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お祭りデート

 碧と蓮は夜闇を眩く照らす屋台を進む。


 屋台の店主や行き交う人の熱気と言うものを肌で感じた。碧もその熱量は伝わっており、今にも子供のように馳けて行きたい衝動に駆られた。


 が、生憎今の碧は下駄を履いており、思うように走れないためはしゃぎ回るようなことはできなかった。

 さらにその理由は下駄だけでははなかった。


「あっ。

 れん、あれーーーーーっ」


 碧は楽しそうにそう言いかけながら指をさしかけてーー、そしてやめた。

 その先にはもはや定番化としたりんご飴があった。しかしそれを見ると同時にコミケの時に一緒ににひとつの物を食べ合った時の記憶が思い出されてしまい、碧の思考を止めてしまったのだ。

 さらに今ここで頼んだ時、同じよう食べることとなったらどうしようなんて、脳内ではその続きが否応にも再生されてしまいポンっと顔から湯気を出した。


「あいちゃんなにかあるのか?」


「っ!?

 え、えっと。あはは、ほらみてあれ!」


 碧は分かりやすく誤魔化すと、差しかけた指をおもむろにに横へずらすと、苦し紛れにその隣の屋台へと指をさした。

 するとそこには景品を並べ、そしてそれをコルクガンで落として獲得できる所謂射的というものがあった。


 これまたコテコテのお祭りと言えばなものである。


「ん?あー、射的が気になるのか?

 よし、んじゃ行ってみるか」


「えっ!あ、う、・・・うんっ」


 なんて、行こうとしていた訳では無いけどここまで来たら何も言えずにそのままホイホイと付いて行くこととなった。


「楓、少し射的の方に行ってくるは」


「あら、珍しいわね。

 てっきり金魚すくいとか、得意なの行くと思ってたのに」


「まー、射的も出来たらかっこいいだろ?」


 そんな蓮の軽口が飛ぶぐらいにはこの祭りに際してお互い浮かれていることでもあった。


 そうして訪れた射的屋なのだが、碧は興味深そうにそのお店を見渡した。


 景品棚にはちょっとしたお菓子から最近話題のゲーム機だったりと幅広く並べられていた。

 凄い、1回5発で500円らしく、一攫千金を狙うか実利を取るか。


 他のお客さんを見ると、子供たちは必死になってゲーム機を狙っているがやはり重たいからか倒れる様子はない。


「あいちゃんはどれが欲しい?」


 碧が興味深げに景品を見ていたからか、何か欲しいものがあるのではと蓮が聞いてくる。

 しかしやるからには何か狙いたいところだと、碧はさらに見渡すとそこには可愛らしいクマの人形があった。


 大きさに的に15cmほどか。あの可愛らしい人形に玉を当てるのは気が引けるが、あの辺なら自分でも狙える気がすると碧はそれを蓮に伝えた。


 それを見て蓮は少し考え込むと、「いいんじゃないか?」なんてお許しが出たので早速プレイ。

 碧が店主に500円を渡すと、お皿に入ったコルクを渡してくる。


「えーと、これ、ガン?

 つめる、バン!OK?」


「え?はぇ?」


 そして店主がジェスチャーを行いながらそのルールを説明してくれる。

 碧がワタワタとしていると店主は「うーん」と悩み始める。


 そんなやり取りを見ながら後ろで蓮が少し声を抑えながら笑っていた。


「くっ、ははは、

 あいちゃん、どうやら外国の人だって勘違いしてるみたいだな」


 碧の頭をポンポンとしながら第三者目線での答えを出してくれた。


 その言葉に店主は間抜けな顔をしながら理解し同じように笑い出す。


「なんだ、嬢ちゃん日本人だったのかい」


 鉢巻をして、いかにもな店主が豪快に笑う。

 遅れて理解した碧も少し恥ずかしげにはにかんだ。


「え、えっと。

 でもやるの初めてなので、ありがとうございます?」


「はっはっはっ!

