闘え マクギブソン! 駅前編
歩きながら考える、僕はA子お姉様に本当に勝てるんだろうか……
学生さんに駅前まで連れて来て貰った僕は、比較的簡単にA子お姉様を見つける事が出来たんだ。
だって、あんな所で仁王立ちされたら目立ってしまってしょうがないよ。
僕は学生さんにA子お姉様に声を掛けて来る様に言ったんだよ。
学生さんは僕の指示通りにA子お姉様に声を掛けようと、A子お姉様の肩に手を置いたんだけど、手を置いた瞬間に強烈無比な張り手を喰らわされてたよ。
A子お姉様の場合、ビンタなんて可愛らしい物じゃなくて、相手の事なんかこれっぽっちも気にしない物凄い勢いで放つ張り手なんだよ。
何でもマスヨお姉さんの話に因ると、A子お姉様の張り手は音速を超えるらしいんだ……
実際にA子お姉様の張り手を喰らった事の有る僕だけど、少し離れた所から観てみると良くあんな物を喰らって無事だったなって、少しだけ怖くなって来ちゃったんだ。
張り手を喰らった学生さんは口の中が切れちゃったのか血をどぼどぼ吐きながら、そのまま動かなくなっちゃって、僕もこんな風になりたくないからA子お姉様に見つかる前にどこかに隠れようと思ってたんだけど、既にA子お姉様に気付かれてたのか、A子お姉様が僕の方に足早に歩いて来てしまったんだよ。
どうしよう……今、初めてA子お姉様に気付いたって風に行けば……嫌、やっぱり駄目か……正直に謝って許してもらおう……
「ちょっと、マナブ君じゃない! 何してるのよこんな所で? って、そんな事より聞いてよ。今ナンパされそうになったのよ! 嗚呼、ホンット私って罪な女だったのね!? ちょっとビックリして思わず叩いちゃったんだけど……まぁ身の程知らずな馬鹿な男には私のビンタだけで満足だったみたいね。だってあの人、余りの嬉しさにそのまま昇天してしまったんですもの。クスクスクスクス」
あれっ!?
もしかしてまだバレてないの?
僕がA子お姉様をやっつけようとしてた事や、学生さんを使ってA子お姉様の体力が消耗した処で僕がトドメを刺そうとしてた事も、まだバレてないの?
チャ、チャンスだ僕っ!
僕の持てる全ての力を使って誤魔化さなきゃ……
「ま、全くA子お姉様に声を掛けようなんてとんだ不届き者です、よね……?」
「……ホントよねぇ。クスクスクス」
A子お姉様は、クスクスと笑いながら僕の肩に手をまわしてきたんだ。
僕は怖くなって鳥肌が立ってきちゃったけど、必死に愛想を振り撒く事に専念したんだ。
「ホントに、僕がたまたま駅前に来て、たまたまA子お姉様を見つけたら、たまたまA子お姉様が暴漢に襲われそうになってるじゃないですか!? たまたま此処に居合わせた僕はもう必死になって叫びましたよ。
……まぁ、慌てて駆け付けようとした時には既にA子お姉様がやっつけていらっしゃったので……。
ホント、たまたま居合わせた僕のナイスなアシストがなければA子お姉様も危ない処でしたよ。なんてったってA子お姉様がたまたまやっつけた奴は、そりゃあもうご近所さんで噂になってる程に有名な小悪党なんですから」
僕は、どんなに嫌いな相手にだって笑顔で胡麻すりが出来たる、そんな日本人なのさ……
「……全く、タマタマ、タマタマってホントに下品なガキンちょねぇ?
偶には私みたいに社会の役に立ってみようっていう熱い気概を持たないと良い大人に成れないわよ?」
クソっ!
なんで僕がこんな奴に怒られないといけないんだよ!
言い返したい……、でも駄目だ。僕はいつだって事なかれ主義で平和的に解決して来たんじゃないか、大人に成れ大人に成るんだ僕ッ!
「良し! ……えへへへへへ、いやぁ〜それにしてもお強いですね?流石A子お姉様ですよ。やっぱり何かやられてるんですか?」
僕は気合を入れ直し、お説教を止める為にA子お姉様におべっかを使い始めた。
この手の人はたぶん自分大好きで自慢好きな人が多いから、適当に突けば勝手に自慢話を始めてくれる……はず、だと思う。
「ちょっと、何とち狂った事言ってんのよ。
行き成り叫んだりして、頭が悪い事を全面に押し出しちゃったりしてんじゃないわよ。
それからあなた、私のファン倶楽部の名誉会員のくせにそんな事も知らないなんて……、マナブ君、あなた私の事をからかってんの?
だってそうでしょ?
仮にも私のファンだって公言してるんだから当然それ位は自分で調べてるわよね?
もし本気でそんな事を言ってるんだったら、私はマナブ君の舌をもう二度とふざけた事を吐かせないように引っこ抜かなきゃ、いけ……いけ、クスクスクスクスクスクス」
ヤバいよ、理不尽だよ、なんとか取り繕わないと。このままじゃ都市伝説のネタにされちゃいそうだ。
「あの、その、えっと、ほらアレですよ。
ホントは知ってるんですけど、あの、ド忘れしちゃって……。
でももう大丈夫、思い出しましたから、ほら、えっと、その、アレですよアレ、淑女のたしなみってやつです……よね?」
「ホントにねぇ。本物の淑女ならこれ位は出来て当然ですものねぇ?
だってそうでしょ?
今の世の中って物騒じゃない?
だから、いつお腹を空かせた狼達に襲われても良いように小さい時から総合格闘技的な物をちょっとね……クスクスクスクス」
よ、良かった。なんとか誤魔化せたみたいだ。
僕はこの時、あからさまにほっとしてしまったんだ。
僕がしまったと思った時には既にA子お姉様に腕を掴まれて、逃げる事も叶わない状況に追い込まれてたよ。
「……マナブ君、あなたは何を安心しているのかしら?
