闘え マクギブソン! 決着編
無い、無い、何処にも……、なんで、なんで無いんだ。なんで僕が大事にしていた角材が無いんだよっ!
幾ら探したって見つからないんだ……。
あんなに大事にしてたのに……。
あんなに僕の手に馴染んでいたのに……。
僕の目の前で笑っている眼鏡の人を倒す為に色々と画策していたんだ。
その時に僕はあの子を、あの角材を選んだ筈なんだ。
なのに、どうして僕の近くにないんだ……。
僕はまだ恐怖に身体を縮ませて居たんだけど、この恐怖を少しでも紛らわそうと角材を探してるんだ。
例え角材攻撃が効かないとしても、自分を安心させる為に何か武器になる物を手に持っていたかったんだ。
このまま手ぶらで居ると、恐怖の余りに下呂ってしまいそうで……。
「……マナブ君」
ただ名前を呼ばれただけなのに金縛りにあったみたいに身体が動かなくなってしまうんだ。一度身に巣くってしまった恐怖は簡単には取り除く事は出来ないんだ。
仕様がないから明日にでもカウンセラーの御厄介になるよ。
そんな事よりも身体が動かないんだ。こんな時せめて角材があれば……。
「……そんなに怖がらなくても良いのよ……」
僕の恐怖対象、その最たる人からそんな事言われても余計に怖いんだけなんだ。
僕を怖がらせたくなかったら、僕に近づいて来ないでよ……。
そう声を大にして叫びたかったけど、そんな事を言ったらまた叩かれてしまいそうで怖いんだ。
決して叩かれる事だけが怖い訳じゃないんだよ。
それよりも僕がビビッちゃってた事を皆にバラされてしまう事の方がどうしようもなく怖いんだ。
僕は皆の憧れ、スーパーなヒーローのアクションスターに成らなきゃいけないのに、僕が叩かれてビビッてたなんて言われると僕のイメージって言う物が大幅に下がってしまう。その事で僕に付き纏って僕の夢の実現を邪魔されるかも知れない。そう考えてしまうだけで今夜は眠れそうにないよ。
「……まずはお友達から始まめましょう?」
なんでっ!
どうしてっ!
散々僕に酷い事したくせに今更お友達だって!?
そんなの虫が良すぎるよ……。
「……だから怖がらなくても良いのよ?」
「……どうして?」
怖くってまだ相手の顔を見る事は出来ないけど、俯きながらもなんとか返事を返す事が出来た。
「……私がマナブ君とお友達に成りたいからよ。それじゃ駄目かしら?」
怖くってまだ相手の顔を見る事は出来ない。
「……私がマナブ君とお友達に成りたいからよ。それじゃ駄目なのかしらっ!?」
それでも怖くってまだ相手の顔を見る事は出来ない。
「……私がぁっ! マナブ君とぉっ! お友達に成ってやるって言ってるのよぉっ! 良いから顔を上げてこっちを見なさいぃぃぃっ! キィィィィィッ!」
僕は余りの禍禍しさに両手で耳を塞ぎ、まるで念仏でも唱えているかのようにただごめんなさい、ごめんなさい、と言い続けた。
それでも耳に残る奇声を打ち払う事は出来なかったけど、何もしてないと本当に胃の内容物を床にぶち撒けてしまいそうで、実を言うと今直ぐにでも気絶してしまいたかったんだ。
僕はこの怖いと思う気持ちを紛らす為に両目をきつく閉じて、なるべく楽しかった事を思い出そうと思ったんだ。
もう少しで頭の中が幸せで一杯になると、もう僕は何も怖くないそう思い込もうとした矢先に誰かが僕を抱締めて来た感触があったんだ。何事か? と思った僕は直ぐに目を見開いたら、眼鏡の人が凄い形相で僕にしがみ着いて居たんだ。
「……可哀想なマナブ君。こんなにブルっちゃって。大丈夫よ、お姉さんが付いてあげてるんだから何も怖い事なんて無いのよ。うふふふふふ」
僕は余りのおぞましさに少しの間だけ身体が硬直してたみたいなんだ。それをどう受け取ったのか眼鏡の人が僕の頭を眼鏡の人の胸元に押し付けながら、僕の背中を撫で廻して来たんだ。
喰われるっ! そう思った僕は眼鏡の人を押し返そうと身体の動かせる場所の全部を使って必死に抵抗したんだ。
「ヤダよっ! 止めてよっ! 誰かっ! マークっ! マークっ! 助けてっ!」
「……大丈夫よマナブ君。そんなに暴れないで、何も取って喰おうって訳じゃないのよ。これはハグよ、ハグなのよ。」
そんな事を言われても僕は抵抗を止めなかったんだ。
でも僕の抵抗は眼鏡の人のハグ、と言うよりはさば折りに近い物に直ぐに潰されてしまったんだ。
まるで万力のように力強い締め付けに僕の背骨は早々にギブアップを宣言してしまったんだ。
「フゥ〜……。漸く落ち着いてくれたみたいね」
「……ご、ごめんなさいぃぃ」
