お山でお稽古! 2
僕が山に来てからもう既に一週間。
いつの間にかマークに言いくるめられてしまったんだけど、修行を見てるだけってとっても暇なんだ……。
僕にもなにか手伝える事がないか、と言う名目でこっそりと色々な物を探し回ってみたんだ。主に昆虫をなんだけど三日と立たずに見切りをつけてやったよ。
どうやら僕に昆虫採集は向いてなかったみたいなんだ。なんてったってイモイモとムシムシした奴が僕に無許可で、僕の腕の上を、僕の了承を得ていないにも関わらず、勝手にウネウネと悍ましくも蠢いて居たんだ。
だらしなくも悲鳴を上げそうになったんだけど、僕は意地でも悲鳴は上げなかったよ。
本当は直ぐにでも泣き叫んでしまいたかったんだけど、僕はあくまでも冷静さを装う事に徹したんだ。
僕が隙を見せた瞬間にイモイモ君が僕の腕に寄生でもしそうな雰囲気だ。僕は瞬きもせずにイモイモ君に睨みを効かせ、心の中でこう呟いたんだ。
あと一うねりでもしてみろ……、そんな事したらお前の脳天に必殺のデコピンをお見舞いしてやるぜ……。
ってね……。
本当は声に出したかったんだけど、そんな事して僕がカウボーイかなにかと勘違いされてしまったら困るからね。
それは良いんだけど、問題はイモイモ君だよ。あいつは一うねりと言わず三うねり半はうねったんだ。
勿論、この僕の腕の上でねっ!
あいつはそれだけでは飽きたらず更に自分の身体に捻りを加えるんだ。思い出しただけでも鳥肌が立つよ。あいつのその姿はそう、まるで荒れ狂う獅子舞のように……。
か、下等生物の分際でこの僕を威嚇するなんてぇぇぇっ!
許せんっ!
そう思った僕は高ぶる気持ちを抑えきれず、溢れる思いを中指に込めて、瞬きする間も与えずに渾身のデコピンをお見舞いしてやったんだ。
あいつの相手をしてやったのがたまたま僕だったから良かったもののこれがただの一般市民ならちょい、だったね。
僕もギリギリのところでデコピンをお見舞いしてやる事が出来たけど、あと数瞬だけでも僕の冷静な情報分析と的確な判断が遅れていたら倒れていたのは僕の方だったろうね……。
僕は倒されてしまった時の事を想像し、今更ながらに冷や汗が溢れ出していた。
あのムシを退治したまでは良かったんだけど、一つ問題があったんだ。
もしかしたらあのムシ毒とか持ってたかもしれない……。
一度その考えが浮かんでしまうと流石の僕でも不安に感じてしまってしょうがない。
あのムシに噛み付かれたとかそんなヘマをした覚えはないんだけど僕の皮膚に直接、謎のエキスを塗り込んだ可能性も否定は出来ない。
考えれば考えるほど僕は不安になってしまってたんだ。
昆虫学者でもない僕があのムシが毒を持っていたかなんて知る訳がない……。
ここで考えているだけでは何も解決しないと思い立った僕は直ぐにでも行動する事に決めたんだ。
幸いな事に直ぐ近くにマークがいたのを思い出した僕は、あのムシに汚染されてしまった可能性がある部分をマークに擦り付けてその部分を拭ってしまう事を思い付いたんだ。
思い付いてからは早かったよ。修行に集中しているマークに腕を擦り付けるなんて僕には造作も無い事なんだよ。
日長一日なぜか木に抱き付いてるマークに僕は、何度となく腕を擦り付けていたんだけど、運が悪い事にマークが丁度良く休憩に入ろうとしていたところだったみたいなんだ。
だけども僕は焦る訳でもなくマークに話し掛けたよ。
「マーク、一体なにをしているの?」
マークが修行を始めてから何度となく聴いてみた事をまた聴いてみただけなんだけど、その度にマークはこう言うんだ。
「……子供にはまだ早い」
このやりとりだけでもうマークには、僕はただマークが何をしているのかを知りたがってるようにしか見えない筈だね。いや、実際にマークが何をしているのかは物凄く気になるんだけど、その時はマークを誤魔化す事に専念したんだ。
これでマークにバレずに毒とかを押し付ける事に成功したんだけど、この秘密はお墓にまで持って行かなきゃいけないなと思ったよ。
この出来事で虫取りを諦めてしまった僕は、もっぱらマークが何をしてるのか調査していたんだけどそれもなんだか飽きてきたんだ。そこで一つ、僕も修行でも始めようと取り敢えず走る事にしてみた。
――それから一週間。
走り始めてもう一週間は立ったと言うのに僕の胸のモヤモヤは晴れない。やっぱりマークみたいにしてみないと駄目なんだろうか?