あなたが私に何か隠してるって事はとっくにお見通しなんですからね!」
マズイ、僕の計画がバレてる!
僕は必死になって掴まれた腕を振り解こうとしたんだけど、ガッチリと掴まれた僕の腕はぴくりとも動かない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
落ち着け!
落ち着くんだ僕!
考えろ、考えろ、考えろ。良し、誤魔化そう!
「……い、嫌だなぁ。僕がA子お姉様に隠し事なんて出来る訳ないじゃないですか?
近年稀に見る程に心根の清らかなこの僕が隠し事!?
ハッ、ハッ、ハッ……、全く持って不愉快だ!
僕はもう帰らしてもらうよ」
そう言いながらも掴まれた腕を振り解こうとしたんだけど僕の腕は一向に動く気配を見せない。それ処か僕の腕を掴む力が段々と強くなってきたんだ。
「……マナブ君、何を隠してるの?」
「そんな、隠し事なんて……」
僕と目が合ったA子お姉様は僕に向かって微笑んでいたんだ。僕にはその微笑みが悪魔の形相に見えるだよ。
僕はそのまま愛想笑いで誤魔化そうとしてたら、A子お姉様は徐に掴んでいた僕の腕を雑巾でも絞るように捩じ切ろうとし始めたんだ。
「い、痛い、痛よ!
離してよ!
お願いだから、ちゃんと言う事聴くから、良い子になるから!
もうお家に帰してよ!」
ここは駅前、人は大勢いる。僕はわざと周囲の人に聞こえるように大声を出したんだ。
気にしろ気にしろ、世間体を気にするんだ。僕は幼気な少年を演じながらも心の中でそうほくそ笑んでいた。
案の定すぐに僕達の周りに人が集まり始めた。その中から一人、正義感の強そうなおじさんがA子お姉様に近づいてきた。
掛った!
僕はガッツポーズしたいのを必死に抑え込んだ。
「ちょっと君、こんな子供に可哀想じゃ……」
「だまらっしゃい!
部外者はすっ込んでなさい!
……クスクスクスクス」
言うが早いかA子お姉様は張り手を使っておじさんを黙らせていた。
地面に平伏し沈黙するおじさんを蔑むように見下しながらクスクス笑っているA子お姉様を見て、僕は何故か少しほっとしてしまった。
自分の作戦が失敗してしまったのにも関わらず。
やっぱりマークじゃないとA子お姉様は倒せないんだ、僕はそう思った。
「……全く、とんだ邪魔が入ったわね」
A子お姉様はそう言うとおじさんのお陰で有耶無耶になっていた腕絞りを再開させようと笑い始めた。
僕は焦った、僕の腕を絞ろうと微笑むA子お姉様は、綺麗だとはお世辞でも言えなかった。
「ま、待って!
全部白状するから!」
ここまで来たらしょうがない、僕だってこんな処で腕を再起不能にしたくないから少しだけ話そうと決めたんだ。
だって僕、こんな事でアクションスターに成る夢を諦めたくないもん。
「……? そんな事もうどうでも良いのよ。クスクスクスクス」
僕がせっかく譲歩しようって言うのに、でもそれだけでは僕の腕を絞る事に夢中になってしまったA子お姉様を止める材料にはならなかったんだ。
僕はなんとかA子お姉様の気を逸らそうと必死になって叫んだ。
「クソっ! なんで! 僕の演技は完璧だったはずだ! どんな裏技を使ったんだ……。最期にそれだけ教えてよ! イヤ、せめていつ気付いたかだけでも教えて下さい!」
お喋りなA子お姉様の事だからこう刺激すれば聴いてもいない事まで話してくれるはず……、だ。
「……フフフ、知りたい、知りたいの?」
A子お姉様の動きが止まったんだけど、表情は変わっていない。これじゃあ判断が付かない。良し、後押ししよう。
「えへへ、僕ってA子お姉様のお話って楽しいからとっても大好きなんだ! だからお願いだよ、僕にお話を聴かせてよ」
「フフフフフフ、マナブ君も偶には可愛らしい事を言うのね。しょうがないお姉さんが楽ちい楽ちいお話を聴かせてあげまちゅからね〜、クスクス、バブバブ、クスクスクスクスクス」
助かった、助かったんだけどなんでこんなにムカつくんだ。赤ちゃん言葉なんて使って絶対に僕の事を馬鹿にしてるよ。でも助かったんだ、僕の作戦は上手くいったんだぞ、笑え、笑うんだ僕!
「えへへへへへ、それでなんで解ったんですか?」
「もう、マナブ君はホントにせっかちさんねぇ、クスクスクス。
そんなの『ティーン』な乙女の勘に決まってるでしょ? クスクスクスクス」
クソっ! なんでわざわざティーンを強調して来るんだ。結局はただのあてずっぽうじゃないか。なんでなんだ解らない……
「あっ! そう言えばマークがティーンを舐めちゃいけないよって言ってたような気がする……」
「マナブ君、漸く乙女心が解ってきたようね?」
僕は少し大人に成れたような気がしたんだ。
「……でも、今からそんなんじゃ将来が心配だわ。仕方がないからマナブ君も私のお仕置き部屋に連れて行く事に決めたわ。今! 決めたわ。そうと決まったらマナブ君、そこに倒れてる輩を連れて私の後に付いてらっしゃい」
僕はまだ気絶している学生さんとおじさんを引っ張っていかないといけないみたいなんだ。こんなに重そうな人達をどうやって……
マーク、早く僕を助けてよ!
続く