僕の謝罪の言葉を聴いてやっと締め付けを緩くしてくれたんだ。
僕は乱れた呼吸を整え、締め付けが最大限に緩まったのを見計らってまた抵抗を再開しようと決めた。
僕は相手が油断した隙をついて身体を引き剥がす積もりだったんだけど、相手の方が一枚上手だったんだ。
僕が抵抗を始めるより先に締め付けを強くして来たんだ。
「うふ、うふふふ、アハハハハハッ! ……これで、これでもうマナブ君は私のお友達よっ!」
余りの強引なやり方に僕は呆気に取られてしまい、抵抗する機会を自分から手放してしまったんだ。
「マナブ君嬉しい? 嬉しいんでしょ? だったら嬉しいって言いなさいっ!」
もう僕には抵抗する気力なんて残ってなかったんだ。それなのに締め付けの力強さは緩まる処かより一層に強力な物に変わっていったんだ。
「さぁマナブ君嬉しいって言うのよ! マナブ君が嬉しいって言うまで離してあげないんですからねっ!」
「……る、しぃ」
僕は余りの締め付けの強さにそう口するのがやっとだった。
「……聴いたわよっ! 今嬉しいって、確かに聴いたわよっ! 私聴いちゃったんだからねっ! もう取り消しだって言っても遅いわよっ! ククククククッ」
まるで僕の言質を取ったと許にぬか喜びし始めたんだ。そのお陰で僕の事を離してくれたから別に良いんだけど、僕は苦しいって言いたかったんだよ。
なんで僕のお友達に成りたいのか解らないんだけど、お友達に成る事で僕に酷い事をしなくなるって言うならこれで良いのかも知れない。
「さぁマナブ君。私とお友達に成った、此処までは良いわね?」
僕はもう酷い事をされたくなかったから、頷く事で返事をした。
僕が頷いたのを見て取った眼鏡の人も気を良くしたのか僕に頷き返してた。
「それじゃあマナブ君。次は私の事を紹介をする練習をするわよ」
「な、なんでそんな事するの……?」
今まで眼鏡の人に気を使っていた僕は折角お友達に成ったって言うんだから早速、気安い感じで返事をしたよ。
「……何を言っているのマナブ君? 私がお友達に成ってやったって言うのよっ! そしたら自慢したいに決まってるでしょ?」
僕はゆっくりと首を横に振った。
「……マナブ君は私がお友達に成った事が自慢したいの、理解出来た?」
眼鏡の人が真剣な顔をしながら僕の胸ぐらを掴んで僕の身体を持ち上げて来たんだ。
どうやら僕は答えを間違ってたみたいなんだ。僕は完全な無抵抗主義に成ってしまったから、ここは僕が譲って上げる事にしたよ。
僕は横に振っていた首を縦に向きを変える事で、僕が無抵抗主義だと言う事を伝えた。
「……それじゃあマナブ君、まず私をどう紹介するかやってみなさい」
僕はこう見えても一応役者志望なんだよ。だからこれ位は簡単だと余裕の表情で軽く頷いてみせた。
「こっちの人は僕のお友達の眼鏡の人だよ」
僕は一仕事やり終えたと笑顔をみせたんだけど、眼鏡の人は何が気に入らないのか顎先を指で擦りながら何やら思案顔で佇んで居るんだ。
「……マナブ君、眼鏡の人って……。一体どうしちゃったの? いつもみたいに呼んで頂戴」
紹介しろって言うから僕が一番解りやすい形で言って上げたのに……。
まぁ僕がここで愚図ってても仕様がないからやる事はやるけど。
「……えっと、ここに居る人は僕のお友達の眼鏡お姉さんだよ」
僕は自分でも巧くいったと思ったよ。だからこれ以上は無いと言わん許に胸を張ってみせたよ。
「……ちょっと待ってマナブ君。眼鏡お姉さんって……、私の事を何時もそんな風に言ってたの?」
「……えっ? だって僕達ってお友達に成ったんでしょ? だから気安い感じに変えたんだよ」
僕の何が気に入らないって言うのか理解に苦しむ処なんだけど、僕は一人の役者として難しい要求にも全て応えて魅せる積もりだよ。
なんてったって毎日を努力の精神で精進している僕の探求心は収まる事を知らないんだ。
「私と言ったら眼鏡の事を連想させてしまうのは仕方のない事だけれども……。まぁ、呼び方はそれで良いわ。それからなんだけど、もう少し私の魅力を説明してくれても良いんじゃない?」
う〜ん、確かに紹介するって事は初対面って事だもんね。それならその人の人となりって物を説明しといた方が馴染みやすいかもね。
成程! って感じで納得出来たよ。こういった事の一つ一つの出来事が芸の肥やしに成って行くんだって感じがするよ。
ビビビッ! って感じがね……。
僕は紹介の練習を再開する前に今迄のやるせない気持ちを切り替える手段として一つ咳払いしてみせた。
