闘え マクギブソン! 中編
どうしよう、いよいよもって大変だ……
そう言えば僕ってここに越して来たばかりだったんだッ!
地理が全然分かんないんだよ。
どうやら住宅街から外れてしまったみたいで、見渡す限り田んぼしか無いんだ。
今さら来た道を戻るのも僕のけして少なくないプライドが刺激されちゃうから嫌だし……
僕は十字路の目の前で立ち止まり少し考えたんだ。
ここは左に曲がるべきなのかな?
それからもう一回左に曲がればまた住宅街の方に戻れると思うし。
でも、この道を左に曲がった先が行き止まりになってたらどうしよう……
まぁ、田んぼ道だからそれはなさそうなんだけど、やっぱり右の道もすて難いよ。
イヤっ! 僕は男だ真っ直ぐ行こう。
「待てい!」
僕は決意と共に足を進め様としてたんだ。
なのに、後ろから僕に声を掛けて来る奴がいたんだよ。
「その道を通りたければ有り金、全部置いてきな!」
なんだ? 僕の折角の決意を踏み躙ろうって言うのか?
何かを決意するって言うのは結構、精神擦り減らす事なんだよ?
分かってるの?
なんだかむかついて来たよ……
ド畜生っ!
こうなりゃ決闘だ!
僕は一言文句を言ってやろうかと後ろを振り向き、僕が出来る一番険しい顔で睨み付けてやったんだ。
「どうした? ボーズ、難しい顔して?
もしかしてお金持って無いのか?
それなら家から……」
なんだこいつは、勝手に一人で話して。
僕はまだ何も言ってないのに……
それにちょっとは怯んで欲しかったな……
なんだよ!
僕が睨みを効かせたらマークだってたじたじになっちゃうんだぞ!
こんなヘナチョコ、僕がけちょんけちょんにしてやる!
ああっ!
……し、しまった!?
よくよく考えたら僕の方がヘナチョコじゃないかぁ!
何時もマークと一緒に居たせいでみんなヘナチョコに見えちゃうんだよ……
小学生の僕にどうしろって言うんだよ!
いくら僕が功夫の達人だからって、流石に体格の差があり過ぎて……
くそッ! マークったら一体どこで何してるって言うんだよ!
それに小学生からお金を取ろうなんてコイツは何を考えてるんだよ。
「ねぇ、なんで僕がお金を払わないといけないの?」
僕が問掛けると学生さんはさっきまでと違い、急に悲しそうな顔をしたんだ。
「なんでって……
通行料だよ……
俺だってホントはこんな事……だけど、俺んちは先祖代々これで飯喰ってんだよぉぉぉおお!」
普通に働きなよ、とはなんか可哀想だから言わないでおく事にしたんだ。
だけど、通行料って子供料金で半額とか無料にならないかな?
一応、聞いてみないとね、ここで恥ずかしがって何もしなかったら、安く出来る物も安くならないからね。
だって、一回や二回位じゃ大した事無いかもしれないけど、一生で考えたら、何百、何千、何万、果ては何億とかになるかもしれないからね。
流石僕だよ、皆が皆、僕みたいに確りしてたら怪しい宗教とかマルチ商法とかに引っ掛かる事も無いと思うね。
そんな事を思ってたら何処からともなく拍手が聞こえて来たんだ……
ああ、なんだ幻聴か……良くある、良くある。
最近思うんだけど、これって幻聴なんかじゃなくて実は神様のお告げなんじゃないかな? って考えてるんだよ。
この前だって僕が部屋で寝てる時に窓ガラスを誰かが軽くノックしてるみたいな音がしたんだよ。
僕は飛び起きて窓ガラスの外を見たんだ、だけど外には誰も居なかったんだよ。
とっても不思議でしょ?
僕は神様だって確信してるんだけど。
この話しをみんなにしたんだよ。
そしたらみんながなんて言ったと思う?
奴ら全員が全員、僕を小馬鹿にしやがったんだよ!
畜生! 僕が子供だと思って見下して!
僕が政治家になったら消費税二百パーセント位にしてやるんだからな!
まぁ、政治家になる気なんてないんだけどね。
それから、みんなが僕になんて言ったかなんだけど、まずマークに自慢したんだ。
そしたらマークはこう言ったんだ。
「……それって誰かの悪戯ではないのかい? 私も小さい時は良く民家に小石を投げ込んでいたよ」
だってさ、マークって本当にしょうもないよ……
次にナッちゃんに自慢したんだ。ナッちゃんなら僕の事分かってくれる、そう信じてたんだ、だってたった一人の妹だもの、そして僕はお兄ちゃんだもの、なのにナッちゃんったらこんな事言うんだよ。
「ようせいさんがきたの〜?」
だってさ。
僕は、そんなメルヘン感じてる程、子供じゃないんだよ……
その後、このやるせなさを分かってもらおうと、ジョージに会いに行ったんだけど、ジョージったらうんともすんとも言わないんだ。
僕はジョージに遂にお迎えが来ちゃったのかと心配になったんだよ。
だから、ジョージの鼻に必殺パンチを叩き込んでジョージの事を起こしてあげようとしたんだけど、思いの他に僕の必殺パンチが効き過ぎちゃったみたいでジョージったら発狂する程に僕の気遣いを喜んでたよ。
でも、その後ジョージったら『鼻が、鼻が……』としか言わなくなっちゃたんだよね。
ジョージってホンっトに肝心な時に頼り無いんだよ。
困ったもんだ。
でも、ジョージのおかげで少しだけスッキリする事が出来たんだ。
僕は気分良く家に帰って、この話を母さんにしてあげたんだ。
僕は選ばれた存在でとっても凄いんだって自慢して、母さんも鼻が高いでしょ? って教えてあげたんだけど、母さんったら……
「ただの風でしょ?」
だってさ。
うん、全く持ってその通りだね!
