きっかけは俺、とはしておきたくはない
休み時間になるのを待って、早瀬さんに確認した。もうおおよそ下手人の見当はついているのでしょうと。すると、早瀬さん、
「犯人探しが目的ではない」
こんなことをのたまいやがった。俺は自分の頭がおかしくなったのかと思った。国語のテストの文章題を解いていて、著者の言いたいことを探るのが目的ではないってことあるか? 事件なら犯人見つけ出すのが解決でしょ。
「解決は、今回なら橘が完全に回復することだ」
それは正論だが。
「それに依頼は、呪いかどうかということだったろ」
和泉先輩からの依頼という記憶をつぶさに思い出そうと試みた。確かに、そう言っていたような。とはいえ、それも橘先輩にちょっかい出した奴を探し出して吐かせればいいんじゃない? てかさ、早瀬さん、あの消しゴムはどうなってんの、俺のパクったのかと思ったら、俺のはあるし、あれはいったいぜんたい。まあ、確かに購買に売ってるような品だから普及率は高いだろうし、見間違えたっておかしくはないのだけれども。ってクレーム言っても今更なんだけども、消しゴム取り出していじりながらぼやいてみた。
「なんで呪うんかね」
言った瞬間だった。本当に俺としては何気なく言ったのだ、呼気の二酸化炭素の邪魔にならないくらいに。
「なるほど」
いきなり立つなよ、早瀬さん。休み時間を堪能していたクラスメートの何人かがその貴重な時間を止めてこっちを見ているじゃないか。そして、説明なしで出て行くのかよ。仕方ないので追いかける。あの雰囲気の教室にいたら、視線がいたたまれない。早瀬さんには分かっても凡人には何に合点が言ったのか不明だ。ここはクレームを言っておこう。
「質問が違っていたんだ」
だから、それの説明を。てかスタスタ歩きやがって。競歩選手でもあるまいにすっげー速いでやんの。「廊下を走ってる」と怒られる速度でないかい? いや、なんだよ、質問て。
「質問が適切でなければ、答えは導かれない。そうだろ。さっきの数学がそうだったろ。問題の記号が違っていた。解答にならないのは当然だ」
だーかーら、何の質問が違っていたかって聞いてんだけど。頭がいいなら、頭のよくないやつにも解りやすく説明してもらいたい。
「私の問いが間違っていた」
いや、それは分かった。そもそも早瀬さんの問いとやらを俺は聞いたことないのだが。
「呪いがあるか、ないかの件だ。呪いの社会心理とか言っておいて、ずっと実在か非在かに頭が向いていたなんて」
んなこと言ってたっけ? いや、社会心理とやらは記事見た気がする。思想家がどうのこうのとか言ってた時も似たようなこと言ってたな、そういえば。あれは所信表明だったわけか。でも、それが何か間違ってるんです? よく、とは言わないかもしれないけど、フツーの疑問じゃないですか? 実際依頼がそれなんでしょ。
「だから、そうじゃないんだ。そうじゃ。歯間ブラシをしたら気付かないうちに歯に挟まっていたものがあると、気付かされるみたいな感じだ」
例えが分かりづらい。それより、俺は何と言ったっけ。えっと、なんで他人を呪おうなんて思うんですかねってこと?
「それだ」
どれだよ。
「あるなしじゃない。人はそう思うんだ」
いやだからもっと簡潔明瞭に。国語の記述問題はそれじゃあ正答にならないぜ、先輩。
「では聞こう。成績の良い私をお前は羨ましく思わないか?」
嫌味ですか。そりゃ羨ましいですよ。期末テストにあらかじめ、あなたの点数を分配しておいてもらいたいくらいに。
「留年している私が?」
それは理由があるんでしょう? 俺は知らないけれども、それこそ噂になってましたよ。かいつまんで最小公倍数的に言うと、家庭の事情とか。家庭のことだろうから詮索しないけれども。
「でも羨ましいのだろ。それと同じだ。呪いがあって症状になったのか、呪いがなくても症状になったのか。その症状の原因の呪いの在・不在を考えていた。藤村さんの意見を聞いて、呪いがないのならなんで症状が出ているのか、釈然としなかった」
それなら藤村女史のリーディングミスとかってのもなくはないでしょ。あんだけ見透かしてたけれども。というか今の言動を読まれてないことを切に願う。
「けれども、ないのなら実害だろう。それならどうやって症状になる?」
それをっていうか、その原因を探ってたんでしょ。
「安藤が言っていたじゃないか」
あの気の強い先輩か、てかけっこうしゃべってたから、あの先輩。しゃべりすぎてて、どのことを言っているのか皆目見当もつかないのですけど。
「『ムカついてんのに、ムカついてるって言わないでどうすんの』て言っただろ」
よく覚えてんな、一言一句。しかも、若干真似入ってるし。そういやそんなこと言ってた。けど、それは率直に言える人だからであって、普通はもめごと無きコミュニケーションとか円滑な人間関係を保持するのに、そうそうドカンとは言えませんぜ。
「その通り。言えないんだ。ならば、思うこと、人の心はどうなるか。もしそれを行動へ移させるとしたらそれをするのは、しようとするのは、その症状になってメリットがあるのは誰か、一人しかいない」
なんとなく早瀬さんが言いたいことが分かってきた。思いということだ。呪いという現象ではなく、呪うという心理状態。似て非なる着眼点を持ったと言うことらしい。が、もっと説明ってか、その話のまとめ方って、本当のサスペンスじゃん。ここ断崖絶壁じゃないぜ。で、それが今回の件の解決になるのか?
「もちろん。だから行くのだ」
まあだからこうして歩いており、どんどんと速くなっているのだが。早瀬さんは早足のまま、スマホとタブレットを交互にいじっていた。俺はどこに行くとも知れずにただついて行くしかなかった。