「……この人は僕のお友達の眼鏡お姉さんって言うんだよ。眼鏡お姉さんって、僕なんかじゃその価値がまるで理解出来ない位にとっても良い眼鏡を掛けてるんだ。凄いでしょ!」
完璧だ……。僕は余りの出来の良さに今迄の物は何だったんだと思ってしまう程に今の自分に満足して悦に浸って居た。
僕は更なる高みに登る事が出来た。その事で僕は眼鏡に感謝してるんだ。眼鏡の人、じゃなくて眼鏡その物になんだけどね。僕はもう眼鏡に足を向けて眠れないよ。
ハッハッハッ! 冗談だよ。そんな事したら僕の寝る場所が無くなってしまうもんね。
「……マナブ君?」
「んふふ、僕って凄いでしょ?」
僕は鼻を高くしてもっと誉めろと言わん許に胸を張ったんだけど、眼鏡の人は一向に誉めてはくれないんだ。それ処か眉間に皺を寄せて何やら難しい顔をして僕を見てるんだ。
「……マナブ君、私の眼鏡がスンバラしぃって事は理解出来たわ。私の眼鏡が高価な物だって事が良く伝わって来てそれはそれで嬉しいんだけどほら、解るでしょ? 何を遠慮してるのか私には解らないんだけど、もっと私自身の良い処を言ってくれても何も問題なんて無いのよ」
今度は僕の顔が難しい物に変わってしまったよ。
「眼鏡お姉さんの良い処って言われても……。僕、眼鏡お姉さんの事って殆ど良く知らないんだけど……」
「そんな訳無いでしょっ! 私の事を調べる時間なんて一杯あったじゃないっ! 何でも良いから私を誉めなさいっ!」
なんで僕が眼鏡お姉さんの事を調べてるって前提で話が進んでしまってるんだけど、僕そんな事して無いし……。
それでも眼鏡お姉さんのどこぞを誉めないといけないって事は十分に理解出来たよ。
「う〜ん……」
僕は余りの難しさに頭を抱えて考えてしまったよ。
「……マナブ君、そんなに深く考える必要なんて無いのよ。別に一つしか言っちゃ駄目って訳じゃ無いんだから。良いから私の美点で気付いた事をポンポン言って頂戴」
僕が気付いた眼鏡お姉さんの良い処?
「……えっと、何時如何なる時でもすこぶる貪欲だ!」
「惜しいっ! って違うでしょっ!? それって誉めてるの?」
僕は爽やかさと言う物を意識しながら頷いた。
「っ! 次よっ!次ぃぃぃっ!」
ホントに貪欲な人だと思いながら頷いた。
「眼鏡の趣味が良い!」
眼鏡お姉さんは目を暝り一頻り頷いた後に懐疑的な眼差しを僕に向けてきた。
「……それは私の事を誉めてるの? それとも眼鏡の事を誉めてるの?」
「えっ? 眼鏡お姉さんの事だよ」
眼鏡お姉さんは満足したのかまた頷き始めた。
「そうね、私の方が眼鏡と言う単語に敏感に成ってたみたいだわ……。言うなれば私のセンスが良いって事だもね? でも次からは私に眼鏡を意識させない様に誉めなさい」
色々と細かいなと思いながらもそんな事はおくびにも出さずに頷いてみせる。
「常に前向きだ! と思う……」
僕は言ってしまってから後悔したよ。だって眼鏡お姉さんは前向きと言うよりもただ図々しいだけって感じがするんだもん。
それでも眼鏡お姉さんが余りにも嬉しそうな顔をしてたもんだからさっきの取り消しって言えなかったんだ。
「……マナブ君、その調子でどんどん私を誉めなさいっ!」
僕は今迄の人生でこんなに人を誉めようとした事なんて無かったから、人を誉める事がこんなに難しいって初めて気付く事が出来たんだ。何事も経験だって言うけれど、ホントにその通りだね。これで僕は突然に自分の事を誉めろと言う人が来てもとっさに誉めてあげる事が出来る様に成ったと思うよ。
僕はとても貴重な経験が出来たと感謝の気持ちで頷いた。
「……え〜っとね〜、眼鏡お姉さんは達筆だ!」
「ちょっと待ってマナブ君っ!? 私は別に達筆じゃないわよ? それは私が細部にまで細やかな気配りが行き届いているみたいな気立ての良さそうな顔をしていると、そう受け取って良いのかしら?」
ホントに頭の中がお目出度い人だね。僕は別に人の顔を見て達筆だなんて言ったりしないよ。だから慌てて首を横に振ったんだ。
「違うよ。僕はマスヨお姉さんがそう言ってたのを覚えてただけだよ。眼鏡お姉さんは綺麗な字を書くんだってね」
「マスヨが!? 成程ね、確かにマスヨから見たら私の字は綺麗に見えているのかもしれないわね……。マスヨの字ってまるで小学生が書いたんじゃないかしらって思ってしまうくらい酷い字なんですもの……。だから私が達筆だって言うのは無しにして頂戴」
……マスヨお姉さんは僕に嘘吐いてたんだ。まぁ別にマスヨお姉さんの話なんて集中して聞いてなかったんだけど、と言うよりもマスヨお姉さんが役に立つからって聞いてもいない事を教えてくれてたんだ。
