ボブとジョージとマクギブソン!
僕達は今公園に来ています。ナッちゃんのお迎えの帰りに、家の近くに在る、公園に寄り道してるんだ。
此処は、緑が生い茂り過ぎてしまっているせいで余り広く感じないんだ。其でいて遊具の一つも無く木製の確りした屋根付きベンチしか設置されていないんだよ。
でも、風通しが良く真夏でも涼しげで案外快適な公園なんだって。
僕には雑木林にしか見えないんだけどね。
此処にはとっても毛むくじゃらの黒い怪物がダンボールに巣くって居るらしいんだ。マークの話によると、此処の主である毛むくじゃらと目が合ってしまったら、上納品を献上して差し上げないと噛み付かれたり追い回されたり舐め回されたりしちゃうみたいなんだ。
僕達が座っているベンチの後ろから、ガサゴソと言う何やら不穏な空気を感じてしまい、僕は頑なに下を向き黙りを決め込んでいたんだけども、ナッちゃんが、後ろに居るであろう怪物くんに気付いてしまい、ベンチから飛び降り、そちらに向かってレッツらグォォゥ!だっ!
「ニャぁンちゃぁん♪」
僕は捕らえられてしまったであろう、ナッちゃんを救い出す為に覚悟を決め、マークに助けを求める。
「マナブ君、自分の事は自分でするんだ」
腕を組んで、バードウオッチングに勤しんでいたマークの邪魔をするのは、少し気が引けたので、僕、自らが重い腰を浮かべ、ベンチの上に立つ事にした。
振り返ると其処には、この夏の季節には少し辛そうな程に黒々とした短い毛を身に包み、其処だけ色の違う白いお髭を光らせ、獲物を射抜くその碧のつぶらな瞳を見開き、毛に隠された柔らかな筋肉と関節の間にある軟骨を擦り減らしてしまう事をも物ともせずに、スラリと細長くそびえるその尻尾を昔懐かしい踊る花のオモチャの用に動かしながら、そいつらはナッちゃんに、にじり寄っていたんだよ。
しまった!二匹もいたのか。
「マーク!煮干を頂戴。早くしないとナッちゃんがっ!」
「分かったよマナブ君」
のんびりしていたマークを、急かす用に揺すって上げたら、マークの顔が険しくなってしまったんだ。
「マナブっ!大変だっ!煮干が無いよっ!ないんだよっ!」
駄目だっ!あのマークが取り乱してしまっている、取り敢えずマークを落ち着かせなければ。
「馬鹿野郎っ!あんた一体何年生きて来たんだよっ!そんな事も満足に出来ないなんて、マークなんてもうクビだよっ!」
僕の機転でマークは、なんとか自我を留めておく事が出来たんだ。
「マナブなんかに私をクビにする権限なんて、ないんだよ」
マークは落ち着き払った口調で僕を安心させてくれたんだよ。
「まぁ、仕方ないから家に帰って煮干を取って来て上げるよ、それまでボブとジョージの相手でもしてておくれ」
ボブとジョージって言うのは、あの毛むくじゃらの事だね。
「わかったよ」
時間稼ぎは僕に任せて、マークは家に戻ってしまったんだ。二匹を相手にナッちゃんを守り通す事なんて、僕には難しいよ。頑張れ、僕っ!
いつの間にやらボブだかジョージだか分からないけど、一匹がナッちゃんに擦り寄っていたんだ。二匹ともそっくりだから僕には区別出来ないよ。
「ニャァ〜」
慌ててナッちゃんに近寄ろうとしたんだけど、もう一匹の方が僕の前に座り込んで通せんぼして来たんだ。
僕が動けない間に、ナッちゃんが毛むくじゃらの前にしゃがみ込み、僕の見ている前で顎の辺りを無理矢理、御奉仕させられていたんだ。
それだけでは飽きたらず、ナッちゃんの幼気なおててをペロペロと舐め回していやがったんだよ。
なんて破廉恥なっ!
「ニャぁんちゃぁん、ざらざら、するよぅ〜」
子供相手にそんな事っ!御天道様が黙っていても、御巡りさんとかPTAのマダム達が黙っちゃあいないんだよっ!
「ナッちゃん、くそっ!」
僕が自分の無力さに打ち拉がれて居ると、いつの間にやらもう一匹がナッちゃんのスカートの中に顔を潜り込ませようとしてたんだよ。
ジョージっ、貴様もかっ!