 すまないね、最近は外国の人も多いから」


 その言葉の通り、確かに行き交う人の中には西洋的な顔立ちな人もいれば言語の異なる声が度々聞こえてくる。

 最近はこういうお祭りも人気なのだとか。


 凄いなーなんて、今まで外に出て無かったから疎かったけど改めて実感する。

 そうして店主には「じゃー、兄ちゃんに教わるといいな!」とあとは蓮から聞くように促すと、店主は別のお客さんの対応へと言ってしまう。


 商売繁盛というか、大盛況である。


「それじゃああいちゃん。

 色々と裏技はあるけど、どうする?まずは普通にやってみるか?」


「裏技?」


「ああ、景品の角狙ったり、コルクを湿らせたり逆側に入れたりとかか?

 あとは片目を閉じて、出来るだけ景品に近ずけて打つとか色々あるけど」


「な、なるほど・・・」


 色々あるのだとは分かる、しかし全てやるかどうかと言われれば難しい。蓮が普通にやってみてもいいと言っていた理由が少しわかった。


 碧はその言葉の通り、取り入れられそうな事だけをやる事にした。

 片目を閉じ、景品と直線上にして目を瞑る。そして出来るだけつま先をピンとさせて近づきながら狙いを定める。


 そしてここだと言う点を狙って放つ!


 パシュ


 碧の放ったコルクは空を切る。


「・・・」


「はは、まぁそんなもんさ」


 碧は面白くなさそうにジト目で自身の銃を見た。これ、予想以上に難しい。


 まずは角を狙う前にぬいぐるみな当て無ければ。碧はまた片目を閉じて狙いを定める。

 そしてーー


 パシュッ


 またも外した。

 碧が改めて片目も開き確認するがクマのぬいぐるみは微動だにしておらず、それに当たったところで落とせるかも怪しくなってきた。


 碧はその現実にしょぼんと肩を落とす。

 しかしそれも仕方がない。軽そうに見えるが面で見れば比較的面積の小さいクマのぬいぐるみは実はかなり上級者向けであった。

 それに重心はズッシリと足回りにあり、あれを落とすなら狙うは額の頂点。その一点のみである。


 それから碧は続けて2発を放つが、それでも1発は当たりはしたものの僅かに体勢を斜めにするのみであり、惜しいどころか斜めになったことで更に難易度を上げていた。


 射的をやった事が無かった碧でも流石に今の形は難しいのではと思い始めていた。

 そして残るコルクは1発。どうしようと悩んでいると落ち込む碧の頭にポンと手を置き蓮が耳元に顔を寄せて言った。


「落ち込むなあいちゃん、俺に任せろ」


「へ?」


 蓮はそれだけ言いすぐに碧に合わせて曲げていた体を起こすと、店主を捕まえて声をかける。


「すみません。あのぬいぐるみ、正面向くように直して貰えますか?」


「お、いいよいいよー、

 どんどん狙ってねー」


 そんな気さくに答えながらぬいぐるみを元の位置に戻し、するとまた戻っていく。

 そして蓮はもう一度碧に体を寄せ、握る銃に手を被せるように一緒に握る。


「!?」


「いいか。

 脇は締めて、出来るだけ銃に頬を寄せるんだ」


 そう言い蓮は碧を抱くように後ろから共に手を添えて銃を構える。そして碧に銃を頬を寄せるように促すが、そうすると蓮が見ずらくなるため蓮自身は碧の顔に頬を近づけて感覚を共有しようとする。


「〜〜〜〜〜〜っ/ / /」


 碧は目を白黒させて背筋が伸びる。

 もはや悲鳴すら出ない。しかし胸から何かが飛び出してきそうな程の感情が碧を昂らせる。

 何が昂っているかは碧すらも分からない。それを理解する余裕すらないから。


 碧はもはや限界だと目を閉じる。


「だめだ、最後まで目は閉じない」


「っ、」


 ドキッと胸が高なった。


「あいちゃん。最後は、俺に預けてくれないか?」


「へ・・・はぇ?」


 目はもはやグルグルとし涙が溜まる。

 しかし目を開けと命令されればどうしようもなく、手先まで震えてくる碧に向かって蓮は囁いた。


「取れなかったら契約で1つ貸しにしてもいいから、ダメか?」


「う・・・ぅん」


 け、けいやく?