「処でマナブ君。私の知る限りではマナブ君とマスヨって学校での時の事しか話してる処を見た事が無かったんだけど、いつの間にマスヨと仲良しに成ったのかしら?」
僕はコレッぽっちもマスヨお姉さんと仲良く成った覚えなんて無いんだけど、そう言う風に見えちゃうなら気を付けとこう。
眼鏡お姉さんとお友達だってだけで僕の手に余ってるのに、その上マスヨお姉さんと仲良しだなんて言われたら僕にはもうどうする事も出来なくなってしまうよ。
知らない人に指差されたり、ヒソヒソと影で笑い者にされたりとか、それ位で済めばまだ我慢出来るんだけど一番最悪な場合は僕が世界的なアクションスターに成った時に週刊誌とかに僕の交友関係とかを調べられたりしてその時に眼鏡お姉さんの事とかマスヨお姉さんの事とかが書かれたりしちゃって最後にはもう世界的なアクションスターとして再起不能にされちゃったりするんだよ。
我ながら空恐ろしい事を考えてしまった。
僕の妄想を掻き消す手段として慌てて首を振り、僕にとっての不幸の芽を摘む為なら何だってやってやるっ! そう腹を据える。
「……僕はマスヨお姉さんとなんて仲良く成った覚えは無いよ。僕がジョージのお見舞いに行った時に偶然マスヨお姉さんが病院で情報収集してたみたいなんだ。その時にちょっと顔を合わただけだよ……。僕は見なかった振りをしようと思ったのに……、話掛けられちゃったんだから仕様がないじゃないかっ!」
眼鏡お姉さんは僕の話を胸に手を置きどこか悲痛な面持ちで上の方向を見ながら聴いてたんだ。
「……そう。確かに私がマスヨに情報収集を頼んでたから解らない話ではないわね。でもねマナブ君、それじゃあもうあなたはマスヨと仲良しよっ!」
「……えぇぇぇっ!?」
そりゃあもう驚いたよ。宝くじが当ったとか言われるよりも驚きだよ。
「マスヨはあれでなかなか用心深いのよ。それなのにマナブ君に話掛けて来たなんて、もう既にマスヨに気に入られてたみたいね。それにマナブ君が何を言った処で私とお友達に成ったんだら必然的にマスヨともお友達に成ったって事よ。……だってマスヨは私の親友なんですからね」
眼鏡お姉さんがにやついた顔して僕を見下してくるんだ。
僕の知らぬ間に話がどんどんと悪い方向に流れて行ってしまったみたいなんだよ。少し気を許したら直ぐこれだ。
「違うよっ! 眼鏡お姉さんとはお友達に成ったけど、マスヨお姉さんとはお友達に成った覚えは無いよっ! そんなのいい所でも友達の友達ってやつじゃないかっ!」
「駄目よ! マナブ君とマスヨはお友達に成ったのよ! マナブ君……、マスヨの何が気に入らないって言うの?」
眼鏡お姉さんが返す刀で僕に喰らい付いてきたんだけど、マスヨお姉さんの何処を気に入れって言うんだよ……。
「取り敢えず髪形かな……」
「マスヨは私の眼から見ても良い女よ……、私の次くらいにね。そうね、私が男だったら放っとかないでしょうね」
眼鏡お姉さんは僕を無視してマスヨお姉さんの事を嬉しそうに褒めちぎるんだ。
眼鏡お姉さんとマスヨお姉さんって仲悪いんじゃないかって思ってたのに。親友って言える位に仲良しさんって事なんだね。
「……そんなに言うなら、眼鏡お姉さんがマスヨお姉さんと結婚してしまえば良いじゃないかっ! 二人で勝手にヨロシクやってたら良いじゃないかっ! それから宇宙の彼方に消えてしまえば良いじゃないか……」
僕はつい本音も溢してしまったんだけど、眼鏡お姉さんはそんな事なんて少しも意に介したりしないんだ。
「結婚……? そうねマナブ君、マスヨと結婚なさい!」
「いっ、嫌だよっ! 絶対ヤダ! 小学生になんて事を言うだよ! 小学生の僕にまだ結婚なんて出来る訳ないじゃないかっ!」
「駄目よ! もう文句は受付ませ〜ん。残念ね〜この話はこれで終わり。良いから早く私を誉め称えなさい!」
なんてズルイんだ、身体ばっかしデカイくせに僕よりも子供みたいな事を言うんだね。
いつの間にやら僕の頭の中から綺麗サッパリ無抵抗主義って考えが消え失せてしまってたよ。
「……そうだね。眼鏡お姉さんよりもマスヨお姉さんの方がまだ優しいもんね。それにマスヨお姉さんって物知りで活動的でしかもカッチョイィ髪形してるもんね。やっぱり結婚するなら眼鏡お姉さんよりもマスヨお姉さんの方が断然お得って事だよね?」
僕はもう眼鏡お姉さんをギャフンと言わせる事に手段は選ばないよ……。
それが僕としても不本意な事だとしてもね……。
「ちょっとっ!? 待ちなさいマナブ君……。私よりマスヨの方が良いですって……? マナブ君はどうやら勘違いしているみたいね。そんなの私の方が断然良いに決まってるでしょ?」
