霊能力者、だそうです
「藤村観月さん」
紹介された三〇代女性。イケナイことを教えてくれそうなお姉さんぽい印象。けれども、
「俺の言う専門家だ」
ですよねえ。こんなところにこんな時間に来るなんて早瀬さんならソッチ方面ですわね。つまりは霊能力者だと。だと思いました。俺の尾行、完全に読まれてましたもん。
「真白陽平です。早瀬さんの、えっと今の同級生で」
「今回の件のパートナーになっちまんだろ」
言われ、早瀬さんを見る。なんかどえらく恥ずかしい単語を言われた気がする。ところが、早瀬さんはタブレットをいじりながら、
「俺は言ってない。藤村さんの霊視だ」
どこ吹く風の相変わらずの調子。この際だ、あのおいくら出したら恋人候補見つけられますか、と聞いたら不躾だろうか。
「今は恋人どころじゃないだろ、そのうちな」
思ってても見透かされるの? なら、口外しないでいただきたい。額の辺りが気のせいかジワリと熱いんだが。
「了解」
もうテレパシーじゃん。思わず顔をそむけてしまった。そむけたところで思考が読まれないなんて保証はないのだが。
「まあテレパシー云々はいいとして、何聞きたい? 晶」
「和泉咲は、橘美和に呪いを施しているか」
ブーっ
この部屋に来る前後ですっかり心臓によくない事象が数々巡り合い、ようやく一息つけると、藤村さんが出してくれたハーブティにほっとしようとしたら、この質問である。もう噴水と言うか霧吹きの勢いで吹き出してしまった。冷静に、いたって冷静に早瀬さんはテーブルの箱ティッシュを、藤村さんはテーブル拭きでは足らず、キッチンからタオルを取って来て渡してくれた。それはありがたいが、この人、今なんて言った? 言うに事欠いて友人が犯人みたいなこと言い出しやがったぞ。自作自演よりもねえじゃねえの?
「呪いに関わることは施してない」
いやいやそこの確認もだが、霊視とかってすぐれてプライベートなことだからさ、勝手に依頼主のこと聞いちゃダメだろ。
「言わなくても見えてしまうんだから、どっちでも同じだ」
違うと思うけど。藤村さんもなんだか肩竦めてるように見えたぞ。
「他には?」
「いえ、以上です。これを」
早瀬さんが差し出す封筒。合掌してから中身を確認する藤村女史。俺の気のせいかねー、福沢先生が七人いらっしゃった気がするんですが。藤村女史から早瀬さんにこれまた大きな封筒が渡された。たぶんいろいろなものが入っているんだろうな。手慣れた様子でそれをカバンにしまう早瀬さん。
「真白、もう引けるぞ」
一礼してとっとと出ていく早瀬さん。もうこのスピード感について行けず、どうにかこうにかお暇しようとする。玄関まで藤村女史が見送ってくれた。もう早瀬さんは玄関を出ていた。なんか、あっさりした関係なんだなと思いながら、靴を履き終えると、
「えっと、晶のお守り君」
などと非常に不名誉な呼称をされた。改めて自己紹介する。丁寧に訂正を入れて。いや、そんな場合ではない。どうせなら今ここで俺への呪い云々が判明解明されるのでは。もし、呪いが本当ならいっそのことここで除霊なんかも。
「ジョークだ。からかった分言っておいてやろう。君に呪いはかけられてない。君が夕方くらいにいろいろ検索してただろう? 霊能関係の。ふと思いついて電話しようかして止めたろ? あれ、うちだから」
カラカラと笑いながら、あっけらかんと答えてくれた。橘邸への道すがら、よもやとも思いながらスマホをいじっておりましたよ、確かに。なんか噂になってる人がいるからって検索し検索し、いざ電話をしようとしたら、ええそうですよ。早瀬さんがね。もうすぐ橘邸に着くからとやむなく片しましたよ。それで後でまた探してみようと思ってましたよ。マジ、こんなことあるんかい(ちなみに後日確認できたところによると、藤村さんへの電話だが一発でかかることはまずないとのこと。マックスに粘ってようやく予約できるのに三ヵ月かかった人もいるとか。早瀬さんとはホットラインがあるとかないとか。ましてやアポなしで直に会えるなんて、よっぽどのことだそうだ。……本件は、よほどのことのようだ)
「んで、陽平、君に助言を上げよう」
一瞬で真顔と言うかガチの声色を出すのは本当に怖いので止めていただきたい。とはいえ、助言を頂けるとは……アドバイス料が法外にならなければいいが。
「晶は真相にたどり着けない。君が導いてやれ」
眉間にしわが寄るのをはじめて感じた。この部屋に入って長くはない時間が経過していたが、早瀬さんの質問に答えるよりも真剣に言っていた。俺が率先した案件ではなく、巻き込まれた結果能動的になっているだけなんだが。俺が導くとか、その前に早瀬さんが俺の前をぶっちぎりで疾走してます。どこに向かっているのか教えてくれない感じで。というわけで、藤村さんの意図がつかめなかった。それで、その真意を探ろうとしたら、
「言ってもいいがこれだけ払えるか?」
指三本立てられた。俺が額を言うと桁が違うと言われた。その枚数を見ていたらきっと福沢先生の顔がゲシュタルト崩壊する。よって、そのため部屋を出ることにした。恐るべし霊能力者。えっと、帰ったらバイトでも探そうかな。
藤村先生に渾身の一礼をしてからマンションを出た。早瀬さんが待っていることはなかった。いや、別に待っていてほしいとかではなく。なんとなく余韻っていうかさ、静かな打ち上げみたいなのも悪くないんじゃないのかね。とはいえ、それを言う相手がもういないんだが。ああ、そうか。また俺につけられるとか思ったんだな。用心深い奴め。あざ笑ってる体になったのは慣れないことをして疲れたせいにしておこう。今日はもう追いかけないことにして。なんだか緩やかな夜風が涼しく、いやその低い体感が気味悪く感じられて、俺は急ぎ足で帰った。
翌日。早瀬さんが学校に来なかった。