マークが修行している隣の木を確保した僕はマークの真似をしてみた。この行為に何か意味があるのだろうか?
僕には良く分からなかった……。
マークと僕のやり方にどこか違いがあるんだろうか……?
僕は注意深くマークを観察してみる事にした。
マークに顔を向けるとマークもまた僕を見ているようだった……。
修行を始めてからここのところ、余り周りに気を払う事のなかったマークが僕に注目している。少し恥ずかしかった。
「……子供にはまだ早い」
ただ一言そう言うとマークはまた修行に没頭し始めてしまった。
「……なんで?」
「…………」
それから何度もマークに問掛けてみたんだけど、まるで僕から興味が失せたと言わん許に無視されてしまったよ……。
「……」
「…………」
「……あの、暇なんだけど……」
「…………」
僕はマークに見切りをつけてまた走る事にした。
――マークに見切りをつけてから更に一週間たった。
だいぶこの山に慣れてきた僕だけど、やっぱり時間を持て余してるんだ。だから取り敢えず、木に抱き付いてるマークのお尻にパンチをしてみた。
「……子供にはまだ早い」
「……」
マークが僕に構ってくれないと言う事はわかっていたけど、少しだけムカついたんだ。
僕はそんなマークを放ってまた走る事にした。
――それから一週間。
そろそろ家に帰りたくなってきた。僕は何をしているんだろう……?
何故だか無性に走りたくなった……。
――あれから一週間。
マークの修行に付き合ってた僕だけど、最近になって僕がいなくても大丈夫なんじゃないか? と思い始めた。
「……ねえマーク、僕そろそろ家に帰りたいんだけど……」
「……駄目だ!
子供にはまだ早い」
「……」
これも最近になって気付いたんだけどマークは僕の話を全く聞いてないみたいなんだ。
勝手に帰って良いものなのか僕には判断が付かないんだ。
僕は夕日に向かって走りだし……、やっぱり気分が乗らないから止めておこう。それに夕日もまだ出ていない。
鬱な気分を紛らわす為に僕は少し歩く事にした。
暫く歩いていたらふと気付いてしまった。そこは見た事のない場所だった。
気付かない内に随分と遠くまで来てしまったみたいだった。
このままでは迷子になってしまうと思い、来た道を引き返す事にしたよ。
引き返そうと後ろを振り向きかけた時にどこからか物音が聞こえてきたんだ。
何かが擦れるような……、決して風が強い訳ではないんだけど葉っぱが擦れ合うかのようにガサガサゴソゴソと聞こえてくるんだ……。
注意深く辺りを見渡してみる。
特に変わった様子はなかった。やっぱり気のせいなのかと思い、来た道を戻ろうとしたら、またガサガサゴソゴソとどこからか音がするんだ。
「誰だっ!」
特に誰かに追われているとかそんな覚えはないし物音の発生原が人間とも限らないんだけど、ついついノリでそう叫んでしまった。
「た、助けて!」
どうやら誰かが僕に助けを求めているみたいなんだ。
暇だ暇だと言っていたけど面倒事はご免だよ。
僕は聞こえなかった振りをしてその場を後にする事にした。
「助けて〜っ!
誰かいるんでしょ!?」
「……」
聞こえない、聞こえない、僕は耳を塞ぎ幻聴と戦っていたんだけど、声の主は諦めてはくれないんだ。
「わたし知ってるんだから!」
「……」
「君の名前を知ってるんだから! マ、マノブ君なんでしょ!?
助けてマノブ君!」
「僕はマノブじゃないよっ! マナブだよっ!」
「やっぱりいるんじゃない! 助けて〜!」
しまった、そう思った時にはもう既に遅かったんだ。僕とした事がこんな簡単な誘導尋問に引っかかってしまうなんて……。
それにしても名前までばれてしまってはここで助けてあげないと後々で面倒な事になってしまいそうだね。
しょうがないから助けてあげる事にしたんだ。僕は声が聞こえてくる方を注意深く見てみた。先程は気付かなかったけど、あからさまに揺れている不自然な木が一本あったんだ。
木、木のお化け……?