「……えっ!? どの辺が……?」
眼鏡お姉さんは言葉だけ聞くと優しく言い聞かせる様に言ってるんだけど、その姿は拳を握り締め肩を震わせてながら禍禍しい瘴気の様な物を漂わてるんだよ。
これ以上に刺激してしまうと眼鏡お姉さんにグーで殴られてしまいそうなんだけど、今更引き返す事なんて出来ないし、僕はもう突き進むしか道は無いんだ。
「どの辺って? まず私とマスヨを比べるって前提の時点で間違ってるのよ? マスヨとなんて……、烏滸がましい事この上ないのよっ! マスヨが優しい!? 小虫を素手で握り潰すようなマスヨが!? マスヨが物知り!? あんな成績しかとれないマスヨが!? マスヨの頭がカッチョイィ!? 鳥の巣みたいな頭のマスヨが!? マスヨが? マスヨが? マァァァスゥゥゥヨォォォがぁぁぁぁぁっ!? 烏滸がましいぃぃぃぃぃわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
さっきまであんなに仲良しさんを気取ってたのにこんなに取り乱すなんて……。
「……クスクス、うふふふふふふふ。その点私は完璧よ。自分で言うのも何なんだけど、知らない人にも親切でどことなく気品に満ち溢れてるし成績だってすこぶる良くて仕事も速い、その上に素敵な眼鏡を掛けてるときたらもう結婚するしかないわね」
眼鏡お姉さんは自画自賛して一人で勝手に悦に浸っているんだ。
ここまで来れば後は簡単だよ。眼鏡お姉さんが勝手に盛り上がってる時に適当な処で話掛けるだけだもんね。
「……眼鏡お姉さん?」
「どうかしたかしらマナブ君? うっふっふっふっふっふっ」
「……やっぱりマスヨお姉さんってダメダメだったんだ? 僕そんなダメダメな人と結婚なんてしたくないよ。だからマスヨお姉さんと結婚って話は無しだよね?」
眼鏡お姉さんは怪しげに笑いながらも一応は頷いてくれたんだ。これで僕も一安心だよ。
「……そう、そうだったのね。マナブ君ったらさっきから私に意地悪な事ばっかり言って、小さい子が好きな子に意地悪してしまうってこういう事だったのね。お姉さんこんな経験した事なかったから全く気付けなかったんだけどね。そう、マナブ君は私と結婚したかったのね? でも、ご免なさい。私はマナブ君と結婚してあげる事は出来ないの、でも安心してマナブ君。マナブ君なら特別に愛人にしてあげるから、それで我慢してね?」
眼鏡お姉さんってどんな思考回路してるんだろうか。あんなのには成りたくないんだけど、あんなに頭がおかしかったら毎日がお祭りみたいで楽しいのかも知れないね。
フゥ〜、ここで眼鏡お姉さんに言い返すのは簡単なんだけど、そんな事してしまうとまた不毛な言い争いになる事だろうから、ここは僕が大人に成って話題を変える事にするよ。
「……ねぇ、眼鏡お姉さん。ところでなんだけれど、僕の角材を知らないかな? 実を言うとさっきから探してるんだけど全然見つからないんだ」
話題を変えるのが目的ではあるんだけど、角材を探してるのも本当の事なんだよ。無くした場所からは離れてないからここいら返に在ると思うんだけど……。
「……角材? ああ、あれね? あの角材には遠い世界に行ってもらったわ……」
「……遠い世界に行ってもらったって、具体的にはどうしたの……? 」
「それはね……」
眼鏡お姉さんは足下に落ちてる木製バットを拾い、それの両端を掴んで良く見える様に僕の前に突き出して来たんだ。
僕が探してるのは角材なんだけど、眼鏡お姉さんには角材とバットの違いも解らないのかな?
「こうしたのよぉっ!」
言うが早いか、眼鏡お姉さんは嬉しそうに木製のバットを膝でへし折り、折れてしまったバットを遠くの方に投げ飛ばしてしまったんだ……。
「うふふふふふ。アッハッハッハッハッハッ!」
何が可笑しいのか眼鏡お姉さんは腹を抱えて笑っているんだ……。
僕は余りにも衝撃的な事に茫然と立ち尽くし、何も考える事の出来ない状態に陥ってしまったんだ。それでもなんでこんなに酷い事をしたのか、それだけは知りたかった。
「なんで、なんで……、どうしてそんな事……」
「……どうしてですかって? 私はマナブ君の為にあの角材を粉微塵にしたのよ? だってそうでしょ? あの角材はマナブ君に悪い影響しか与えないのよ? だから感謝される覚えは在るけどそんな責める様な眼で見られる覚えはないわっ!」
責めてるって!?
僕が眼鏡お姉さんを?
そうだよ。責めてるんだよ。怒ってるんだよっ!
