシヨシをしていると、優希が急に「あっ!」と声を出した。
「お母さん!」
さらにはそう言い出すものだから少しびっくりとしてしまったが、優希はそれに構うことは無く何かを見つけたようで駆けて行った。
そしてその先で1人の女性へ向かうとそちらもお面をしているにも関わらず誰かんかったようで「優希!」と名前を呼んで抱きしめた。
そして確認するようにお面を取ると、頬を手で包んで再度抱きしめる。
「どこに行ってたのよ!
心配させてっ」
「うぇ〜ん、ごめんなさい」
そして怒りながらも泣いて喜んでいたので、優希もそれにつられて泣いてしまった。今まで強く気を持っていただけにそれが崩れれば一瞬であった。
そして落ち着けば母親だと思われる女性は手に持っている綿飴を見て疑問が浮かぶ。
「優希それどうしたの?
お金もってなかったでしょ?」
「うっぐ、えっぐ・・・ぅぇ、これ?」
優希は目を擦りながら持っていた綿飴を前に出して答える。
「おねえちゃんに買ってもらったの」
「お姉ちゃん?」
「うん!」
そう言って碧を指さしたので、入りどきを失っていた碧は急な出番にコクッと会釈した。
すると母親は碧を見てギョッとした。
その作り物めいた可愛らしさもそうだが、多くは射的屋の店主の様に外国人だと勘違いしたのだろう。
人攫いと疑うような不安はないが、だがその特異な雰囲気に呑まれてしまう。
「あの・・・、あなたは」
「え、あっ、はい。
その、迷子だった優希くんを保護してました。綿飴も勝手に買ってあげちゃいまして、すみません・・・」
「い、いえいえ。こちらこそこの子のためにすみません!
この子がまた我儘言ったんでしょ?ほんとご迷惑をお掛けして・・・」
そして互いに謝った後、経緯を話すとさらに感謝され綿飴と感謝代という事で色を付けたお金まで貰ってしまった。
一度は断ったのだが「いやいやいや」合戦が始まってしまい、更に名前を自己紹介しただけだが明らかに未成年の容姿を持つ碧自身もその母親にとっては守るべき存在であったようで押し切られてしまったのだ。
更に優希から互いに迷子だったと言われ保護者はと聞かれてしまったりと少し困ったり。
高校生にもなって迷子になっているなんて言えず、あまり深堀される前に話を切り上げようとした。
そうして再三なお礼を言われた後、別れる前に優希が1歩前に出て碧へ声を掛けた。
「おねえちゃん!・・・バイバイ」
折角母親に会えたと言うのに、未だに浮かない顔を浮かべる優希に目線を合わせるようにしゃがみながらニコリと笑う。
「じゃあね、優希くん。
今度は迷子になっちゃダメだよ?」
なんて、自分も迷子なのにね。
自分は棚に上げてお姉ちゃんぶる碧は優希の頭を撫でようとして、そして優希に一歩下がられてしまう。
「?」
撫でるために上げた手が寂しくなってしまった。しかしそれでも優希は撫でられたくないのか、浴衣をギュッと握りしめながら碧へ伝える。
「僕もっと強くなるから!おねえちゃんみたいに大きくなって、仮面ライダーギガみたいになるから、それまで待ってて!」
「優希くん・・・」
何だかそんな尊敬されたことなんて今まで無かったから少し感慨深い。
でもボクはそんな大層な人間でもないけどね。そう思いはしたがさすがにそんな無粋なことは言わず、逆にこの子が大きくなった時にも憧れのままの自分でいるようにと気を引き締める。
「うん、待ってるね」
碧は笑いかけそう答えると、パァっと顔を明るくさせて先程の曇った表情が吹き飛ぶような笑顔で手を振った。
それを見て優希の母親は「まぁ」なんて驚きとともに意味深に笑みを浮かべる。
そしてまた迷子にならぬように手を繋がれながらも、片方の手で最後まで手を振りながら2人とお別れをするのであった。