怪しげに揺れている木の枝が、まるで僕を手招きしているようだった。
今更ながらに気付いた事があるんだけど、それはあの木が女の人だと言う事だった。声の感じから言ってまず間違いないと思う。声は女の人なのに身体の大きさは僕の何倍もあるんだ。戦ってもまず勝てないと思う……。
助けてと言いながら手招きしている怪しげな木にこのまま近づいても大丈夫なんだろうか、と少し思うんだ。なんか近づいた瞬間に足でも引っ張って行かれそうな不穏な空気が漂っているんだよ。
マークでもいればまた違うんだけど……。
マーク……?
そうだ! マークだよ!
マークじゃないか!
僕は気付いてしまった。最近マークが僕と遊んでくれなかったのにはこんな理由があったのか。
多分これはマークの悪戯なんじゃないかと言う訳だよ。実はマークってばこう言う悪戯が大好きなんだ。なんで声が女の人なのかは解らないけどマークの事だから相当なお金を掛けた仕掛けなんだろうね。
マークの悪戯だって気付いちゃったから怖い事なんてコレッぽっちもないし。
僕は足取りも軽く、怪しげな木に向かって歩きながらに声を掛けてみた。
「マークでしょ?」
「ち、違う!
わたしあんなオジサンじゃない!」
オジサン……?
マーク、もしくはマークが雇った人が僕に悪戯してると思ってたんだけど、今の一言でよくわかんなくなっちゃったよ。
マークってオジサンって言われるのを嫌がるんだ。だからマークを少なからず知っている人なら絶対にマークの事をオジサンなんて言わないと思うんだ。
不安になった僕は少し後退り、足元に落ちている小石を拾いそれを木に向かい少し強めに投げてみた。
「……」
僕の投げた石が確実に木のお化けに命中していた。だけどなんの反応もない、木のお化けは相当な耐久力の持ち主のようだ。
「……痛くないの?」
「……へっ?」
「……僕の投げた石に当たったよね?」
「そ、そんな事したんですか!?」
どうやら木のお化けはかなり鈍感みたいだね。少しだけ親しみやすい奴だと思ったよ。ちょっとだけ用心してたのにいつの間にか言葉まで交しているし、ついでだからマークの事も聞いてみるよ。
「あの、マークに雇われた訳じゃないの?」
「あ、あんなオジサンなんてしりません!
そ、そんな事より早く助けてください!」
助けて……?
僕の目の前には先程まで揺れていた木が普通にそびえている。
「……えっと、助けてって言ってるからにはそれなりに困ってるって事だと思うんだ……。
でも君は僕の目から見て、あんまり困ってるように見えないんだけど、特に鳥に突かれてる訳でもないし……」
「と、鳥!?
な、何を言ってるんですか!
わたしは足をが絡まってて動けないんです!」
この木って動けるの!?
見てみたい……。こいつは僕の好奇心をビンビンと刺激してくれるね!
それじゃあ早速この木を助けてあげよう……。でも足が絡まったって事は根っこが絡まったって事なのかな……?
「……えと、助けるって、君の周りの土でも掘り返したらいいの?」
「えっ!?
あ、あの、普通に引っこ抜いてください……」
普通に……?
引っこ抜く……?
この木を……?
僕が……?
普通に無理に決まってるじゃないか……。
自慢じゃないけど、僕って非力なんだよね。
なんてったって木刀を使ったってメガネのレンズさえ壊せないのに、僕の何倍も大きい木を引っこ抜くだなんて……。
「……子供の僕にはとても出来そうにないんだけど……」
「で、出来ますよ。
だってわたしの方が小さいと思いますから……。
それに子供って、わたしと同じくらいなのに……?」
へぇー、この大きさで僕と同じくらいなんだ。確かに声の感じは子供っぽいような気もしてたんだけど、あれで子供なんだね。
僕の見立てだと樹齢何十年とかいってると思ったんだけどね。
「……君が子供でも無理だよね?
それがわかったところで大きさ変わってないし……。
しょうがないからマークでも呼んで――」
「待って! お願い!
この辺ってクマがでるんです!
お願いわたし置いて行かないで!