僕の中から沸々と怒りの感情が湧き上がって来るのがハッキリと自覚出来るよ。
「……ったんだ」
「何よ、言いたい事があるならハッキリ言ってしまいなさい」
「大事な……、大事な友達だったんだぞぉぉぉぉぉぉぉっ!」
眼鏡お姉さんは、僕の魂の叫びを聞いても怯む処か逆に僕を鼻で笑い、僕の事を怯ませるんだ。
「……角材がお友達ですって?」
眼鏡お姉さんの何処を見て取っても僕を馬鹿にしてるのは確実なんだ。だけど僕はこんな事で負ける訳にはいかない……。
「六法全書の次くらいになっ!」
「アハハハハハハッ!」
僕は怒ってるのに眼鏡お姉さんは遠慮も無しで大口開けて笑う事を止めないんだ。
「笑うな! 笑うなっ笑うなっ笑うなっ笑うなっ笑うなぁぁぁぁぁっ!」
「うふふ、これが笑わずにいられますかっ! マナブ君たらホントに間抜けなのね? そんなのボールは友達って言ってる奴より間抜けなのよ! うっふっふっふっ」
「僕は友達を蹴り飛ばしたりしないよっ!」
……解ったよ。そっちがその気ならこっちにだって考えが在るよ。僕は奥歯を噛み締めながらもそう考えた。
「もういいよ、眼鏡お姉さんとは絶交だっ!」
「ちょ、ちょっとマナブ君っ! 駄目よっ! 言い過ぎよっ! そんなの取り消しよっ!」
「ダメだよ……。謝ったってもう遅いからね」
予想以上に効果を発揮したんだけど、僕はこれっぽっちで済ませてあげる積もりなんて更々ないよ。寧ろこれはチャンスなんだ。目に見えてうろたえてる眼鏡お姉さんは酷く隙だらけに見えるんだ。
僕は眼鏡お姉さんがうろたえている隙に手近に在った木刀を拾った。
こいつは、こいつはなんて……、なんて握り心地が良いんだ。この握り易さは角材の比じゃないんだよ。こいつは正に僕の為の木刀と言っても過言ではないね。
先端部分に少し赤黒い染みみたいな物が付着しているんだけど、そんな事を気にしていたらこの世の中を生きてはいけないよ。
「あっ! 眼鏡お姉さんのおへその辺りにギャランドゥがっ!」
「なんですってっ!?」
眼鏡お姉さんはお辞儀をしてるみたいに僕の方に頭を差し出してるんだ。これで準備は完璧だよ。
僕はもう失敗を恐れていないんだ。もし失敗してしまっても僕は子供だからね。眼鏡お姉さんも子供のちょっとした悪戯としか受け取らないと思うよ。
「くたばれぇぇぇっ!」
僕の渾身の一撃が確実に眼鏡お姉さんの顔面を捉えた。流石は木刀、角材とは訳が違うのだよ……。
僕は眼鏡お姉さんの後頭部を狙ってたんだけど、眼鏡お姉さんは僕の掛け声に反応したのか後頭部ではなく顔面に直撃してしまったんだ。
確実に顔面を捉えた筈なんだ。なのに……。
「メ、メガネで受け止めている……!?」
次の瞬間、僕の頬に激しい衝撃が走り抜けた。
「マナブ君、今のは仲直りの握手よ」
余りの衝撃に尻餅を着いてしまった僕に、眼鏡お姉さんはそう吐き捨てていた。
「な、なんで、どうして平気なの?」
叩かれたのに仲直りしている……。そんな事よりもメガネにすら傷一つ付ける事なく何事も無かったかの様に普通に佇んでいる眼鏡お姉さんの方が不思議でならなかった。
僕は決して非力では無いと思うんだけど……。
幾ら僕が小学生だからって道具を使えばガラスぐらいなら割れると思ってたんだけど、メガネのレンズすら割れないのは絶対におかしい……。
「平気っ!? 平気な訳ないでしょっ! 絶交なんて言われて……、お姉さんとぉぉぉっても傷ついたのよぉぉぉっ!?
……言っときますけど、また絶交なんて言っても直ぐに仲直りさせてもらうんですからねっ!」
眼鏡お姉さんは右手を構えて僕を威嚇しているんだけど、僕は既に絶交は諦めてるよ。
寧ろ僕の為に役立ってもらう事を考えた方が堅実なやり方だと気付いてしまったからね。
ただ僕は眼鏡お姉さんが心理的に傷ついたとか聴きたかった訳じゃなくて、肉体的になんで無事なのかを聴きたかったんだけどね。
「……絶交はもう言わないから、だから、なんで怪我してないか聴きたいんだけど」
「何を言ってるの! 私の純情だった心はもうぐちゃぐちゃのにちょにちょに磨り潰されてしまったのよ! トラウマよ、トラウマ物なのよ!」
「……僕の方がね」
仲直りしたって言うのに何時までもネチネチと言わないで欲しいよ。
仲直りしたんじゃなかったの?
