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待ち合わせ

 ピンポーン


 そんなチャイムが響くと、碧と楓は反応し巾着袋など持ち物を持ってき部屋から出た。


 きっと蓮が来たことを伝えるチャイムなのだろう。何故なら集合場所は楓の家なのだから。


 そうして階段を降り、玄関まで行くと既に楓の母がお客さんの対応をしており、玄関先を見れば蓮が居て楽しそうに談笑していた。

 幼馴染という事もあり、面識も勿論あるのでこうして話すことも多いのだろう。


 耳を立てると「蓮くんはモテモテね、両手に花よ」なんてからかわれていた。その言葉に動揺する蓮は見ていて楽しかったが、あまりからかわれるのも可哀想なので直ぐに助けに入った。


「お待たせー」


「れん!」


 碧と楓はそんな会話に交わると、蓮はこちらの存在に気が付き見て・・・そして固まった。

 まるで先程の司の様に。


 しかし碧に対する耐性の違いか、照れたように首に手を当てながら碧達に感想を述べる。


「2人とも、似合ってるな」


 なんてぶっきらぼうに。

 碧はそれだけ?なんて不満を持つとあからさまに頬が膨れた。そして態々蓮の前に一歩前に出ると上目遣いで見上げながら脇を寄せ、振袖を摘みながら手を頬に寄せる。


「っ」


 誰が見ても浴衣姿をもっと見ろというアピールである。しかし口には出さないそんなもどかしい関係だと直ぐに察する楓の母は、口に手を当てニマニマと2人の姿を遠巻きに見つめる。

 そしてそのアピールは勿論蓮にも伝わっていた。


 可愛すぎんだろ。

 蓮はもはや感想など必要が無いほどに悩殺されていたが、それでも碧のご所望通りに蓮は感想を言葉にする。


「あ、あいちゃんのその、水色の浴衣・・・すごく可愛いぞ」


 パァッ


 そう、それは碧の欲しかった言葉だった。

 蓮の好きな色。来て欲しかった浴衣。そんな浴衣を着てきたことで、碧の蓮への気持ちを伝えられる。


 どれだけ蓮を好きなのかを。


「えへへ、うんっ!

 れんの為に選んだんだ!」


 そう言いはにかむ碧。もうそんなの実質的に告白だろという言動に後ろで楓の母が「きゃー」なんて歓声をあげる。


 そんな声にやりずらそうに蓮は少し目を逸らしながらなんの気内容に装って答えた。


「そ、そうか。ありがとな・・・」


 依然として口下手な様子のその姿に、もっと言うことは無いのかと、踏み込んだ質問をするなり褒めちぎるなりして欲しくて少しだけ頬を膨らませたが、それだけ聞けただけでもいっかと気持ちを切り替えた。


「いいよ・・・今はそれだけでも」(ボソッ)


「ん?あいちゃん今なんてーー」


「何でもない!

 それよりも行こ!お祭りっ」


 碧のボヤきを聞き逃した蓮に対して話を逸らすようにそう言うと、蓮の手を取って外へ出た。本当は勢いよく駆けたかったが下駄という物が想像以上に歩きずらくチョコチョコとしか動けない。


 そして勢い任せに行く予定が完全に宛がハズレ、こうして落ち着くと手から伝わる蓮との繋がりを意識しどうしても赤く顔に出てしまう。これは暑さのせいか高鳴る心臓のせいか。