一人じゃ怖いんです!」
「……一人じゃ怖いって、何処を見渡しても周りは君のお仲間じゃないか……。
それにクマが怖いって、君ならガリガリされたりよじ登られたりしても平気なんじゃないの……?」
「そ、そんな事されたら死んじゃいます!」
さっき石ぶつけたのは気付かなかったのに、クマにガリガリされたら死んじゃうんだ……。
もう僕にはこの木が強いのか弱いのかわかんないよ。
違うね……、やっぱり僕が非力なだけなんだね。かなり強めに投げた筈なのに気付かれないんだから……。
僕は自分の駄目さ加減に嫌気がさして、少しだけ憂鬱な気分に浸ってしまった。
「……やっぱりマークを呼んでくるよ。非力な僕には荷が重いと思うからね……」
「ま、待ってください!
クマが出たらどうするんですか!?」
「……大丈夫だよ。早めに戻ってくるから。それにそう都合よくクマが出てくるとも限らないし……」
「こ、この返はクマの縄張りなんです!
助けてくださいお願いだからー!」
クマの縄張りって言われても、僕この山に入ってからクマなんて見たことないし、それにこの返がクマの縄張りだって知ってたんならここに来なきゃいいのにって少なからず考えてしまったよ。
ただそれを顔に出すようなヘマはやらかしてないけどね。
でも、あんなに必死にお願いされたらここに置いていきにくいし、ホントにどうしよう。
「それじゃあここで僕も一緒に誰か来ないか待っててあげるから。それが僕に出来るギリギリのところだよ……」
「え、えーっ!?
なんで!?
そんな事してくれなくていいですから普通に助けてください!」
「……君の巨体を引っこ抜く事は僕には無理だからね」
「なにを言うんですか!
わたしそんなに大きくありませんよ!
そんなのやる前から勝手に一人で諦めないでください!」
目の前の木が僕を励ます為なのか、ただもがいている為なのか、激しく揺れ始めた。
激しく揺れている木を見た僕は心に熱い物が込み上げてくるのを感じていた。
どうやら僕は、いつの間にか諦め癖がついてみたいだね。少し前までは僕もこんなんじゃなかったはずだよ。
少し気合いを入れたら僕にも出来るはずだよ。
僕は両手で頬を叩き自分を奮い起こした。
高ぶる気持ちをどうしようかと少し悩んだけど、僕はそのまま木にタックルしてぶつける事を思いついたんだ。
「ド畜生〜っ!
あっつーっ!」
「え!? なに!? なにが? え? なに!?
なにがあったのー!?」
「ど、どすこ〜い!」
僕は全速力で肩口から木にぶつかってみたんだけど、予想以上の衝撃と痛みに一度怯みかけてしまった気持ちをどすこいと言う言葉で必死に誤魔化したんだ。
僕はこの木に弱味を見せちゃいけないとそれは必死に踏ん張ったんだ。
「どすこ〜い……」
「え!? どうして?
なにが!? え!? なにがあったの!? クマが来たの!? イヤ! 助けて! ヤダヤダヤダヤダ! まだ死にたくない!」
木のお化けがうるさくて集中出来ないんだけど、少なからずこの木に傷を負わせる事が出来たみたいだ。
その証拠に目の前の木が激しく揺れ動いているんだ。
僕はこの流れに乗って勢い良くこの木を引っこ抜いてやろうと中腰になり木に抱き付いた。足腰、腕、背中、僕は自分の持てる全ての力を使い、それはもうバックドロップでも決める勢いで力を込めたんだ。
踏ん張り過ぎてなのか木に抱き付いている自分が恥ずかしかったからなのか、僕の顔は遠目から見ても真っ赤になっていたことだろうね。
そうだねよくよく考えてみるとこの木のお化けって、喋っり方とか声の感じが明らかに女の子なんだよね。
そう考えると僕は白昼堂々と女の子に抱き付いている事になるんだ……。
まずいよっ! こんなとこマークに見られたら怒られちゃう!
いくら不可抗力だからって、マークに破廉恥だってなじられちゃうじゃないかっ!
変な噂でも流されたら大変だよ。
僕はとっさに辺りを見渡した。
誰もいなかったんだけど、僕はもうこの木を助けてあげることよりもマークに対する言い訳を、それと同時にこの木のお化けの要望を上手く断る方法を考えていたんだ。
「……はぁ〜、頑張ってみたけどダメだったよ。じゃあまたね」
「えええっ!? まだなにもしてないから!
諦めるの早いから!
お願いだから見捨てないで〜」
僕はついさっきまでは本気でこの木のお化けを助けてあげようと頑張っていたのに、なんにもしてないなんて言われるのは流石の僕でも面白くないよ。
僕が頑張ったって事は何よりもこの僕自信がよく知っているし、証拠だってあるんだ。
ホントは直ぐにでもこの場を離れてしまいたかったんだけど、最後にそれだけバシっと見せつけてから去る事にしたよ。
「僕がなにもしてないだって?