実は、僕も薄々気付いてたんだ。
だけど、僕だって少し位は夢見たって良いじゃないかっ!
酷いよ……
「おい、ボーズ。
さっきから何をブツブツ言ってるんだ。
良いから早く金をだせ!」
あれ? この人誰だっけ?
まぁ、どっちにしろいきなし金出せなんて言われたら、流石の僕だってプッツン来ちゃうよ。
「なんで!?」
だけども、僕は紳士だから一応は理由を聞いてあげる事にしたよ。
「なんでって、さっきから通行料だって言ってるだろッ!」
なんだよ!
直ぐに怒鳴っちゃって、どんだけカルシウム足りてないんだよ!
僕だって怒る時は怒るんだぞ!
こいつにも、僕の凄さを解らせてあげなければ……
「うるさいッ!
寧ろ貴様が払え!」
「なんで!?
なんで俺がお前に金払わなきゃならんのだ!」
はぁ〜、ホント面倒くさい人だね。
まだ解ってないみたいだよ。
「うるさい黙れ!
そして良く聴けッ!」
「な、なんだ!?」
「……僕には、神のお告げが聞こえるんだ!」
僕が、余りに凄い人物だと言う事に気付いたのか、学生さんは大口を開けながら身体全体を使って驚きを表現してるんだ。
そんな事しなくたって僕の凄さに驚愕してるって事ぐらい、気付いてあげてるよ。
「……はぁ?」
『はぁ?』ってなんなんだよ!
その『はぁ?』に
「はぁ?」って感じだよ。
ちゃんと僕が予想した通りのリアクションしてくれないと。
「何かと思ったら、神のお告げが聞こえるだって?
面白い事を言うボーズだな〜、それじゃあ神様は今なんておっしゃってるんだぁ?」
こ、こいつは、僕の事を小馬鹿にした喋り方して……
もう、ホンットにムカッと来たよ!
解ったよ、そんなに知りたいなら教えてあげるよ。
「……神様は、こう言ってるよ……
地獄に堕ちろ! ッてね」
僕は人差し指を突き付けながらも、親切丁寧に教えてあげたよ。
「さぁ、教えてあげたんだから有り金を全部置いて行ってもらおうか?」
「……な、何だと!
このクソ餓鬼がぁ!」
学生さんは、プルプル震えてたと思ったら次の瞬間に僕に襲いかかって来たんだよ。
ホンットに、身の程知らずも此処まで来ると怒りを通り越して逆に呆れてしまうッてもんだね。
「おっと、何すんの?
そんな事したら危ないだろ!?」
学生さんは僕に襲いかかって来たんだけど、ただ真っ直ぐに、しかも余りにもノロマ過ぎて、あくびが出ちゃう位に余裕で避ける事が出来たんだよ。
「おい! クソ餓鬼!
避けんなよ!」
「避けるなって、避けないと危ないだろっ!」
ノロマなのは良いんだけど、捕まったら流石に体格の差が有るからね。
僕は右に左に学生さんの攻撃を避けてたんだけど、いい加減に嫌になって来たよ。
……ああ、本当に無駄な事が好きな人だね?
流石の僕でも疲れるものは疲れるんだよ……
……ああっ!?
良い事を思い付いちゃった!
僕は足を止めて、亥みたいに突っ込んで来る学生さんに声を掛ける事にしたんだ。
「ちょっと待った!」
僕は両手を前に出して止まれの合図を送ったんだ。
そしたら学生さんも律義に止まってくれたんだよ。
「……なんだ?」
学生さんは不機嫌そうに返事して来たんだけど、なんだかそんな風にされると僕もムカッと来るよね?
だけど、ここは僕が我慢してあげる事にしたよ。
だってそうしないと話が進まないんだもん……
「……お兄さん、お金が欲しいんだよね?」
「……ああ」
「……実は僕、一円も持って無いんだ」
学生さんの眼が険しくなったんだけど、ホントにイラって来るよ。
……我慢、我慢。
「だけど、駅前に連れてってくれたら僕の代わりにお金を払ってくれる人を紹介してあげるよ……」
「……本当だな?
解った。駅前に連れてってやるよ。
その代わりちゃんと金払うんだぞ」
学生さんは嫌な笑みを浮かべたんだ。
僕はそれを見て独りほくそ笑んでしまったよ……
憐れな子羊を思って……
続く




