お迎えなんて怖くない!2
僕達はまだコンビニにいるんだ。マークがタクシーで帰ろうとしたんだけど、僕はお金を持ってないんだよ。しょうがないから、来た道を歩いて帰る事にしたんだ。
しばらく歩いていたんだけど、ナッちゃんが繋いでいた僕の手を軽く引く。
「どうしたの、ナッちゃん?」
振り返ると、ナッちゃんが少し渋い顔で眉をしかめながら立ち止まっており、僕にランドセルを見せている。
「おにぃちゃん、これかしてあげる」
ランドセルを僕に持たせると、ナッちゃんの顔に笑顔が戻ったんだ。ナッちゃんには少し重かったんだね。
ナッちゃんは嬉しそうに繋いだ手を振り回し、すぐ近くを歩いているマークをチラリと一目盗み見ると、今度は僕に顔を向ける。
「マーくんは、オトモダチなの?」
そうか、ナッちゃんも色々と気になるお年頃という者になってしまったのか、ここはお兄ちゃんとしてナッちゃんの疑問にしっかり答えてあげないと、下手な事言って後でナッちゃんに恥ずかしい思いをさせてしまうかもしれない。
「違うよ、マークは僕の専属ボディーガードなんだよ」
「家庭教師だよ、マナブ君」
どうしたって言うんだよマーク!
此処まで来て僕の事を裏切るなんて、信じてたのに。とても正気だなんて思えないよ。
たぶんマークは催眠術とか怪しいお薬とか、そうゆう物で洗脳されてしまったに違いない。
くそっ!
あのコンビニ店員だな、マークをこんなにしてしまったのは、絶対文句を言ってやる。
僕の悔しい気持ちを握り拳を作る事で表し、虫歯一つ無い健康的な白い奥歯を、鮮やかなピンク色の歯茎をも剥き出しにしながらギシギシと噛み締めコンビニに引き返そうとしたが、ふとこのままではナッちゃんにまで危険が及ぶ可能性に気付き、この悔しい気持ちを胸の奥とズボンのポケットの中にしまい込む事にした。
「ごめんよマーク」
あんなにお世話になったのに申し訳ないよ、僕には何も出来ないんだ。
「気にする事は無いよ、でも、次は無いよ」
マークの優しさに触れて、僕の胸に熱い物を感じたよ。
お返しにと、ヨゴレてしまった大人ではとても直視出来ない程の眩い笑顔で頷いて見せた。
「おにぃちゃん、あれなぁにぃ〜」
ナッちゃんが指差した先を見ると、其処には【トミ子の部屋】というボロボロの看板を掲げた古ぼけた駄菓子屋が建っていた。
「ああ、アレはねナッちゃん、三途の川って言って、あの店の奥にいる老婆に挨拶を返すと、あの世に引きずり込まれてしまうと言う末恐ろしい場所なんだよ」
僕はナッちゃんを迎えに行く途中でマークに教えてもらった事を自慢顔で話したんだ。
僕もマークに教えてもらわなかったら危うく老婆に挨拶する所だったよ。
僕が今日の出来事を回想してる間にナッちゃんが駄菓子屋に向かって駆けていたんだ。
僕は慌ててナッちゃんを追い、駄菓子屋の中に入り込んでしまったんだよ。
そりゃあ必死に走って行ったよ、なんてったってナッちゃんの命に関わる事だからね。まぁ、お兄ちゃんとしてって言うよりも人として当たり前だよね。僕って偉いよ。
駄菓子屋に入り込んだ僕は、既にナッちゃんに話しかけ、うすら寒い笑を浮かべる老婆を見てしまい、身震いして絶望した。
なんてこった!
僕には此処で見ている事しか出来ないのか。
その時、マークが串に刺さった三本の酢だこを手に持ち、僕の横を通り老婆に向かって歩きだした。
酸っぱい香りが僕の眼球と鼻孔の奥深くに染み渡るよ。
そうか、分かったよマーク!
酢だこの匂いが老婆の弱点なんだね。そうと分かれば、怖くないよ。
僕は、老婆が酢だこの匂いに怯んだ隙にナッちゃんを救出する事にした。
マークが老婆に話しかける瞬間を見計らい、ナッちゃんの手を取り急いで外に脱出し、電柱の影に身を潜める。
神様にマークの無事とかを、色々とお祈りしといたよ。
「おにぃちゃん、どうしたの?」
何を呑気な事を、もう少しで初なねんねがララバイ、ヨロシクしちゃう所だったんだよ。
「駄目だよナッちゃん。知らない人に声を掛けられたら、マネキンとかロウ人形の振りをするんだよ」
僕がナッちゃんに人生の厳しさを説明していると、マークが店から脱出し、此方の方へ歩いて来た。
「マナブ君、万引きはいけないよ」
何を言ってるんだよ!
マークはナッちゃんの命よりも世間体の方が大事だって言うのかよ。
「僕、万引きなんてしてないよ!」
「そうなのか、トミばぁが驚いてたから、そうだと思ったよ」
僕が膨れていると、マークが酢だこを、僕とナッちゃんに一本づつくれたんだ。
「酢だこを上げるから許しておくれよ、ちょっとした冗談だったんだよ」
僕は酢だこを食べながら、笑って見せたんだ。冗談なら仕方ないよ、それにしても酢だこって美味しいね。
僕達は歩きながら談笑していたんだけど、ナッちゃんの様子が少し可笑しいんだ。
僕達が酢だこを美味しそうに食べてるのを見ては、酢だこの匂いを嗅ぎ、酢だこの匂いを嗅いでは、顔を歪ませ僕とマークを交互に見てるんだ。
ナッちゃんが一口酢だこをかじり、舌を出しながら僕を見上げ、持っている酢だこを差し出す。
「おにぃちゃん、これあげる」
ナッちゃんが僕に酢だこをくれたんだよ、こんなにも良い娘に育ってくれて、僕はとっても鼻が高いよ。
僕はお礼を言いながら、ナッちゃんの頭を優しく撫でて上げたんだ。
「ナッちゃん、止まるんだ」
僕は、足を止めて百メートルはある、色の変わったアスファルトを指差し説明して上げた。
「ナッちゃん、此処は子供が足を付けると身長が半分に縮んでしまうと言う、怪しげな所なんだよ」
僕はマークにおんぶしてもらいながら説明されたんだけど、危うくナッちゃんよりも、おチビさんになってしまう所だったんだ、お兄ちゃんとしての威厳を守れて良かったよ、ありがとうマーク。
「おにぃちゃん、アタシ、あさにここ、とおったよ〜」
なんだって!
どうゆう事だ、ナッちゃんが始めからおチビさんだから大丈夫なのか?
ナッちゃんの時だけ偶然、効果が無くなっていたのか?
それとも別の何かがあるのか?
そうか!
だから母さんは、ナッちゃんにランドセルを渡したのか、大人のアイテムだってナッちゃんが言ってたもんね。
イヤ待て!
ランドセルは子供の物だろ、でもナッちゃんは大丈夫だったみたいだし、試してみようかな。
やっぱり駄目だ、危険過ぎるよ、もし縮んじゃたら、園児の妹よりも小さい、小学生のお兄ちゃんとして、ご近所さんに有名になってしまう、そんな事になったらもう母さんが小学校に通わせてくれなくなるかもしれない。
そんなの絶対に嫌だよ!
僕は一体どうしたらいいんだ。
教えて!マクギブソン
続く