そんな事はあり得ないんだよ。
その証拠に見ろ!
この赤くなった僕の肩を!」
僕は袖口から肩をはだけさせこれでもかと僕の赤らんだ肩を見せつけてやったんだ。
それもポーズまで決めて恥ずかしげもなく見せつけてやったよ。
「見えないところでそんなこと言われたって分かりません!
それに引っこ抜くのになんで肩が赤くなるんですか!?
そんな意味ない嘘吐かないでください!
いくらわたしがとろくたって誰かがわたしのこと持ち上げようとしたら流石に分かります!」
「い、言ったなっ!
僕を嘘吐きだって言ったなっ!
僕程の真人間が嘘吐きだって!?
いいさ、特別に見せてあげるよ。
真正面からこの僕の非力さ加減をなっ!」
全く持って不愉快だよ。僕を嘘吐き呼ばわりするなんてまず助けてもらう時の態度がなってないんだよ。それよりなにより僕が話し掛けていた場所が正面じゃなかったって事がまず不愉快だ。あんなに真剣に話してたのに、もしかしたら僕は背中とかに向かって真剣な顔をしてポーズまで決めていたんだ。
とっても恥ずかしいよ。
僕がいた場所の反対側くらいにぐるりと周りこんだんだ。この木のお化けの面でも拝んでやろうと鼻歌混じりに周り込んだんだ。
それなのに、ああそれなのに、なんでだろう。木の根っこに足を取られている、僕と同じくらいか少し下くらいの女の子が両手を使い足元をもぞもぞしていたんだ。
その女の子が足元をもぞもぞする度に木が揺れているんだ。
よくよく見ると足だけと言わず、手の裾とか色々と引っかかっているみたいなんだ。
本当にただそれだけだったんだ。
僕はマークの悪戯なんじゃないかと、木の動きに一喜一憂していたのに、こんなくだらない悪戯だったなんて……。
僕は……、もっとダイナミックでお金をかけたのが見たかったんだ。
僕にはもう怒ったらいいのか悲しんだらいいのかわかんないんだよ。
……ただ、悔しいんだ。
「……なにしてるの、こんなとこで?」
僕は彼女を発見してからそれはもう一目見ただけでわかるぐらいに不機嫌を気取っていたんだ。
だってそれはしょうがない事なんだ。マークが僕と遊んでくれない事もそうだし、悪戯の犯人だって僕の知らない人だったんだ。
まだ、マークとかジョージとかならそうゆう遊びなんだって理解出来るんだ。
だけど知らない人に悪戯されるなんて僕の事を馬鹿にするのもいい加減にして欲しいもんだね。
だから自然と口調がきつくなっていたとしても少しぐらい許して欲しいよ。
「なにしてるって見て分からないんですか!?」
彼女もまた少し口調をきつく、僕に言い放ったんだ。
彼女の口調からは焦りと少しの侮辱みたいな物を感じるよ。なんでそんなに察しが悪いんだ、とでも言いたげにね。
全く持って理不尽だと思ったよ。
僕は悪くないっ!
って声を大にして言いたいよ。
ただ僕はこんな事で怒ったりはしないよ。
こんな時こそ冷静にならないと、また眼鏡お姉さんの時みたいに失敗してしまう。
紳士な僕は当然の選択として気の利いた事でも言ってあげようと思った訳なんだよ。
ただ僕は実際に紳士な人がこういう時になんて言えばいいのか知らなかったんだ。
そこで僕はマークならなんて言うだろうと、マークならどんな気の利いた事を言ってくれるだろうと考えたんだ。
マークを一言で説明すると紳士らしいんだ。だから僕も当然のように紳士を名乗ってたんだけど、紳士って具体的によくわかんないし、マークの真似をしてたら紳士なんだろうって勝手に解釈する事で自分を納得させないと頭の中の妖精さんが非行に走ってしまう。そんな気がする。
ただ問題なのがもしかしたらマークは自分の事を紳士じゃなくて戦士と言っていたのではないか?
って思えて来たんだ。
自分の事を紳士と言ってるのはまだ許せるけど、自分の事を戦士と言っていたならば、マークって可哀想な人に見えなくもないんじゃないのか?
僕がそう悩んでいる隙に頭の中の妖精さんは既に手遅れな状態になっていた……。
続く