その後もネチネチと言われた上に僕の木刀まで取り上げられてしまったんだけど、漸く眼鏡お姉さんが言う処のお仕置き部屋に到着したんだ。と言うよりも眼鏡お姉さんに叩かれたりした場所からホントに目と鼻の先だったんだ……。
「あの……、何なのこれは……?」
僕達が居るのは、この広い建物の中のホントに端っこの方で、そこに所狭しと上半身裸の男の人達が大きな十字架に縛り付けられているんだ。
その中でも気になったのが男の人達の眼が死んでいる事、布団が敷いて在る事、その中でも一番気になったのが子供用とも言える小さな十字架が置いて在る事だよ……。
「あの小さな十字架は僕に使う訳じゃないよね?」
僕にとっては死活問題なんだ……、本当に……。
あんなに眼が死んでいる人達を見せられては嫌な事を考えてしまうってもんだよ。絶対にあんな風には成りたくない……。
「ああ、それね? それはもう良いの。それを使う前にマナブ君とお友達に成れたからね……」
「あははは、それなら僕は大丈夫なんだ……」
眼鏡お姉さんとお友達に成れて良かったと、ここに来て初めて思う事が出来た。
「大丈夫? そんな訳ないでしょ! マナブ君にはたっぷりとお仕置きを――」
「待った! ちょっと待ってよ。僕達はお友達でしょ? だったらお仕置きなんて無しだよ! 絶対反対、断固拒否だよ!」
「……それもそうね。お友達ですものね? だったらマナブ君にはお仕置きの手伝いをしてもらおうかしら? なんてったってお友達なんですものね……」
手伝うって何をするんだろうか?
何故だか犯罪の匂いがプンプンするんだ。
それは良いんだけど、ホントは良くはないんだけど、眼鏡お姉さんのお仕置きと言う言葉に、縛られてる男の人達が目に見えて反応したんだ。
「嫌だぁぁぁぁぁっ!」
「助けてくれぇぇぇ!」
「俺達もお友達に成るから! お仕置きだけはやだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
男の人達は涙と涎と少量の鼻水をだらしなく垂れ流しながら、眼鏡お姉さんに哀願してるんだ。だけど眼鏡お姉さんは男の人達を鼻であしらい、汚い物でも見るみたいに冷たい眼差しで睨み付け、背中から取り出したムチを一度だけ唸らせて男の人達を黙らせたんだ。
「……お友達? あなた達みたいなゴミ虫なんかと? 私を馬鹿にしてるのっ!? あなた達とお友達に成っても私にメリットなんて在る訳ないでしょうがぁぁぁっ!」
眼鏡お姉さんは男の人達をそう罵ると、奇声とムチで一人一人を震え上げさせていた。
ムチは当たるか当たらないかと言う微妙な処で戻してるんだけど、何人かの人達には普通に当たってたよ……。そのせいなのか解らないんだけど、気絶してしまった人もいるんだ。
男の人達には、よ〜っく見なくても解ってしまうぐらいに綺麗なミミズ腫れが見て取れてしまったよ。
「なっさけないっ! あなた達、少しはマナブ君を見習いなさい!」
眼鏡お姉さんは気絶してしまった人をムチで叩き起こし、そう説教してるんだけど、そのうち僕に見本を見せろとか言いだしかねないので、眼鏡お姉さんに解る様に首を横に振って見せた。
「……そう、マナブ君もやってみたいのね?」
僕の思いはこれっぽっちも眼鏡お姉さんに伝わっていなかった……。
僕は男の人達を見せられた時から、なるべくこの場所に指紋を残さない様に細心の注意を払っていたのに……、だのにさっきまで使かわれていた凶器が僕に手渡されてしまって……。
一番に気を付けなければいけない凶器に僕の指紋が……。
「……どうしたのマナブ君? さっさとやりなさい!」
「いやっ、あのっ、そのムチが……、そう! ムチが汗ばんでて滑るんだよ!」
僕はムチに付いてしまった指紋を、自分の服で一生懸命に拭っていたんだけど、眼鏡お姉さんに怪しまれてしまったんだ。だけど僕は機転を利かせる事で何とか回避出来たよ。
「何よっ! 私の手がベト付いてるとでも言いたいのっ!? マナブ君はまた、私の心に傷を付けたいのっ!? こんな人前で私の事を辱めて! マナブ君はサドね、サドなのねっ!? キィィィィィ、恥ずかしいっ! マナブ君の変態! 変態よ! 変態なのよぉぉぉっ! こうなったらお仕置きよぉぉぉぉぉっ!」
「ち、違うよ! 僕の手だよ! 眼鏡お姉さんの手はスベスベだから、大丈夫だから、お願いだから落ち着いてよ……」
ホントは眼鏡お姉さんの手がスベスベかどうかなんて解らないんだけど、こうでも言わないとお仕置きされてしまう。それに僕は指紋を拭ってただけで別にムチがベト付いてた訳じゃないし。
「ちょっ、ちょっとマナブ君、確かに私は毎日のお手入れが行き届いていて手だけと言わずスベスベなんだけど、何もこんな人前で、ちょっと待って、心の準備が――」
眼鏡お姉さんって子供の僕の目から見ても情緒不安定で、とっても危険な匂いがプンプンするんだよ。だからこそ怖いと感じてしまうんだ。だっていつ手の平を返して、お仕置きだなんて言い出すか解らないんだもの。
でも大丈夫、眼鏡お姉さんの対処の仕方は解ってるから。ここは一つ、眼鏡お姉さんを誉めて誉めて誉め称えて誤魔化してしまおう、と考えているんだ。
「流石だね。眼鏡お姉さんのメガネは今日も輝いているよ!」
「えっ? やっぱり解っちゃう? そうなのよ。私のメガネはピカ一なのよ! 至宝のメガネなのよ!」
僕は更に拍手で眼鏡お姉さんの気分を持ち上げて行く。
「ブラボーメガネ!」
「うふふ、うふふふふふっ」
僕の煽てに眼鏡お姉さんもご満悦なんだ。
これで僕も一安心だよ。
「……」
「……」
「……」
僕の手腕に周りの人達も唖然としてるんだけど、それから自然と僕に尊敬の眼差しが降り注いで来たから僕は笑顔で応える。
僕の微笑みに魅了された人達が、僕の偉業に皆が便乗し様と期待に眼を輝かせ、口々に眼鏡お姉さんを誉め始めんだ。
「メ、メガネー!」
「メ、メガネ最高!」
「あんたのメガネは日本一だ〜!」
この空間が熱狂的な迄に野太い声のメガネコールで埋め尽くされて行くんだ。
「……お黙りなさい!