 でもこれから夏祭りとなろう時間帯は日も陰り始めているし、いくら顔が赤くなろうが分からない・・・はず。

 碧は今ならいつもよりもっと大胆になれる気がすると、この中途半端な碧たちの関係を進められそうな気がした。


「それじゃあお母さん、行ってくるわ」


「ええ、みんな行ってらっしゃい」


 玄関先で碧と蓮がイチャイチャしている間にも後ろでは楓の母親の見送りがなされていたので、碧も遅れながらに頭を下げてお礼を言う。


「お邪魔しました、着替えるのにまた来るかもしれませんがその時はまたお願いします!」


「ふふ、そんなに畏まらなくてもいいのに。何ならうちに泊まってくかしら?」


「そんな、それはさすがに・・・」


 碧は元々ノリのいいタイプでは無いので、こういう時なんて言えばいいのかなんて分からなかったが謙遜しておくことにした。


「俺からもあいちゃんがお世話になりました」


「蓮くんも何時でもいいから前みたいに遊びに来て。

 あとお母さんにまたよろしくって言っておいてね」


「はい、言っておきます」


 蓮もそう言って頭を下げると碧たちは本格的に出発する事となる。


 そして道を行けば同じように浴衣を着た人や夏祭りに行くであろうものがチラホラ散見する。

 そしてその中にはカップルと思わしき人たちもおり、手を繋ぎながら楽しそうに談笑している。


 碧も隣を見て、同じように手を繋ぎはしているが、以前のようにあまり続かない会話にやはりこのままではいけないと再認識し、少しだけ蓮の方へ身を寄せて歩く。


 時々肩が触れ合った。


 そうすると互いに過剰に反応し、蓮も照れてなのか他所を向いてしまう。


 夏休みの時であれば、肩が触れれば互いに見合って可笑しくもないのに笑い合えていたはずなのに。


 浴衣だってそうだ。

 浴衣も、結ってくれたこの髪だってもっと褒めて欲しかったのに、関係が変わるにつれてそれも少なくなってしまった。


 なんだか恋愛って、難しい・・・。


 近づく程遠くなる。碧はそんな、人がもっと早くに経験するかもしれなかったひと夏の恋を、青春をこうして取り戻して行くのだった。


 ☆


 夏祭り。

 会場は大きな川の河川敷で行われるみたいで、出店は広場と河川敷に沿って並ぶらしい。


 そしてその会場まではバスで行く予定である。

 碧自身は行き方を把握していなかったが、楓達は行き慣れているようでついて行けばあれよあれよとバスを乗り数分歩いて目的地へとたどり着く。


 バスは普段のバスの運行に加えシャトルバスが常に出続けけているようで、そこまで混雑はしなかったが近くまで行けば渋滞に巻き込まれはした。

 しかしそれも許容の範囲内であり、お祭りのメインである花火が上がるまでには余裕で間に合った。


 そうして現地集合組の集合場所へとたどり着くと、それでも遅めだったようで遠くでも分かりやすいシルエットがピョンピョンと跳ねていた。


「おっそーい!こっちこっちー!」


 その声に蓮たちと顔を見合わせて、クスッと笑うと少し駆け足気味に近ずいた。

 するとやはりと言っていいのか、果穂が浴衣というのを感じさせない程に跳ねていた。


「果穂ちゃん、そんなに動くと崩れちゃうわよ」


「うんっ、気をつける!」


 本当に分かっているのか返事だけは立派にそう答えると、直ぐに切りかえて碧達を急かし始める。


「ほらっ、それよりも花火始まっちゃうから早く早く!」


「まだまだ時間あるから」


 そうして勿論この場にいた和葉がすかさず果穂を宥めた。


「和葉ちゃんも昨日ぶり」


「うん、そだね」


 やはりクールに、そして浴衣は緑色だがその落ち着きのある色が和葉の雰囲気にマッチしていた。

 因みに果穂は橙色であり、これもまた元気な雰囲気そのままに可愛らしい。


 2人とも楓に見せてもらった写真と同じ浴衣だけど、実際に見るととても可愛らしく、今は性別が同性になったとしても見惚れてしまう。これは元々男だからなのか女性としての目でも魅力的に映るのか。


 そんな視線を感じたからか、果穂は「どったの?」なんて首を傾げた。


「ううん、その・・・みんな、浴衣似合ってるね」


「むむむっ!そんな事言って、碧ちゃんだってとびっきり可愛いじゃん!」


「まー、確かに。碧さんに言われちゃうとね」


 碧の零した言葉に果穂と和葉がそれぞれ反応を示した。しかし共に苦笑いを浮かべるように碧を見ながらそう言った。


 そうして皆は改めて碧を、その浴衣姿を見た。


 果穂達もお返しにと褒めようとしてみたが、すごく可愛くてとても・・・似合いすぎる位に似合っていた。


 お陰でお祭りに来たであろうカップル客も、男の方が碧を二度見し見蕩れるものだから隣の女の子に頬を引っ張られる者もチラホラ見られた。

 例え隣に蓮がおり、その手が繋がれその関係性が分かっていたとしてもだ。


 その始終を少し引き気味に果穂は眺めながら、最早かける言葉すら見つからないと笑うしかなかった。そんなこんなで、現実逃避気味に別のことへ意識は向けられることとなり、そこで再度繋がれた手を視界にいれると果穂の目がニヤリと笑う。


「なになにー、お祭り始まる前から効果出ちゃったかな?」


 そしてササッと碧の耳元によればコソコソ声で耳打ちをする。

 そう言えば始まりは碧と蓮の仲を取り持つ為のお祭りでもあったのだ。それがもう既に仲良さそうにしているものだからウリウリと脇を突く。


「っ、」(ブンブンブン)


 碧は大きく頭を横に振ってそれを否定した。

 手こそ繋げているが、まだまだ全然進展はないし、先程も恋って難しいと考えていたばっかだからだ。


「うーん、そっかそっか。

 でもまだお祭りは始まったばっかりだから、私が何とかしてあげるね!」


「ーーーーんっ」(コクッ)


 碧は先程とは打って変わって汐らしく黙って頷いた。


 そうして碧と果穂は計画を企てていると、更に知っている顔が合流していく。


「あー!小日向さん水色の浴衣着てる!」


 すると遠くからそんな大きな声が聞こえてきた。

 碧達は名前を呼ばれたこともありそちらを振り向くと、向こうから蓮の友達である男子生徒達が横並びになりながらこちらへ歩いてきていた。


 そして最初に声を発したものとは別の者も続けて声を上げ始めた。


「うお〜〜〜っ、負けた」

「でも可愛いぃーー!」

「いや小日向さんだけじゃねぇ、みんな可愛すぎる!」

「俺たちの青春はここにあったんだ・・・」


 遠くからでも聞こえてくるほどの大きな声が響き渡る。それに対して蓮も頭を抱えてため息を着いていた。


 そしてその男子グループには真尋も含まれており、真尋も蓮と同じような表情を作りながら少し顔を逸らし一歩離れたところを歩いていた。だがそれに構わずノリのいい男子グループは離れた真尋の肩を無理やり掴むと横に揺すって盛り上がっていた。


 そうしてここでさらに待つと別の女子グループも加わり、見渡せばクラスの3分の1程がいる大所帯となった。

 さすがにこれには碧もびっくりと言うか、果穂の人脈が凄いと褒めるべきか。


 しかしだからといって全員で回る訳ではなく、既に幾つかのグループで別れ、屋台へと離れていくもの達もいた。


 こうして合流したり別れたり、楽しさを共有出来ればそれでいいみたいだ。


 そうして声をかけた人達は全員集まった様で、その雰囲気がさらに強くなる。

 そして碧も蓮の手を引くと、伺うように声をかける。


「れん、ボクたちもいこ?」


「ああ、そうだな」


 そうして、碧達も初めてのお祭りへ足を踏み込んでいくのであった。

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