 やばい、蓮の息遣いが聞こえる。それにれんの匂い・・・やばぁ。


「それじゃあ、契約だ。

 これで取れなかったらあいちゃんに貸一つ、

 これで取れれば俺に貸一つだ」


 取れれば蓮に貸し一つ?そんなの聞いてない。

 しかし碧には冷静な心も、まともな思考すら奪われており抵抗など何も出来なかった。今の碧に出来ることはただ一つ。


 蓮に体を委ね、言われるがままされるのみである。


 碧は何も考えられない頭ではやはり答えなどでず、小さく情けない声で返事を返すので精一杯であった。


「・・・ひゃい」


 と。


 ☆


 ポンポンポン。


 碧は指に輪ゴムを通しそれに繋がる水風船、またの名を水ヨーヨーを手に当てバウンドさせる。

 するとゴムによって戻ってきた水風船をまたもバウンドさせるとそれが無限に続く。


 なにこれ、意外と楽しい。


 碧がぼーっと水風船で無心に遊んでいると、蓮が何度目かとなる謝罪を行った。


「ごめんな、あいちゃん。

 契約の貸しって訳じゃないけど、今はそれで許してくれ」


 そう言う蓮に、碧は気にしなくていいのにと頬をふくらませて謝罪を止めさせる。


「もうっ、気にしなくていいのに」


 碧がそう言うと、蓮は捨てられた子犬のような目をしながら顔を上げた。


「だけど・・・、射的の時も折角の最後の一発無駄にしちまった」


「そんなの、大丈夫だよ。

 すごく欲しいって訳じゃなかったし」


「しかしな・・・」


 蓮は未だに納得できない様子でそう言った。


 この会話の通り、結局碧達はあの後ぬいぐるみを落とすことは出来なかったのであった。ぬいぐるみの額に当てることは出来た、がしかし狙いは僅かに下にずれており大きく揺らすも落とすまでに至らなかったのである。


 蓮は碧が慰めにそう言っているのかと思っているだろうが、本当に碧にとってぬいぐるみは二の次だったのである。

 それに狙いがズレたのも、碧の体から力が完全に抜けきっていたせいだ。銃を持つ手も安定しておらず発射した衝撃で僅かに狙いがブレたという自覚もあった。


 しかし何故蓮がここでも申し訳なさそうにしているか。それはその後の蓮との出来事にあった。


 少し時は巻き戻るが射的の後、狙いが思うように行かなかった蓮は挽回のチャンスにとお得意の金魚すくいを教えようと提案したのだった。射的の時のお詫びをしたかったらしい。


 金魚すくい得意なんだなって、碧は思いながらそこまで期待せずに着いて行くこととなった。なぜなら射的で十分夢心地であったし、こうしてお祭りを回るだけでも楽しいからだった。

 しかし楽しそうな蓮が見れるならと着いて行ったが、トラブルが発生。


 なんと金魚すくいがどれだけ探してもなかったのだ。時代の流れか、金魚という生き物の命を弄んでいるという風潮で最近はめっきり数を減らしているらしいが、一つも無いことは蓮にも想定外な様子であった。