あなた達みたいなカス共に私のメガネの素晴らしさが解る訳ないでしょ! 私のメガネはそんなにも底が浅いって……? 馬鹿にしないでっ!
お仕置きよお仕置き! お仕置キィィィィィィィィィィィィッ!」
「あわわわっ!? ちょっと待って! 落ち着いて! 眼鏡お姉さんのメガネは日本一なんかじゃないよねっ? 世界一、いや、宇宙一だよ!」
「うふふふ、宇宙一? うふふふ、そうなの? 私のメガネは宇宙一? 嫌だわマナブ君たらっ、少し言い過ぎよ!」
なんで僕が尻拭いみたいな事をしなきゃならないんだよ。だからって放っておくと僕に被害が飛火してきそうだし……。
僕は決してここに居る怯えてしまった人達を可哀想とは思わないよ。だって僕の手間を増やしてくれたんだもん。
「……そうよね、マナブ君。マナブ君は私のお友達よね? だったら私の事を馬鹿にした奴らにお仕置きして! そう、そのムチでっ!」
丁度良く僕が持っていたムチ、と言うよりも押し付けられた物なんだけど、これを使って友人としての義理を果たせと言う事らしいんだ。
義理とか人情とかを持ち出されると僕も断り辛いんだけど、僕には無理だよ……。
「で、出来ないよ。僕には荷が重過ぎるよ……」
「駄目よ! お殺りなさい! 私の為にそいつらを皆殺しにするの!」
「……無理だよ。出来ないよ。そんな酷い事なんて……」
僕の言葉も頭に血が登ってしまった眼鏡お姉さんには届かない。
それでも男の人達が僕に縋り付く様な視線を投げ掛けてくる。僕は正に板挟みな状態で決断を迫られているんだ。
良し、彼等は見捨ててしまおう!
僕は非情とも取れる決断をしたんだけど、元々彼等と知り合いでも何でもないし、ただ僕が自分で酷い事をしたくないだけだから彼等がどうなってしまってもそれは僕の預かり知る事じゃないし。
「……さあ、お殺りなさい」
「ま、待って! こういうのは自分でやった方が良いよ。うん、絶対そうだよ。そうしよう」
僕は名案と許にムチを眼鏡お姉さんに返そうとしたんだけど、眼鏡お姉さんは全然ムチを受け取ろうとはしないんだ。
「マナブ君が殺るのよ。そう、私の為にね……。これは言わばお友達としての義務よ。マナブ君、殺らないって言うなら、ぜ、絶交よっ!」
「うん、良いよ!」
絶交する積もりなんて全然なかったんだけど、僕にとっては正に渡り船だって思ってしまって、僕とした事がつい返事をしてしまったんだ。
道端で五百円玉を拾った時と同じ位に嬉しいと思ってしまったんだけど、良く考えるとここで絶交してしまったら僕が危険だっんだ。
「駄目よ! 絶交は嘘なのよ、冗談なのよ! 何よ! ちょっとしたお茶目じゃない! 本気にしないで!」
「解ったから落ち着いてよ。僕も絶交する気ないから……。だけど、お仕置きも嫌なんだ……」
「……駄目よ! そんな事を言うマナブ君にもお仕置きよ! もう駄目! お仕置きしちゃうわ……」
……その後、僕はムチをひったくられ、もう少しで叩かれちゃうって時に、何処からともなくマークの声が聞こえて来て僕を助けてくれたり、マークがそのまま眼鏡お姉さんと勝負したり、マークが負けそうになったりと色々あったけど、僕は何時の間にか眠ってしまってて気付いたら自分のベットに居たんだ。それで僕はそのまま学校に行って良いって言われたから学校に行ったんだけど疲れてたから言い訳を考えながら学校を後にしたんだ――
「――と言う訳で僕はとっても疲れてるんだ!」
「そいつは大変だったんだねマナブ君? でも何で病院に?」
「お見舞いのついでにジョージに言い訳を考えてもらおうと思ったんだ」
「それなら話は簡単だ。マナブ君はお見舞いする為に学校を抜け出した、理由はこれで十分だよ」
ジョージって意外と頼りになるんだ。お見舞いに来といって良かった!
続く