僕は通せんぼが無くなった事に気付いて、慌ててナッちゃんを抱え込み、急いでその場から離れていた。その時にナッちゃんがジョージの背後から、脇の下を両手で鷲掴みして捕獲していたんだよ。御手柄だねナッちゃん。
少し離れた場所で僕はジョージの取り調べと裁判を並行して執り行う事にしたんだ。
「ジョージ君、君は何故に幼気な少女を辱める様な事をしたのかね?」
「ニャァ〜」
「死刑」
ジョージは僕に腹を見せ万歳する形で捕らえれており、ナッちゃんに肉球を悪戯されながら、チラチラと鋭い爪を覗かせて僕の事を脅していたんだ。
「済まない、僕とした事が、少し早計だったみたいだ」
全てに於いて公平を自負していたこの僕が、危うく身内贔屓してしまう所だったよ。
「ジョージ君、此方には目撃者も居るんだよ」
「……」
「今度は黙りか?」
沈黙を守るジョージに、ナッちゃんが前足を左右に振らせる。
「僕が見てたって言ってるんだよっ!」
今度は両方の前足をレバーに見立てて、前後に激しく動かす。
「ナッちゃん、それは可哀想だよ」
僕は、ジョージの弁護人として、彼への厳罰は、不当な物であると主張してあげた。
「う〜」
検察官の異議申し立てにも軽く頷いてあげる。
「……まぁ、良いだろう。検察官、証拠を提出したまえ」
僕の言葉を聞き、ナッちゃんがジョージを離し、代わりにボブを連れて来た。
「ニャぁー」
僕はボブを手に取り、ボブの体毛を摘み、じっくりと調べ上げ、開けさせた口の中を確認する為、手を中に入れようとした。だけどボブの鋭い牙が目に留まって、そう為る事を諦めるしかなかったんだ。
「宜しい」
ボブを解放し、ジョージをまた連れて来てもらう。
「おにぃちゃん、アタシ、つかれたぁ〜」
「ごめんよ、もう少しだから、我慢してよ」
被害者の女性も鎮痛な面持ちで裁判の行方を見守っている。
「……それでは裁決を言い渡す……」
僕は、この場の重い空気を、さらに重くし、ジョージを見下ろしながら、鼻で笑い勝ち誇る。
「……被告人、ジョージを有罪とし、僕のルール第三条に基づき、改造手術の刑に処すっ!以上っ!コレにて閉廷っ!」
僕は、ジョージを不死身のサイボーグに改造する為に、ジョージをベンチの上に運んだ。
「ニャァ〜」
「フッ、フッ、フッ、ジョージ君、幾等、鳴き叫んだって助けは来ないんだよ」
ジョージの悲痛な叫びを受け流し、彼の肉球を軽くプッシュした。
「待てぇいっ!」
煮干の入った袋を手に持っている、マークの方に向き直る。
「誰だっ」
此処で前口上が始まるのかと思いきや、ボブとジョージの名前が、友人の名前を勝手に付けた物だと言う事を説明された。
「そいつは、ボブだよ。マナブ君」
「そんなの知らないよっ!」
既に熱くなってしまった僕には、もうボブでもジョージでも問題になら無くなっていた。
「もう僕は誰にも止められやしないよ。あと少しでコイツの改造が終了するんだ」
僕はジョージの柔らかそうな鼻の頭に人差し指を置き、その場に佇むマークの事を嘲笑う。
「ソイツをジョージにしてもいいからっ!」
僕はマークに説き伏され、改心する事にしたんだ。
「スイッチっ!オンっ!」
マークから受け取った煮干を、ボブに与えていたナッちゃんが、ボブを引き連れ、僕の裾を引っ張り、何処か期待した眼で僕を見る。
「おにぃちゃん。このこ、かってもい〜いィ?」
ナッちゃんに捕獲された、少しぐったりしたボブが僕に救いを求めていた。
「駄目だよナッちゃん。彼には彼の事情があるんだ」
「やだぁ〜。かうも〜ん」
ナッちゃんがボブを枕でも抱く様にギュッと抱きしめ、我が家に向かってペンギンみたいにゆっくり走って行ってしまったんだ。
「マナブ君。どうしよう?」
そんなの僕が聞きたいよっ!
「煮干を持って行かれてしまったんだよ」
なんだってっ!煮干が無くなったら、ジョージがお腹を空かせてしまうじゃないかっ!
「それは、残念だったね」
僕達は急いで、公園の入り口付近で休んで居たナッちゃんを捕まえたんだ。
「ナッちゃん、ボブは今日、予定があるみたいなんだ。だから離してあげてよ」
僕はボブよりもジョージの方が良いと思うよ。
「はぁ〜い」
僕達はボブを離してあげ、そのまま家に帰る事にした。
「ねぇ、マーク。ボブとジョージって、何者なの?」
「私には、分からないよ……」
教えて!マクギブソン
続く