 お陰で一緒に来た楓たちとは大きく離れてしまいながらも、やっとのことで見つけたのは金魚すくいと似た形式のゲーム性である水風船すくいである。


 紙製の釣り糸の先にフックがついており、それで水に浮かぶ水風船もといそれに付属するゴムを引っ掛けるといったものである。


 あまり無理に引っ張ったり、だからといって慎重になりすぎると水で釣り糸がちぎれてしまう。その感覚はかなり金魚すくいに似ていた。


 それを見て蓮は最早これしかないとその時も碧に謝りながらそれを行うことが決定した。


 しかし幸いとその予想は大きく当たり、金魚すくいの腕は水風船すくいでも健在であった。蓮はポイポイと水風船をすくい上げてしまうものだから驚いた。因みに碧も行ってみたが一つ引き上げるので精一杯で2回目を釣ろうとすると紙で出来た釣り糸は溶けるように破けてしまった。


 そうして隣を見れば5個も獲得していた蓮が両手いっぱいにしているものだからおかしくて笑ってしまった。


「あはは、れん、すごいっ」


「まぁな、こう言うのはコツさえ分かれば簡単なんだ」


 周りの子供たちの羨望の視線を集めつつ鼻を高くする蓮だが、碧はそんなに貰ってどうするんだろうという、純粋な疑問が湧いてしまう。


 蓮もそれじゃあと碧へ水風船をプレゼントしようとして、「いや待てよ」とふと我に返る。

 しかし念の為と蓮は碧へと尋ねてみた。


「あ、あいちゃん?

 水風船・・・いるか?」


「え、えーと」


 碧はそう言われ流石にその量はちょっとと考えた末、ピコンといいことを思いつくと蓮の持っている一つと自分の持っているものをトレードする。交換っこである。


「全部はいらないけど、これが貰えればそれでいっかな。

 それに、欲しがってる子はいっぱいいるみたいだよ?」


 碧が周りを見渡せば、釣られて蓮も周りを見る。すると先程と同じように羨望の眼差しを送るつぶらな瞳が多数。


 それで蓮も思い至ったようで、周りの子供に「これ、いるか?」と尋ねると子供たちは蓮を取り囲みぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。


 蓮はその食い付きに戸惑いながらも悪い気はしないようで、碧とトレードしたものを除きほかの4つを全て子供達へあげてしまった。


 そして皆はお行儀よく「ありがとね、水ヨーヨーの兄ちゃん!」なんてお辞儀をすると散っていった。


 そして水風船を失った蓮からは人が消え、たちまち寂しいものとなる。そんな蓮へちょこんと寄ると笑いかける。


「人気者だったね?」


「ま、まぁ現金なものだけどな」


 心做しか寂しそうな蓮。

 もちろん子供がいなくなってしまったのも寂しいが、碧に思うような贈り物ができていない事に大して落ち込んでいるのだ。


 しかしそんなことも知らずにただ寂しいだけだと思っている碧は少し悪戯っぽく笑いかけるてから言った。


「それだけじゃないよ、れんが上手かったから人気だったんだよ。それにさ・・・」


 碧はそう言いかけると蓮に肩を寄せると上目遣いで二ヘラと笑う。


「代わりに、ボクだけはずっとれんの隣にいてあげるから」


 なんて。少し大胆だがそれでもこれもお祭り効果なのか。周りの熱が碧にと伝播し気持ちを開放的なものにさせる。


「なっ、な、ななななーーーー」


 が、それが蓮には余りにも刺激が強すぎた。

 壊れたロボットの様に蓮は体全体を震わせながら碧へその真意を確かめようとして、しかしこんな何もない道端出する話でもないかと冷静になり誤魔化すようにそっぽを向いた。


「か、からかってないで行くぞ!」


 そうして遅ればせながら楓たちに合流せんと踵を返す。そうして蓮が照れ隠しのようにスマホを出して連絡を取ろうと逃げるが、そんな後ろ姿をみてクスッと笑う。


 そうしてワザとなのか熱心にスマホに齧り付くものだから、碧は暇になり試しにポンポンと手で水風船を弾いてみる。すると案外楽しくてハマってしまうのであった。

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